表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/155

3章_9話

そういえばエヤン・ドーヴィルが言ってたっけ。

国王より上の人物から口出しがあったと。

国王よりも上の人物か・・・。

しかし、客観的にそんな人物など存在しない。


「エリザ、もしかして君がお父さんに何か言ったのかい?」

「何かとは?」

「そのー、ヘラン領のことについて何かお願いしたとか」

「さて?なんのことでしょう」

そう言って、少しだけ微笑む。

イタズラした後の少女のようだ。やっぱりそういうことらしい。


「そうか、ならいいんだ。・・・でも、ありがとう」

「感謝される覚えはありませんわ。私は夏季休暇に友人宅に遊びに来ただけですから」

「そうだね。なら一緒にヘラン領を楽しもうか」

「ええ、是非」



自然とエリザの手を取り、屋敷に招き入れた。

キャッと小声で反応されて自分の行動をようやく顧みることができたが、まぁいいや。

今は気分が高ぶっていて小さいことにまであまり気が回りそうにない。

女の子の手くらいなら握っても許されるだろう。


エリザを屋敷に招き入れ、庭に面した場所に座らせた。

それから俺はスイカをとってくる。


目の前でスイカを半分に、さらに4等分に切り分け、それを渡す。

俺も一切れとり、エリザの隣へ。


「これは?」

「スイカだよ。あまくて、みずみずしくて美味しい果物だ」

「へぇ、珍しいものがありますのね」

そう言いいながらも、迷わずかぶりつく。


「んー!美味しいぃ!!」

目を見開きこちらを見た。

顔は満面の笑みで。


「そうだろう?」

俺もかぶりつく、ヒンヤリして甘くてみずみずしい。

「んー、んまー」

「ところでこの黒い種はどうしたらいいのでしょう」

「それはね・・・」

ぷっ!と思いっきり口から噴き出す。


できるだけ遠くに飛ばし、茂みに隠れるようにするのがプロの仕事である。


「こうやって吐き出す。これが正しいスイカの楽しみ方だ」

「えー、下品ではありませんか?」

そう言われてしまうと、そんな気もする。


「確かに、特にエリザのような御淑やかな娘がやることではないかもしれないね」


ぷっ!

と言ってる隣で、エリザが勢いよく噴き出した。


「いいね!それこそスイカの醍醐味だよ」

「ふふ、合格点はもらえそうですか?」

「もちろん!ていうか俺より飛んだんじゃないのか?」

「大きくとばしたほうがいいのですか?」

「ああ、茂みに隠れるくらいが一番いい」

ふふふ、とエリザが隣で笑ってくれる。

ちらりと横目で確認するが、やはり綺麗な顔をしている。

それが笑うと余計にかわいくなる。

それにスイカで濡らした唇がなんとも・・・。


スイカをかじるふりして、もう一度ちらりと見た。

うん、きれいだ。


思えばエリザとこうして話すのは初めてかもしれない。

それに我が家で、二人きり・・・。


おっと、よこしまな考えはこのくらいにしておこう。


「それにしても、この種がなければおいしく実だけを贅沢に食べれるのですが」

「うん、でもなかったらなかったで寂しいものな気もする」

「そうでしょうか?私は邪魔者は徹底的に排除しておきたい性分でして」

あ、やっぱりそうなんだ。

ちょっとだけ背筋がぞくっとしたよ。


「しばらくヘラン領にはいられるの?」

「今日だけはこちらにいられます」

「じゃあ今日はヘラン領を一緒にまわろう。いろいろ案内したいところがある」

「それは楽しみですね」


スイカを食べ終え、早速二人で出かける準備をする。


その前にまずは書庫のあの人を紹介しておこう。


二人で書庫へ趣、その人に会った。


「あちらはモラン爺。

モラン爺!こちらはエリザ・ドーヴィルさん。学園の友人で、今はヘラン領に遊びにきてくれている」

「初めまして、エリザ・ドーヴィルです」

エリザが見惚れる動作で一礼する。


「ほっほっほ、これはこれは、きれいな娘さんが来てくださいましたね」

書物を読んでいたモラン爺は頭を上げてこちらに挨拶した。


「モラン爺はいろんなことを知っている人だ。昔は良く勉学を見てもらっていた。小さいころから迷惑も結構かけているけど、ずっと良くしてくれている」

「そんなことはありませんよ。坊ちゃんは手のかからない子でしたから」

「ああやって昔からお世辞が得意なんだ。もう先も長くないし、何か話したいことがあったら今のうちにね」

「坊ちゃんは上手に毒を吐くようになりましたね。でも、このモラン爺は野望を果たすまでは死にはしませんよ」

腕を組みまだまだ大丈夫だとアピールするモラン爺。

あれならまだ死にそうにはないな。

ちょっとだけ安心したよ。


「老人は労わらなくてはいけませんよ」チクリとエリザからも指摘された。

「そうですじゃ。エリザ殿はよくわかっておる。是非ヘラン領に嫁いでもらいたいものじゃ」

エリザがキャっと顔を覆い、モラン爺がほっほっほと楽しそうにしている。


随分と相性がよさそうだ。

会って数分だが、既にモラン爺とエリザは打ち解けているようだった。二人で何か世間話もしている。

エリザは堅いイメージがあったが、モラン爺と普通に世間話をできているのがすこし意外だった。



書庫を後にし、今度は鍛冶を教えてくれた師匠のもとに案内した。

道中は二人で馬に相乗りした。

エリザが前で、抱え込むように俺が後ろに座る。


随分と興奮してしまったよ。

凄くいいにおいがするんだもん。

興奮が伝わったのか、馬もやたらと騒いでいた。


「師匠!久しぶりにかわいい弟子が来ましたよ!」

「帰れ!」

「帰りません!あちらが鍛冶職を教えてくれた師匠のドンガさん。見かけ通り頑固者だから」

「ええ、そんな感じがしますわ」

俺の言葉に納得するエリザ。

師匠は相変わらず仕事ばかりしている武骨な人間だった。


「こら!玄関口で悪口を言ってないで、中に入れ!何か食っていくか?」

「あれはツンデレと言う技だ」

「ツンデレ?」

「ああ、ツンツンした後にデレデレする高等テクニックだ。師匠は昔からああだ。怒った後には必ず褒めてくれる」

「ええ、そんな感じがしますわ」

「うるさいわ!いいからはよ入れ!」


師匠に言われるがままに部屋に入り、出された菓子などを食べた。

久々に来たこともあり、師匠は俺を歓迎してくれた。

一緒に来たエリザのことも気に入ったようだ。

「お前の許嫁か?」師匠がそんな無粋なことを聞いてくる。

エリザがまたまたキャッと可愛く反応し、師匠がそれをほほえましく眺める。


「手に職持ったんだ。貴族のしきたりなんぞ気にせず、はよう身を固めてもええんじゃぞ。ワシも若い頃に結婚しとる。結構いいもんじゃぞ」

「ええ、考えておきます」

「それにその娘は結構きれいではないか。いい嫁になると思うぞ。子供ができたらワシのところにも見せに来るんじゃぞ」

「はい」

なんか嫁入り前の挨拶みたいになってしまったので、早いとこ師匠のところから逃げ出した。

エリザは終始上機嫌だ。

なんだか師匠とも上手くやっていけそうな雰囲気である。



師匠のとこから逃げ出し、今度はエリザに我が領のおすすめの温泉に入ってもらうことにした。

一番おススメの花園に囲まれた温泉に入ってもらうべく、そこへ移動する。


温泉に着くや否や、休憩所でゆっくりと休んでいる父親に遭遇した。

一番高いお酒を手に、火照った体を覚ましているところだった。


「父さん、この温泉に来ていたんですね」

「ああ、ここの温泉はいいのー。ホッとするわ。あれ?そっちの娘は・・・、これか?」

と小指を立てる父親。

さっきまであなたが死ぬほど恐れていた人物の娘だと知らずに、小指を立てて調子に乗っているとは。

ふふ、ちょっとだけ地獄に落としてやろうではないか。


「こちらエヤン・ドーヴィル様の娘の、エリザ・ドーヴィルさんです」

「ああ、宰相様の娘でしたか。これはこれは」

父親が慌てて頭を下げ、二人で握手を交わした。

あれ?父親が腹を痛めていない。

なぜ!?

あの気の弱い父親が、エリザにはなぜか全く警戒心を抱いていない。

むしろ積極的に自分から近づいている。


二人はしばらく世間話をして、それから別れた。

父は屋敷に戻るらしい。


俺とエリザはそのまま温泉に入っていった。


男湯で一人のんびりとくつろいで、本日のことを思い返した。

朝から大変な一日だったが、何よりエリザのヘラン領への適応力に驚いた。


会う人会う人に気に入られていたと思う。

モラン爺に、師匠、更には一番のネックだった父親まで問題なかった。


なんだか、本当にこのまま嫁いでしまいそうな勢いだ。

まぁ、それでもいい気がしてきた。あれだけきれいな娘をもらえるなら俺も万々歳である。

火照った頭が考えることをやめさせ、俺の体はそのまま湯の中で伸びきった。


風呂上がりの休憩所でエリザを待っていると、髪を濡らした色っぽいエリザが休憩所に現れた。

タオルで髪を向きながらやってくる仕草がなんともエロティックだ。


「あ、あの、温泉はどうだった?」

なんだか緊張してしまう。

「よかったですよ。花のいい香りがまだ体に残っています。ステキですね」

いえ、あなたの方が素敵です。とはさすがに言えなかった。

薄着を一枚羽織、隣で髪を乾かすエリザ。

ちらちらとそれを見る純情な俺。

いや、いやらしい俺になりつつある。


「何か飲む?」

「冷たいお茶を頂けます?」

「すぐとってくる」

お茶を届けると、エリザはすぐにそれを口につけた。

ごくごくとそれを飲んでいく。

随分と喉が渇いていたようだ。

首筋から流れる汗がなんとも生々しい。

たまに口もとからこぼれるお茶も生々しい。

手を伸ばせば触れそうだ。何度か衝動に似たものが襲ってきた。

たまらんぜよ!!


気が付けば、エリザがお茶を飲み終わるまでずっと見続けてしまっていた。


「そんなに見ないでください」

言われてはっとする。

いかん、いかん。俺も自分のお茶を飲んで冷静にならなければ。

まさかずっと見てしまっていたとは。

エリザはどう思っているのだろうか。そう考えるとめちゃめちゃ恥ずかしくなる。


「今日はすごく楽しい一日を過ごすことができましたわ」

お茶を飲み終わり、エリザが切り出した。

「ヘラン領は気にいった?」

「ええ、とても」

「みんなもエリザのことを気に入ってたみたいだ」

「それは嬉しいことですわ」

「よかったらまた来てよ。みんな喜ぶと思うから」

「ええ、必ずまた来ますわ」


温泉から上がる頃、エリザが王都に帰る時間となっていた。

少し名残惜しいが、馬車に乗り去っていくエリザを見送った。

その後静かに一人で俺は家路につく。


一日、エリザと二人でヘラン領をまわった。すごく楽しかった。

そして今頃になって疑問に思う。


なぜ俺は今日一日、エリザに自分のルーツを紹介するようなことをしたのだろうかと。

不思議だが、案内している最中は不思議じゃなかった。

たまにはこんな日があってもいいのかもしれない。


何よりエリザが今日一日楽しそうだった。

それが一番大事だ。

暑い夏の一日にいい思い出ができた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] これは…てぇてぇ案件!
[気になる点] これはあれか、『できちゃった婚』フラグが立ったのだろうか? そう遠くない将来ドーヴィル宰相が引退する頃に、エリザ嬢がヘラン領にコッソリ居着いてしまう未来が見えてしまった
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ