2章_1話
2章、はじまります。
学園生活が始まる本編です。お楽しみください。
本日より俺の学園生活が始まる。
いつもより早起きし、制服を着た。
制服は白を基調としたシンプルなデザインだ。所々につけられた高価な装飾が一層際立つ。貴族の学校にふさわしい装いである。
痩せて身長も伸びた。筋肉だってついている。今の俺なら着こなせるはずだ。
鏡の前に立ち、自分の姿を今一度確認する。
「うん、決まってる」
クルリ・ヘラン。
本日より運命を左右する3年間の始まりである。
ドアをくぐると、いつもの二人が待っていた。
二人とも同じく制服を着こなしている。
「さぁ行こうか」
「ああ」「はい!」
我が校の校舎は俯瞰で見ると、カタカナのロになっているらしい。
校舎で囲まれた中には広大な庭があると聞いている。
昼や放課後などはここで自由に過ごして良いそうだ。
なんと贅沢な土地の使い方か!
ロの東側が生徒が普段滞在する教室部分である。
AからJまでクラスわけされた基本クラスで必修科目を勉強するのだ。
ロの北側が、選択科目で実技が必要な教室が揃っている。
教室で薬草を栽培しているところなんかもあると聞いている。
でかい校舎だ、何があってもおかしくはない。
ちなみに南に図書館があるらしい、これはアイリスから聞いた。
西は生徒が自主的に使う部屋が多いと聞いたことがある。
まぁ学園生活をしていくうちに知っていくだろう。
広大な校舎の北側には運動場とイベントなどで使う集会場がある。
土地が広いこと!
校舎に着くと、入り口にクラス名簿が載っていた。
俺とヴァインは予想通りAクラスだった。
クロッシはCクラスである。
早々に分かれることになり寂しそうである。
この学校は一年が3階、3年が一階という階わけになっている。
3階に着くと、手前からAクラス。
奥が一番最下位のJクラスとなっている。
教室に入ると、既に何人か生徒がいた。
アイリスとエリザはまだいないみたいだ。
席は決められているみたいで、俺は左隅の一番後ろ。ヴァインは右隅の一番後ろである。
ヴァインのは意図的な席割りだな、と思わずにはいられない。
あんなでかいのが前にいたんじゃ勉強にならない。
ぞろぞろと生徒が増え出して、始業時間までには全員が揃った。
エリザは右から3列目の前から2番目の席だ。
遠いな。
まぁ授業中は彼女も悪さはしないか。
生徒が揃い、その後に担任と思われる人物が入ってきた。
「あ」
体力テストの時にいたウー教官だ。
「皆さん、1年間担任を務めますミッチェル・ウーです。
よろしく。優秀なAクラスの君らを預かれて光栄に思う」
ウー教官は髪はポニーテール、顔はやや男前で体はすらっと細長い。
前に見た時もそうだったが、いつも運動着を着ているようだ。
ウー教官の話が始まり、今日のスケジュールを知らされた。
「まずは入学式だ。君たちを祝うものだから存分に楽しめ。
その後は教室に戻り、学園の授業システムについて説明する」
話が終わると、ウー教官に導かれて校舎の北側にある集会場へと向かった。
一年生はAクラスを先頭に最後尾にJクラスの面々が続いた。
入学式はイベントで使われる集会場で行われる。
集会場は空の建物で、体育館のような場所だ。
それ故に自由に飾り付けもできる。
貴族が通う学校の一番めでたい日と言っても過言ではない。
盛大な歓迎を期待してもよいだろう。
集会場に着くと入り口に立つ二人の屈強な男が門を開いた。
「入学おめでとう!」
開かれた門から歓声があふれ出してくる。
上級生たちの盛大な歓迎だ。
中に入ると、天井や壁に飾り付けられた装飾がキラキラとまぶしい。
一年生が通る道には花が敷き詰められ、華やかな世界観が広がっている。
なんてきれいなんだ。
期待を上回るもてなしに心が躍った。
それは俺だけではなく、ほかの一年生たちも同じような顔をしている。
「うわぁ」
首を回し、あたりを見渡した。
こんなに純粋に喜んだのはいつ以来だろう。
花の道を進んだ先に一年生用の椅子が用意され全員が座った。
「諸君、よく入学された」
舞台の上で話し始めたのは、結構な年を食ったオジサンだ。
「学園長のエイダン・モーリスじゃ。皆の入学を心より祝福する。
恵まれた温かい人生に胡坐をかくことなく、3年間必死に勉学に励むように。
さぁ、長い話はなしじゃ、上級生たちからの催しがあるからそれを楽しんでくれたまえ」
「おお!」
歓喜の声をあげたのは一年生諸君たちだ。
俺もうきうきが止まらない。
「さぁ楽しんで行こう!」
舞台袖より、学園長と入れ替わりで飛び出した青年が声をあげた。
顔のメイクからして、何かサーカスでも見せてくれるようだ。
歌、劇、演奏、それからあらゆる催しが行われ、入学式は大満足のなか終わった。
ああ、いい体験ができた。
こうして一年生の学園生活が始まるのか。
いい伝統だ。来年は俺たちもこんな素晴らしいものを作ろう。
教室に戻ってからもみんなが入学式の話をし続けた。
それほどに感慨深いものだったのだ。
「あのー」
声がして首を右に向けた。隣の女性が話しかけてきたようだ。
「クルリ・ヘランさんですよね?」
「はい」
女性は両腕で自分を抱きしめ、目をきらめかせた。
「やっぱり!私、クルリさんのファンなんです」
ファン!?なんの!?
アイドル活動なんてした覚えはない。
「ああ、そうなんだ。ところであなたのお名前は?」
「ハート・ヴァレンタインです」
ハートと名乗ったその女性の大きな目がうっとりしている。
若干強調された胸元と、たれ目が特徴的な女の子だ。
「クルリさんの噂は聞いています。入学実力試験は総合3位の秀才ですし、魔法にも精通してらっしゃるんですよね」
「まぁ」
そんな褒められると照れる。頭をポリポリかいてごまかした。
「しかもあのヘラン領の次期領主様だなんて、やっぱり凄すぎます」
「いやー、ハートさんだってAクラスにいる秀才じゃないか」
「私なんか」
彼女は慌てたように両手を振った。
「今一年生の間では既に、クルリさん、アーク王子、レイルさん、エリザさんの4人をミラクルフォーだなんて呼んでるんですよ。私なんかとは次元が違います」
何それ!やめて!恥ずかしいから!
「どこからそんな話が出てるの?」
「出元はわからないですが、アーク王子に至っては既にファンクラブもできていますよ。負けていられませんね」
「そんなとこで張り合いたくないよ」
「そんなぁ」
若干ハートが悲しそうにしている。
「そんなに落ち込むことじゃない。学生は学業にこそ力を入れるべきだろう」
「・・・はい」
「さぁみんな席に着け!」
いいタイミングでウー教官が入って来た。
くらいムードにならなくてよかった。
「入学式は楽しんだな。じゃあ勉学に励もうか。
授業システムの説明を始めるぞ」
話はだらだらと長かったが、結局は用紙を貰えたのでそれで全て内容が分かった。
必須授業科目が4科目。
高度な算術
魔法学
剣術
歴史学
この4つはAクラスの面々と受ける、絶対に履修しなければならない科目だ。
次に選択科目を15項目から4つ選ぶ。
会計学、化学
心理学、地質学
天体学、建築学
畜産学、医学
薬草学、帝王学
外道学、武術
哲学、法学、生物学
こちらは他のクラスと合同で受ける。
2週間以内に決めればいいとのことだ。
今のところ、薬草学には興味がある。
後は金になりそうな畜産とかがいいと思う。
「渡した書類にはしっかりと目を通しておいてくれ。選択科目を今のうちに考えておくのもいいだろう。
今日はこれで終了だ。まだ昼だから学校を探索してみるのもいいだろう。以上解散」
ウー教官は勢いよく教室を去る。
サバサバとした人だ。
「あのークルリさん」
ウー教官の話が終わると同時に、ハートが声をかけてきた。
「どうした?」
「部活動はどうなさるおつもりですか?」
「ああ、そんなのあるんだ」
「ええ、ということは決まっていないのですね」
「うん」
部活なんてあるの知らなかった。
何をするんだろう。サッカーとかしてもいいのか?
「部活を作りませんか?もちろん部長はクルリさんです」
「そんな簡単に作れるの?」
「はい、人数さへ集まれば」
「何やるかも決まってないし、そんな簡単に集まるかな?」
「はい、集まります。クルリさんの名前を使えば。少し待っててください」
ハートは太いペンを取り出し、きれいな白紙に文字を書きだした。
キュッキュッとリズミカルないい音がする。
『大志ある者どもよ!クルリ・ヘランのもとへ集え!!
入部希望者中庭集合!16時締切!!』
「・・・ちょっと気合入りすぎじゃない?」
「そのくらいがちょうどいいんです」
「何やるかも決まってないし」
「それは集まってから決めましょう」
「・・・うん、そうだね」
「はい!」
気合入ってんなー。
ハートが張り紙を廊下に貼り付け、二人で先に中庭に移動した。
中庭は芝が生い茂り、中心に噴水がある。
晴れた日に弁当を食べたい場所だ。
「いっぱい集まるといいですね」
芝に腰かけハートが言った。
俺も腰かけ返事をする。
「いい芝ですね」
そう言われつい寝そべった。
チクチクする芝の感覚が気持ちいい。眠ってしまいそうになる。
「クルリ・ヘランさんの部はこちらで?」
寝そべっている横から、さえない顔した男が来た。
「ああ」
意外とすぐに一人目が来て少し驚いた。
来てくれるもんなんだね。
その後もぞろぞろと人は集まり、予定の16時を過ぎた。
ハートが点呼を取っている。
1、2、3、・・・47、48!
「クルリさん、私を含め部員48名集まりました」
俺を入れて49人。
多すぎるね。
こんなの御しきれない!
ヴァインとクロッシは見当たらない。今日も二人で特訓なのか?
ハートが全員の目の前に立ち、大きく息を吸い込んだ。
「我らクルリ・ヘランのもとに集いし48名。クルリ・ヘラン率いるこの部に絶対の忠誠を誓いますか!」
「「「「おう!!」」」」
「部を、クルリ・ヘランを裏切った際には、それ相応の罰を受ける覚悟はありますか!」
「「「「おう!!」」」」
「全員クルリ・ヘラン殿に一礼を!」
さっと、みんなが頭を下げた。
全然イメージと違う!!
数人でのんびり部活動をする未来を想像していたのに、あらぬ方向に飛んできたよ!
部活の概念が全然違うじゃないか!
みんな気合入りすぎだろ!
近づいて顔にビンタしたら、「押忍!」とか言い出しそうだよ。
「クルリさん、これで部が出来上がりました。クルリさんから何かいただけると、部の象徴的なものになるのですが」
それなら、大量に作った剣がある。
ちょうどいい在庫処分だ。
「一人に一本自作の剣を与えようか」
「ありがとうございます。では、次は教師に部の資金を請求しに行きましょう」
「そんなこと可能なの?」
「可能です。出陣の号令を」
出陣!?
教師攻め落とすの?
「・・・しゅ、出陣」
「「「「おおう!」」」」
あ、これ悪くないかも。