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2章_19話

いろいろあった春期の学園生活もあっという間に過ぎ去り、学校中の話題は学期末の試験で占められていた。

期末の試験結果が今日出る。これと次の冬期休暇前のテストの成績を総合して次年度のクラスが決まる大事なテストだ。もちろんみんな必死で仕上げてくる。中には血走った眼をしている連中もいた。


今日の試験結果の発表が終わり次第、夏季休暇に突入する。

学校に残ってもいいが、ほとんどの者は自分の家に帰る。なんといっても2か月も休みがあるのだ。

みんなちらほらと休みの妄想をしながら、テスト結果を待っているのだろう。


試験は8科目、800点満点で採点される。

選択科目は難易度に差が出ないように気を遣っているとのことだが、少しは苦情が出るだろう。いつの世もそんなものだ。


昼前に試験の結果が貼りだされた。

結果は予想通りのところが多いものだった。


1位 アーク・クダン  800点

1位 アイリス・パララ  800点

3位 エリザ・ドーヴィル  799点

4位 レイル・ レイン 797点

7位 クルリ・ヘラン 777点


アイリスは流石だ。あれだけ畑に力を入れていたのにもかかわらず、貫禄の満点だ。

王子も流石だ。

エリザはまたも躓いたらしい。一点が遠いなー。

そして何より訴えたい悔しさが、レイルに大分放されたことだ。

今回は確かにいろいろあり、勉強に身が入らなかった。

だが、今回のテストで最も足を引っ張ったのは、医学だ!

全23失点中、実に15点を医学で落とした。

いつもいつも奴がすり寄ってくるせいだ!


それなのに奴はきっちりと100点をとってきている。許すまじ!!

まぁ、それも口に出せばいい訳になる。

結局は自分の勉強不足が招いた結果だ。受け止めるしかないだろう。


結果は見た、俺もそろそろ家に帰る準備をしよう。

と、その前にいくつか済ませることはあるが。


まずはトトから顔パックの植物を鉢植えに移し替えたものを30個受け取り、先に郵送用の馬車に乗せて発たせた。

トトは自分の領にもどるため、ヘラン領には来れないとのことだ。無事に売るからと伝えて、しばらくのお別れを伝えた。

あれから、モーリからの嫌がらせは一切ないらしい。これからどうかわからないが、大丈夫だろうと本人は言っていた。そうだといいと俺も心から願った。


エリザはというと、相変わらずテストの結果に苛立っていたが、話しかけるとそれほど怒っている様子でもなさそうだった。前にも比べてより一層四天王からのマークがきつくなったのが気にはなるが、エリザ本人との関係は良好と言っていい。エリザも王都にある自宅に帰るらしい。体調に気をつけるようにとだけ伝えた。先日貸してもらった『花の王子様』も返しておいた。

なかなかいい話で、実は涙した良作だ。


レイルとの話は思い出したくないが、面白い話も聞いた。

レイルと一応の挨拶をした後、執拗にハグを迫ってくるのでグーパンチをくれてやった。

これに懲りてあまり近づかないで欲しいものだ。

「そうそう、面白い話があるけど聞くかい?」

という彼からの提案には素直に乗った。やつの情報網は時に役に立つ。

「うちの王子がさ、アイリスに「よかったら王都に来ないか、2か月好きなだけ贅沢な生活をさせてやる」っていう下手な誘い方をして断られてたよ。爆笑ものだよね」とめちゃめちゃ楽しそうに話していた。ひどい奴だ。

それにしても、下手な誘い方だということには同意だ。

ちなみにレイルと、アークも王都に戻るらしい。

王都かぁ、街の商業施設が栄えているらしい。一度そこらへ遊びに行きたいものだ。



と言う訳で、王子のリベンジとして俺がアイリスのもとに来た。

原作でもアイリスは学園で一人で過ごすことになっていた。

衣食住には困らないし、図書館もある。でも、一人で2か月間はあまりに寂しい。そんなのは流石に可哀そうだ。それならば、と俺が手を差し伸べようと思っている。


「アイリス」

畑で野菜に水をあげるアイリスを見つけた。

「クルリ、見て見て、野菜たちが早速芽を出してるよ。成長が早いみたい」

「そうだね」

そこには青々とした芽を出す野菜たちの姿があった。

俺もこいつたちの成長は楽しみにしていた。

「アイリス、夏季休暇はどうするつもり?」

「学園で過ごすよ。この子たちの世話もあるし、まとまって勉強する時間もできるから。ていうより、帰るのが無理だから居るだけなんだけどね」

へへ、と笑うアイリス。

「やっぱりそうだと思った。よかったらヘラン領に来るかい?」

「うんうん、行かない。ヘラン領はステキなところだけど、クルリに迷惑かけたくないし、それにあそこの温泉には、いつか自分で稼いだお金で行くのが私の夢だから」

「家族もつれてだろ?」

「そう」

「じゃあ先に一人で行くのはセーフだ」

「セーフかな?でも行かないよ」

「じゃあこうしよう。バイトとして来ないか?アイリスは自分が行くことで迷惑がかかると思っているけど、実はうちの領は今人手がかなり不足している。臨時で誰かを雇えるならそれに越したことはないんだよ」

ごくりとアイリスの喉がなったのが聞こえた。うん、ちょろいな。


「バイト代が入ればアイリスだって嬉しいだろ?家族に送ってもいい。自分で使ってもいい。それに心配している野菜たちも薬草学の教師に頼めばついでに世話してくれる。トトの薬草だってそうだ。勉強もまとまってできると言っていたけど、夏季は暑くて勉強にならないからこそ休暇があるんだ。どうだい?ヘラン領に来たくなっただろう?」

「・・・ちょっとだけ。でも待って!考えさせて!」


しばらく、うーと頭を抱え込み、アイリスはこちらに向き直った。

「2か月の間、お世話になります。きっと迷惑をかけず、身を粉にして働きますので、よろしくお願いします!」

「迷惑なんて、そんなの気にしなくてもいい。じゃあ、ヴァインとクロッシに挨拶を済ませたら行こう」

「この恩は一生忘れないから。何度も言ってるけど忘れないから!」

ほほっと俺の顔が仏になり、それから二人で畑に別れを告げた。


寮の部屋に戻り、アイリスと共にヴァインの部屋を訪ねた。

「ヴァイン、俺たちはこれからヘラン領に戻る。よかったら一緒に来るか?」

「いいのか?実は行く場所に困って山籠もりでもしようと思っていたのだ。しっかり働くから行かせてくれ」

あいさつ程度に言ったつもりだったが、本当に来るらしい。事実働き手は必要になる。

彼ほどよく働く人間が来るのは助かることだ。力作業では100人力だろう。

おい、ちょっと待て!山籠もりはするな!


「よし、それじゃあ一緒に行こう。クロッシも誘おうと思うのだが、そういえば彼の部屋はどこだろう」

「確かに知らないな」

思案する俺と、ヴァイン。いつも一緒にいるのに部屋を知らなかったとは。予想外だ。もう帰ってたりしないよね?


「クロッシって男の子なの?私女の子かと思ってた」アイリスがとぼけたことを言っている。

「失礼な。気にしてるかもしれないから本人の前で言ったらダメだぞ」

「そうだぞ、アイリス」珍しくヴァインも注意する。

反省するそぶりを見せず、アイリスはそうかな?とつぶやくのだ。

彼女は意外と鈍感なところがある。


そんなとき、ちょうどヴァインの部屋にクロッシがきた。

「師匠の部屋にいないので、こちらかと思って」

「よかった、クロッシを探してたんだ」

「私をですか?」

「うん。3人でヘラン領に行くんだけど、クロッシもどうかなって」

「すみません。今日は師匠に別れのあいさつに来たのです。行きたい気持ちはあるのですが、夏季休暇は戻らないといけないのです」クロッシは落ち込みんだ顔をのぞかせた。

なんだか、ヴァインがいるのにクロッシがいないのは落ち着かない。是非来てほしかったが、来れないものは仕方がない。


「そっか、じゃあまた夏季休暇明けに。体調には気をつけるんだぞ」

「はい、師匠!お世話になりました。師匠こそ体調に気をつけてください。あと、貴様もな!!」

指さされたのはヴァインだ。

ふんっとだけ、ヴァインが返事をし、クロッシと別れた。

二人とも素直じゃないなー。


それぞれの荷物を準備し、呼んであった馬車に乗せていく。

俺もアイリスも結構な荷物なのだが、ヴァインは片手で持てる程度の量だ。

彼は何者なのだろう。四次元ポケットでもあるのだろうか。


こうして俺と、ヴァイン、アイリスの三人でヘラン領へと旅立つことになった。

狭い馬車の中、三人でのんびりと旅を楽しむ。

来たときはまだ学園の生活がどんなものになるかわからなくて不安だった。そんな昔の気持ちを思い出す。

まだまだこれからいろんなことが起きるだろうが、とりあえずは楽しい一時期を過ごすことができた。

色々なことを思い出しながら、そっと目を閉じる。

頭の中に映像として出てくる鮮明な記憶ばかりだ。

楽しかったなー。エリザに殺されかけたなー。

あれ?楽しかったのか?


外は太陽が昇り快晴だ。

馬車はごろごろと音を立て、ヘラン領へと進むのであった。
























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