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2章_20話 閑話

2年生のテスト成績順位表は既に固まりつつある。

微々たる順位変動はあるが、ジャンプアップも滑り落ちる生徒もなかなかいない。


特に成績上位組はこれが顕著だ。

そして、今回でトータル4度目の一位に輝いた生徒がいる。


もちろん私、マリア・クダンのことである。


成績優秀、スポーツ万能、才色兼備の私なのだが、こうも張り合いがなくては人生も退屈なものだ。

人生刺激が足りないとやっていけない。


まぁ学園でやることもないので、とりあえず王都に帰ることにした。

別に帰りたくはないが、帰らないとお付きの人がうるさいのだ。

あーだこーだとウダウダ言ってくる。


帰ってもやることないのよねー、またヘラン領でも行こうかしらなんてことを考えながら長い旅路を済ませた。

帰ると変わらない王都がそこにはある。

確かに商業施設などは繁盛しているのだが、いまさら欲しいものもない。

さてさて、この夏はどう過ごしたものか。


そんなやる気のない夏季休暇を過ごしていると、お母様からの呼び出しをくらった。


どうやら隣国の王女様とその他もろもろの人物がやってくるらしい。

その相手をしろとのことだ。

こんなことになるのなら、さっさとヘラン領の新しくできた避暑地にでも行けばよかった。


その日はあっという間に来て、城の庭園でお茶会をすることになった。

テーブルを囲い、私を含めた10人ほどの女性が紅茶を飲みながら談笑するのだ。


誰かのつまらない話があり、皆がオホホホホホと笑う。

また誰かのつまらない話があり、皆がオホホホホホと笑う。

腸がねじれそうな気分になる。


あー、早く終わってくれないかしら。

そんな、オホホホホホ大会をしていると、ひょいっと可愛い顔した人物が現れた。


「皆さま初めまして、ラーサー・クダンと申します。急に現れてしまい申し訳ございません」

「あら、ラーサー」

来たのはラーサーだった。

太々しいアークとは違い、かわいい弟のラーサーだ。


「実はこれからヘラン領に向かうところです。それで姉さまに出発前の挨拶をと思いまして」

「えっ!?ヘラン領に」・・・私も行きたい。

でもこの状況が許してはくれない。

隣国の王女まで来ているのだ。


私が欲望の赴くまま抜け出して、ヘラン領に行っては一国の王女としての義務を放棄したも同然。

それだけはやってはいけない。しかし、方法がない訳でもなかった。

「ラーサーちょっとだけ待ってくれない?私も行くから」

私はこっそりとラーサーの耳元でそう伝えた。

「でもいいのですか?」

ラーサーが心配そうに小声で言った。

「まぁ見てなさい」


「いた、いたたたた!お腹が痛いわ!!」

私は急にお腹を押さえ、その場に膝をつけた。

片手も地面に着き、もう片手はお腹をさすり必死に苦しむ表情を作り出した。

「大丈夫ですの!?」

一緒に紅茶を楽しんでいた隣国の人たちと自国貴族の娘数人がが心配して駆け寄ってくれた。

よし、予想通りの展開だ。


「姉さん・・・」

横で白い眼をしているラーサーが気にはなるが、まぁ支障はない。


「どうなさったの?マリア様、最近便通の方が悪かったとか?」

声をかけてきたのは隣国の王女、イリーナ王女だった。

便秘を心配されているようだ。周りが、あらっとか言っている。いらぬ恥をかいた気がする。


「いえ、便通は良いです。でも、あいたたたたた!もう、ダメ誰か医者をお呼びになって」

「ええ、わかりましたわ。だれか急いでお願いいたします。その間に私は応急処置を」

「ありがとう。でも、医者がくるまでは何もしなくていいから」

「そんなわけにはいきません。どれお腹を触れせてもらいますよ。・・・張っていますね。もしかしたらガスがたまっているのではないでしょうか」

それは退屈な話の間に飲みすぎたお茶で水腹になっているだけだ、ちゃぽんちゃぽん音がしそうなほど飲んでしまったのだから。

絶対に屁ではない。


「マリア様、お恥ずかしい気持ちはお捨てになって!どうぞ放屁なさってください」

「いえ、そのようなものではありません!」

必死に弁明した。屁を我慢して腹を痛めた姫などと言う汚名を着せられては今後の人生に暗雲が立ち込めてしまう。

何が何でもそれだけは阻止せねば。


「あのーイリーナ姫、あまり心配なさらずとも大丈夫です。姉はこういう人なので」

声をはさんだのはラーサーだ。真実を知っているだけに冷静でもある。


「何をおっしゃってるの?あなたマリア様の弟でしょ!?心配ではないの!?」

若干の怒気をこめてイリーナ王女がラーサーに言った。

ラーサーは頭をポリポリかいて、どうしたものかと顔を俯かせる。


すまない弟よ。

イリーナ王女がここまでお節介焼きだとは知らなかったのだ。

「医者を連れてまいりましたわー」

同席者たちがようやく医者を呼びつけ、専属の医者が駆けつけた。


すぐさま私の腹部を触診し、首を傾げた。

彼には原因がわからないのだ。

それもそう、原因なのどないのだから。

これで医者は原因がわからず、とりあえず様子を見るために安静にしていてください、と切り出すだろう。

そして私は部屋に引きこもっている間に抜け出し、ラーサーと一緒にヘラン領に行くのだ。


その後は爺やに何とかしてもらおう。まだ体調が悪くて部屋から出られないだとかで、イリーナ王女たちが帰るまでそれでやり過ごすのだ。

これでよし。


「んー、あまり原因がわかりませんね。とりあえず部屋で安静にして様子をみて見ましょう。ひどくなるようでしたら、さらに詳しい検査が必要になりますが、それでよろしいでしょうか?マリア様」

完璧な診断だ。給料を上げるようにお父様に直訴しておきましょう。


「そうですね。痛みも少し収まったようです。とりあえず部屋に戻り安静にしてみますわ」

任務完了。あとは窓から飛び降り、ラーサーと共に避暑地ヘラン領に!!


それを見ていたラーサーは頭を抱え、やれやれとため息をついていた。

まぁこれで事は済んだのだから、いいではないか弟よ。そんなことを考えて、ちらりとラーサーに視線を送る。


「ちょっとお待ちになって!!」

大声を上げて呼び止めたのはイリーナ王女だ。なんだろう?

「私、心配だから一緒に部屋へ行くわ」

うっ。なんてお節介な。


「いえ、ご迷惑ですし。皆さまは引き続きここでお茶でもお楽しみになってください」

「ダメです。容体が悪くなった時にすぐ近くに誰かがいなくては心配です。このクダン国の王女マリア様の身ならなおさらのことです」

「・・・はい」


結局押し切られるように、部屋に来られてしまった。


部屋で二人きりになり、私はベッドで横になる。

イリーナはベッドの傍らに椅子を持って来て看病してくれている。

なんて健気。なんて優しいのか。そして、なんて邪魔なのかしら。

私はもう退屈に飽き飽きしてるのよ!今すぐ抜け出させて!


「マリア様、私も昔よくやっていましたわ」

ん?神妙な面持ちでイリーナ王女が語りだした。

「演技なのでしょう?本当は痛くないのでは?」

えっ!?あまりに予想外な言葉に全身が固まる。

「いえ・・・、本当に少し痛むのですわ、オホホホホホ」

「別に責めているわけではありません。私も昔よくやった手口なのですからわかります」

「え?本当に?」

「ええ、本当ですよ。マリア様が退屈してたのも知っていました。どこかへ行きたがっているのも」

「じゃあ、さっきはなんで」

「みんなの前で言ってしまうといろいろ問題があるでしょう?私たち同じ立場だもの、気持ちも一緒よ」

「イリーナ様・・・」

「マリア様・・・」

「抜け出す?」

「どちらへ?」

「ヘラン領と言う温泉で有名な土地があります。この夏から避暑地が出来上がり、より一層楽しめると思いますわ」

「あら、ステキね。是非行きましょうか。でもどちらから抜け出すのですか?」

「それはもちろん窓からです。ロープを使って下まで降ります」

「ふふふ、なんだかワクワクしてきましたね」


イリーナと二人でくすくすと笑った。

なんだろう、久々に心が揺れる思いがした。

凄く楽しいのだ。

人生で初めて張り合いのある人に出会えたのかもしれない。

そんな気分にさせてくれるのだ。





























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[良い点] マリア様のエピソード好きw
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