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3章_12話

「クロッシは男だぞ」


レイルからの情報に少し修正を加えた。

帰らないという話は気になるが、まずはそこからだ。


「いや、彼女は女の子だよ。だってお姫様だし」

「えっ」

なに言ってんのこの人。

「姫様?」

「そうだよ。小国だけど立派な姫様。内情が不安定だったから一時的にクダン国に亡命してたんだ。えっ?本当に知らなかったの?」

「あ、はい」


もうなんて言ったらいいのか、開いた口が塞がりませんね。


「本当に?」

「本当だよ」


ヴァインを見ると、彼も頭を抱えていた。

何か言いたそうにしているが、言葉がでないようだ。代弁しよう。

「なんてことだ!」これに違いない。


この部屋で、あんなことも、こんなことも、いろいろしたのに、クロッシは女の子だったのか。

体とかめっちゃ触ったけどいいのかな?

いや、ていうか姫様なのか。


確かに上品だったし、仕草なんかもおしとやかだったけど。

うん、素直にびっくりだよ!


「どうする?」

「どうするって?」

レイルからの質問の意味がわからず聞き返した。


「彼女国に帰ったし、もうこの学園にも来ないよ。こちらから会いに行かないともう二度と会えないかも」

「そうなのか?」

「そうだよ。彼女も大変な立場だし、そうそう他国へは行けないよ」

「会いに行くったって、学園もあるし」

「休めばいいじゃない」

「あ、確かに」


いつの間に俺は堅物男になっていたのだろう。

学園をサボる考えすら出てこなかったとは。


「どうする?ヴァイン」

一応聞いてみた。

「…行こうか」

だよね!!


学園にも戻って早々、我々は学園を出発することになった。

ヴァインと一緒にまた馬車に揺られる日々が来る。

二人だけでよかったのに、なぜかレイルまでついてきた。

「いいじゃない」と押し切られ、狭い馬車で男三人暑苦しく身を寄せ合っている。


クロッシは一体どんな気持ちで俺たちと一緒にいたのだろう。

彼女の気持ちなんて知る由もなかったし、今更彼女が当時どんな気持ちか考えるのも無駄な気もするが、馬車の中では彼女のことばかり考えていた。


俺は楽しかったけど、クロッシは楽しかったのだろうか。

ヴァインもそんなことを考えているのか、馬車ではあまり話さなかった。


「クルリくん、 着いたらどんな話をするの?」

「うーん、わからない」


あんなに気兼ねなく話せたのに、彼女の立場が分かった途端何をはなしていいのかわからなくなっている自分がいた。


結局2週間ほどかかった道のりもあっという間に過ぎさり、クロッシの国へとたどり着いた。


すごく田舎だが、王城近くは少しばかり栄えている。

漁業が盛んな国だと聞いている。

きっとあまり大きな施設などは必要ないのだろう。

民の生活も質素だが、豊かなものに見えた。


王城に着くと、すぐに中に入れてもらうことができた。

レイルが事前に文書を送ってくれていたらしい。

アポなしで来たつもりだったが、今になってなんて無謀な!と思っている。

レイルは裏でいろいろ動いている。よくも悪くも。


客間と思われる部屋で1時間ほど待たされた。

食べ物や、書物なども用意されていたので退屈はしなかったが、気持ちは一度も落ち着かなかった。


客間の扉が開き、ようやくクロッシ本人が現れた。

綺麗なドレスを見に纏い、顔にも綺麗に施された化粧がのっていた。


「クロッシ!」

「師匠!それにヴァイン!と、その人誰ですか?」

レイルのことは知らないようだ。

クロッシは知らないのに、レイルは知っていた。

怖っ!この人怖っ!


「ああ、あれは気にしなくていいよ。それよりもびっくりしたよ。まさかお姫様だったなんて」

「すみません。状況が状況でしたので、話すわけにもいかず」

「いいんだよ。情勢も落ち着いたと聞いているし、無事に過ごしているならそれでいい」

「はい、状況が二転三転しまして、急遽学園もやめることになり、師匠達に挨拶もできなかったことを後悔していました。こうしてきてくれたことを感謝しています」

クロッシがドレスをちょこっと持ち上げ、綺麗な仕草で礼をした。

ああ、お姫様なんだな。

なんだかこの時、すごく納得し、すごく距離が離れた気持ちになった。


「あの、師匠。ヴァインは怒っているのでしょうか?」

なかなか近づいて来ないヴァインを気にして、クロッシが小声で話しかけてきた。


後ろを振り向くと確かにヴァインは近づいてきておらず、ずっと窓の外を見ていた。

クロッシに一番会いたがっていたくせに、なぜこないのか。


「ヴァイン」

しょうがないので呼んだが、反応はない。


「俺はいい」

なんだか、知らない人と話す時のヴァインになっている。

寡黙で、愛想がない。


「でも、クロッシが来てるし、もう学園じゃ会えないんだぞ」

「…」

「いいのかよ、ヴァイン」

「…」


ヴァインは俯向くだけで、何も言わなかった。

本当は話したい気持ちがジンジン伝わってくるのに、何が彼を押しとどめているのだろう。


「師匠、私もそれほど時間がありません。もし話したいことがなければ、私はこれで」

「もう行くのか?」

「すみません、溜まっている政務が多くありまして、この後も会食などの予定が入っています。師匠達は急がないでください。この国を観光していってくれてもいいですよ。多分私は一緒できませんが、帰る際には挨拶に行きますので」

「そうなのか。クロッシも大変なんだな。もっと話したかったけど」

「私もです…」

クロッシの言葉には少しだけ、重たく暗い空気が混じっていた。

一番話したいはずのヴァインが口を開かないのだ。


結局二人は口を交わすことなく、その場で別れた。



残された俺たちは何かをやる気分にもなれずに、そのまま王城で1日過ごした。

一晩泊まって、国に帰ろう。

これで意見はまとまった。


夜中にベッドの中でいろいろ考えた。

クロッシにもう会えないかもしれないと思うと、とても悲しい。

ヴァインも同じ気持ちなはずなのに、なんで何も言わないんだ。

そんなモヤモヤが頭の中に巡りめぐり眠れない。


「眠れないのかい?」

隣のベッドで横になっているレイルも起きているみたいだ。

ヴァインはすでに部屋を出て何処かへ行った。

三人とも眠れない夜だった。


「眠れない」

「子守唄を歌おうか?」

「いらない」

「添い寝?」

「いらない」

「腕枕?」

「おやすみ」

「ああっ」


レイルの無駄話を華麗にスルーして、なんとか目を瞑り、考えが巡らないようにした。


「ねえ、好きな人いるの?」

レイルからの茶々が入る。


枕を投げて黙らせておいた。


重く、湿った長い夜が過ぎ去った。




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― 新着の感想 ―
[一言] うぬう、結局のところラーサー姉とクロッシ姉はヘラン領に辿り着く前に、逃避行もお開きになっちゃったのね、残念!
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