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3章_6話

ラーサーが無理やりと兄のアークを馬車に乗せ、ようやく我が領を立ち去ってくれることになった。


「アニキ、色々と迷惑をかけてしまいました」

申し訳なさそうにラーサーが謝罪をしてきた。

ラーサーは良き来客だった。

来てくれるだけで嬉しい良き弟分である。

迷惑だなんてとんでもない。


「ラーサーには迷惑をかけられていないよ」

ラーサーには、としっかりつけておいた。


「兄がいろいろと、今度は私一人で来ますのでその時はまたよろしくお願いします」

「うん、ちゃんと一人で来るんだぞ」

一人で、の部分を強調しておいた。

もういろいろと背負うのは嫌だ。

休暇はちゃんと心も休ませてほしい。


「では、私と兄はこれで王都へ戻ります」

「ああ、ラーサーはまたいつでも来ていいからな」

「ありがとうございます。また会える日を楽しみにしています」


ラーサー一行の馬車は去った。

なんか馬車の中から悲壮感が漂っていたので、軽くお祓いをしておいた。


「ラーサー様が行っちゃったね」

いつの間にか隣に来たアイリスが寂しそうに言う。

ラーサー様・・・。

「ラーサーとアークが帰って寂しいな」

「うん、ラーサー様とやっと仲良くなれたのに」

ラーサー様・・・。

「ラーサーとアークは次またいつ来れるだろうか」

「ラーサー様は忙しそうだし、また冬の休暇とかになりそうだね」

アークがいない、彼女の中にいない・・・どんまい。


「アイリス、部屋に戻ろうか」

「うん」


ここ数日は実りの多い休暇を過ごすことができた。

それでいいのだが、ヴァインとアイリスはあくまで働きに来た意識を持っており、残念ながら俺ほどにリラックスしきれていない感じはした。


今日も二人ともなんだかそわそわしている雰囲気がある。

もうこれ以上休むのは申し訳ない、とそろそろ言い出しそうだ。


もちろん二人の気持ちには気づいているので、そろそろやるべきこともしようと思っている。


「ヴァイン、アイリス、仕事を頼みたいんだけどいいかな」

「ああ、退屈してたところだ」「もちろん」


トトとの試作品の顔パックを今日から販売しようと思っている。

別荘地に止まっている客に優先的にまわそうと思う。


「ヴァインは顔パックの植物を全部ロツォンさんのところへ運んでもらえるかな。馬車で全部運び入れてほしい。話はロツォンさんに通してあるから、現場でのサポートよろしく」

「わかった」

「アイリスは俺と一緒に販売をやってくれるかい?」

「うん」


早速別荘地へと趣、顔パックの植物はヴァインとロツォンさん指導のもと丁寧に運び込まれた。


ロツォンさんが用意してくれた販売スペースを借りて、別荘地の一角に臨時の顔パック売り場ができた。

商品も徐々に並び、昼過ぎに店をオープンした。


「さぁいらっしゃいませー」

早速ちょろちょろと通る奥様方に声かけをしていく。

「か、顔パックありまーす」

アイリスも慣れないが、頑張って声をだしている。


「あら、それは何かしら」

人通りの多い別荘地ではないが、金に余裕のある奥様方はとりあえず珍しいものには飛びつくらしい。

早速一人捕まえた。40代くらいの奥様だ。いかにも美にお金をかけていそうな雰囲気である。

「顔パックです。この植物の葉を一枚、顔に半日乗せておけば肌のあらゆるトラブルを改善してくれます」

「あら、ほんとかしら?」

「テストは済ませています。非常に美肌効果の高い優れた商品です。肌がプルップルになりますよ」

「プルップルに?」

「ええ、プルップルに」

「プルッーーープルに?」

「ええ、プルッーーーープルに」


「・・・じゃあ一つ頂こうかしら。おいくら?」

「今回が初めての販売ですので、今だけ特別価格で銀貨5枚です」

「はい」

奥様はすぐにバッグから銀貨を取り出した。

なかなかのチャレンジ価格だと思ったが、奥様方にはノーダメージらしい。

恐るべし財布力。


「どう使えばいいのかしら?」

「葉を一枚容器に入れてお渡しします。容器から取り出した後は、植物の効果の持続が8時間しかありませんので、お急ぎください」

「ふーん、そう。じゃあとりあえず使ってみるわ。効果がよかったらまた買いに来てあげる」

「はい、ありがとうございます。今回は数に限りがありますが、気に入っていただけたらまた来てください」


奥様は商品を受け取るとそそくさと帰っていった。

足取りが軽いので態度とは裏腹に意外と期待しているかもしれない。

女性は新商品と限定品に弱い、は本当だったようだ。


「いきなり売れちゃったね」

「ああ、びっくりした」

「銀貨5枚だなんて、一体どれだけの食料が帰るんだろう」

そういう目線になっちゃうよね。

銀貨5枚は安くなんかないぞ。むしろめちゃめちゃ高い。

本当に、いきなり売れてよかったよ。


「トト喜ぶかな」

「これからの反応次第かな」

そう、まだまだ売り出した直後なのだ。

これから客がまだ来るとは限らない。

それに客のリピートがなにより大切なのだ。

気を引き締めなくては。


「まだまだどうなるかわからない。俺たちで頑張って声を出して売ろう!」

「うん!頑張ろう!」

「あら、何を売っているのかしら?」

うわ、またいきなり来た!!

いや、来ていいんだけど。

今度もいかにもお金を持っていそうな奥様だ。

財布力、53万はありそうだ。


「顔パックですよ」

「あら、なにかしら?」

横から別の奥様が割り込み、顔を出す。

「顔パックですよ」

「あら、なになに?」

またまた別の奥様が割り込んで来た。

「顔パックですよ」

なになになに?とぞろぞろ集まる。

人が一人増え、3,4と増えるにつれて、一気に別荘地に火が付いた。

奥様方は行列に弱いと言うが、本当だったみたいだ。


俺とアイリスが頑張るまでもなく、およそ9割がた売れてしまった。

金に糸目を付けぬ、とかっこよく去っていった奥様方がちょっとカッコよかった。


「はー、めちゃめちゃ売れたね」

頑張って働いてくれたアイリスが満足な顔で言った。

「ああ、びっくりしたよ」


残った顔パックの植物は残り一鉢だけ。

日も大分傾いたので、もう店をたたむことにした。


後は客の反応を見て、今後の計画を立てよう。

あまりダメってことはないと思うが、一応明日もここにきて客の意見などを集めようと思う。

それ次第で、また今後売り出すかどうかを決めることにする。


「アイリス、お疲れ。ロツォンさんに声をかけて、ヴァインと一緒に帰ろうか」

「うん」

アイリスがほっぺを赤く染めて、少しだけ髪を整える。

乙女だねー、ほほえましいよ。ほほほほほ。

「少しだけ残っちゃったのが心残りだね」

「うーん、まぁあと少しだけだし、これは俺たちで使ってしまうか。ロツォンさんにも御裾分けしよう」

「うん」

アイリスの顔がまたも赤くなった。

ロツォンさんの名前を出すだけで赤くなるらしい、随分と幸せを満喫なさっているようだ。


「ロツォンさん、ヴァイン、今日はお疲れ」

裏方で働いてくれていた二人のもとへ行き、感謝の言葉を伝えた。


「久々に働いてむしろ心地いい気分だ」

ヴァインが満足げに言う。ありがたい限りだ。

「私も役に立ててうれしい限りです」

相変わらずのできる男、ロツォンさんだ。

今日も手堅く仕事をこなしてくれた。


「ロツォンさん、別荘地の管理もあるのに臨時で手伝ってもらったお礼。よかったらこの顔パックを何枚か持って帰ってよ」

「いいのですか?結構な値段がすると聞きましたが」

「いいんですよ。ロツォンさんにはいつも報酬以上の働きをしてもらっていますし」

「いや、それはどうも。では、一枚だけいただきます」

「一枚か、もしかして妹さんに?前にいるって言ってたよね」

「ええ、でも妹はまだまだ少女ですのでこんなものは必要ありません」

「では誰に?」

「妻に贈ろうと思います。日ごろからあまりかまってやれていませんので、お礼も込めて」


妻・・・。

ツマ・・・ツナ?いや、妻!


「ひょーーー!!!」

妻いるのかよ!?

妻帯者かよ!!

知らなかたよーーー!!


顔をゆがめて、奇声をあげる俺。

卒倒するアイリス。

笑いをこらえきれないヴァイン。

まさかの大どんでん返し!


「皆さんどうしました!?大丈夫ですか!?」

慌てふためくロツォンさん。


アイリスは意識が飛んだみたいだ。

ヴァインがかろうじて支えている。


「ロツォンさん、流石です」

俺は親指をぐっと立て、やはりロツォンさんはすごいと再度心に刻み、その場に倒れた。




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[良い点] 正直そんな予感はしていたw こんな有能な男そりゃ周りがほっとかないよ。
[良い点] 最高に面白いwwww どいつもこいつも純粋な気持ちで応援してしまいます それだけにアイリスは今回は残念でしたねえ アークはちょっとどうにもならんけど頑張れってことで エリザとの進展も楽し…
[一言] ドンマイアイリスわら
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