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2章_2話

中庭から校舎に入り、校舎南側にある職員室へと向かった。


先頭を俺が歩き、後ろにピラミッド状に広がり48人がついてきた。

全員の顔がやけに険しい気がする。

この状況、なんかの巨塔で見たな。

まさか自分が体験しようとは。人数が多い分こちらの方が質が悪い気もする。


全員が真面目にきっちり付いてくるので、ちょっとした好奇心で止まってみた。

全員が乱れることなく止まった。

これいいね!


廊下に響き渡る規律の整った足音がなんとも心地よい。

幸い広い廊下なため端を歩けば他の生徒は通れる。

堂々と真ん中を歩いても道はふさがない。


けれど、すれ違う生徒の俺を見る顔がやけに怯えているように見える。

目をあまり合わせようとしてくれないのだ。


廊下を進み、途中で廊下の真ん中に立って、話し込んでいる二人がいた。

こちらには気がついていないようだ。


「そこをどけ、クルリさんのお通りだ」

すぐ後ろの誰かが声を出した。

それに反応して道を塞いでいた二人は隅による。


ひっそりと「すみませんでした」と口が動いていたのが見えた。


いえいえ、こちらこそすみません!!

これやばいよ!質悪すぎだよ!


どうすんの!?この人たち学園制圧すんの!?


「あの、ちょっといいかな」

足を止め、後ろを振り向いた。


うわっ!!

振り向いてようやく、そこにいる48人の圧迫感に気がついた。

リーダーである俺がビビってるんだから、生徒はこんな集団が近づいて来たらそりゃ道を譲るしかない。


「みんなちょっと気合入りすぎかな。言っておくけど他の生徒に危害を加えるとか絶対にダメだから」

「「「はい」」」

おお、流石に聞き分けはいいようだ。

始まったばかりの部活故、忠誠心は強いようだ。

俺のダメな面を露呈して、彼らを失望させたらどうなるのだろうか。

やっぱり刺される?

しかし、今のところは後ろから刺されることはないかな?


それほど長くはなかったが、体感ではものすごく歩いた気がする。

ようやく職員室前についた。

扉を開け、中に入る。

もちろん全員がついてくる。


この集団は教師でも遮る者はいなく、するすると敵陣内に侵入した。


「ウー教官」

声をかけたのは担任のウー教官だ。

この人が担任だし相談は適任だろう、ていうかこの人以外知らない。


「部をつくりました。それで、部活の資金をいただきたいのですが」

「もう作ったのか。それもこんな大人数。創部時点での過去最高じゃないのか?」

「部長は忙しいのです。ウー教官余計な話はせず、手続きを早く」

急かしたのはハートだ。

別に忙しくないからね!


「じゃあこの書類に部員の名前を記入してくれ。活動資金は本日中に渡せるだろう。結構な額になるため悪いことに使ってくれるなよ、クルリ君」

結構な額!?耳がついピクリと反応した。

「本日中にもらえるのですね。そんなに早いのですか?」

「ああ、当学園は生徒の自主性を重んじているため、部活動などの予算が多いのだ」

「場所なども借りることは出来ますか?」

「もちろんだ、基本校舎西側の部屋を貸すことになるが、運動場、集会場なども他の部と時間差をつければ占有してもらっても構わない」

素晴らしい学校じゃないか。

ついつい感心してしまった。


「ところで、何をするかはまだ決まっていないのですが」

「それも構わない。人が集まるとそれだけで大きな力になる。将来人々をまとめる立場になる君等にはそういったことも学んで欲しいのだ」

「なるほど。でも、いきなり何するかわからない組織に大金を渡すのは危なくないですか?ましてや俺たちはまだ10代の多感な時期ですし」

「それだよ、クルリ君。君は今大きな力と権力を手にしようとしているが、同時に大きな責任を背負ったことにもなる。これより先は言わなくてもわかるね?」


・・・ですよね。

世の中そんなに甘い話なんてない。まだ15歳の身だが、それくらいわかってるさ!

「ウー教官、今後もわからないことがあったら相談に乗ってください」

「ああ、いつでもいいとも。君には私も期待をしているからね」

「はい、じゃあみんな行こうか」


俺の合図で全員が職員室を後にした。

さてと、この集団の良さを何に生かすべきか。


「部長、一度中庭に戻り今後の方向性を決めませんか?それから部室が必要であれば申請もしましょう」

ハートの提案に首を縦に振り、再び中庭に戻った。


「みんな、これからこの部の方向性について話す。その前に少し俺の言うことに耳を傾けてほしい」

全員がうなずいた。

それを確認して話を始める。

「まだやることは決まっていないが、志だけは決めておきたい。

我らは、心優しきライオンを目指す!」

全員が首を傾げた。


「つまりはだ、この部に在籍している者は常に文武両道であり、他者より優れた存在でなければならない。授業をしかっりと受け、復習も怠るな!我らでAクラスを占拠するくらいの勢いで精進するように」

気合が乗ってきて真面目な顔を見せる者や、志が気に入って笑顔を見せるものもいた。

「でも、それだけじゃダメだ。我らは将来、人の上に立つ人間になる。求められる能力は高いものになる。それは個々の努力次第でどうにでもなるだろう。しかし、本当に大切なことは弱者の位置に立って物事を見ることができるかどうか。それこそが上に立つ者として本当に必要な器だ!そしてそれこそが、心優しきライオンだ!」


「「「おおおお」」」」皆々から賛同の声が上がった。

最初のスピーチは成功したようだ。

祭り上げられたような部長就任だったが、集まった部員の顔を見ると悪くない気もしてきた。


「よし、それじゃこれから部の方向性について話し合おう。やりたいことがある人は挙手を」


・・・。

誰も手をあげない。

気合入ってるわりに消極的だな!!


「あのぉ、部の方向性とは少し違うのですが」

手をあげたのは眼鏡をかけた、サラサラヘアの男だ。

「君は確か、学力テストで成績上位だったトーマス君だね」

「はい、知ってもらっていて光栄です」

Aクラスからの面々はちらほらいたが、上位成績者もいたとは。

この部ってなかなか優秀な人材が揃っているのかもしれない。


「この部の拠点なのですが、部室を借りる予定ですか?」

「そのつもりだよ」

現状やることは決まっていない。話し合いの場にはやはり場所が必要だ。

それにやることが決まってからも本拠地があるのはいい。

「部室は校舎西側の部屋を借りれるのですが、どこも多くて60人程度しか収容できません。この部の将来的な成長を考えると狭いものになると思います。ですので、私たちの城を作りませんか?」


城!?

学園に城を構えるの!?

本格的に学園を制圧するつもりなのだろうか。


「それは少しやりすぎじゃないかな。それに土地や、建設費だってすごいものになるだろうし」

「それについては問題ありません。学園内、塀で囲まれた中では西北の隅に広大な空きスペースがあります。一年生の寮の北に位置する場所です。教師に使用の許可は既にいただいています。建設費については私の領が建設を生業としているため、格安の費用で材料、人員を確保することが可能です。部費の半分ほどで事足りると考えています」

「・・・そうか」


トーマス君、彼は学業だけでなく非常に頭の回る人間なようだ。

なんというか、夢がでかいね。生きていくことしか考えていない自分があまりに小さく思えてしまう。

「よし!我らの城を造ろう!!部の方向性はその後だ。トーマス君、指揮を頼む」

「はい、私たちだけの城を造りましょう!」トーマス君は興奮気味だ。

「城はこの学園から独立した治外法権にしましょう!」ハートも興奮気味に話す。


治外法権か、彼女も野望がでかい。

ちなみにそれ、大使館レベルですよ!ハートさん!


「学園でスコップやら、測定器具などを借りることが可能です。それら必要なものを集めるため人員を貸していただいてもいいですか?」

「もちろんだ。好きなようにやってくれ、トーマス君」


トーマス君は非常に手際よく何人か集め、校舎へと急いだ。

俺たちは城が立つ場所へ移動する。


トーマス君の言う通り広大な空き地だ。

城一つ建ってもまだ余裕がある。


しばらくしてトーマス君たちも遅れてやってきた。

手にはスコップやら、測量器具、見たことのないものまである。

今後の流れを説明する、とトーマス君が話し始めた。

「専門的なことは私の領の職人に任せます。職人たちへの手配は先ほど出しましたので、2、3日中にはこちらに着くでしょう。着くまでは、出来るところは部員の力を借りて進めておきます。職人がついてからは部員は基本資材運びなどの要員などになってもらいます。使える部員などがいれば専門的な仕事も任せようとも思っています。それで構わないですか?」

「すごいよ、トーマス君。異論はない、存分にやってくれ。それで、まずは何から始めるんだい?」

「まずは測量をします。大体の目安はついていますので、すぐに終わります。その後は地盤固めの基礎工事をします」

「優秀な部員がいてくれて光栄に思うよ。よし、俺にもスコップを一本くれ」

「そんな、部長は座って休んでいてください」

「組織のリーダーっていうのは一番よく働き、一番報酬が少ない。それが俺の理想とするリーダー像だ」

「部長!」トーマス君が少し感動している。

うん、いいこと言った。それに、退屈は嫌いだ。


「さぁ、トーマス君、指示を頼む!」

「はい!」


3階建ての城を造るらしく、そのためには基礎となる地盤を作る必要があるらしい。

まずは、穴を掘れとのことだ。

温泉も、井戸も掘ったこの俺に最適な仕事じゃないか!


「すごいです、部長。一回の掘る土の量が多いです!」名前の知らない部員からの褒め言葉だ。

「まぁね、堀り慣れてるから」

「やっぱり、部長すごいですね。スコップを土にさしてから、土を掘るまでの動きに無駄が一切ないです!」これまた名前の知らない女性部員からの賛辞だ。

「まぁね、場数が違う」

「部長のとこだけ堀が速いですね。僕も頑張らないと」またまた知らない子からの褒め言葉。

「まぁね、スピードには自信がある」

「部長のスコップ少し曲がってるのに、問題なく使いこなせるなんてすごいです」


もういいから!!

土掘る作業だけそんなに褒めないで!!

クルリ君には他にもいいとこいっぱいあるから!!俺のそんなところもちゃんと見て!!


「クルリ・ヘラン、資金を届けに来たぞ」

作業場に来たウー教官の声で、いったん作業を中断した。

なんだか背中に担いだ袋がやけに仰々しい。

「資金はその大きな袋の中ですか?」

「そうだ、確かに渡したぞ。中身の詳細がまとめられた書類も一緒に入っている、額はそれで確認したらいい。では、さらばだ」

ドッと、その場におかれた資金は嫌に重量感がある。

襲る襲る袋を開け中を覗き込んだ。


!?

中にはとんでもない量の金貨が入っていた。

手で数えるには少ししんどい枚数だ。

まずい、左手の震えが止まらない。何枚か盗ってしてしまおうか。


後ろをちらりと見た。

皆がトーマス君の指示のもと真面目に働いている。

この袋の中身を知っているのは俺だけだ。

やるか!?


・・・否!!後ろから刺されたくはない。

真面目に働いているみんなにも申し訳が立たない。

そっと、震える左手で袋を絞めた。


「みんな、資金が入ったぞ。俺たちの城ができるまでの道がはっきりとしてきた」

「はい」「やった」「がんばろう」

全員の喜んだ顔を見た。盗らなくてよかった。


「トーマス君、俺に一番きつい仕事をくれ」

「流石にそれはできませんよ、部長」

「いいんだ。心の弱い俺を、ダメな俺を、戒めてくれ!!」

「戒め!?」

「さぁ、指示を頼む」

「は、はい、そこまで言うなら」

トーマス君から作業用の道具を受け取る。

そして、今一度働いている部員の姿を見た。みんな俺のため、部のために働いてくれているのか。

大きな権力には、大きな義務が付いてまわるらしい。

俺も成長しなくちゃな。







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