8章 17話
溜まり過ぎた財産を吐き出すときが来た。
前々から地下の金庫はもういっぱいいっぱいに入っていたし、先日の自治領主就任式でアーク王子が持って来てくれた品に加えて、連日連夜訪れる貴族たちからのお祝いの品も重なって我が屋敷は遂にパンクしてしまった。
エリザが整理されていない屋敷に不快感を示したこともあり、いよいよヘラン領始まって以来の財産吐き出して会が始まった。
まずは投資部門からである。え? 吐き出すんじゃないのかって? まぁまずは、である。
集いし若者たち、それぞれにアイデアをプレゼンしていくときだ。頑張り給え。
では一人目どうぞ!
「ワッパ。人形師。人形を作ることにかけては右に出る者はないと自負しております。特に女性の顔を精巧に作ることができます。こちらが私の作品であるエリザ様です」
青年が取出したのは両手で抱えることの出来るサイズの人形だった。その顔は青年の主張通り美しいエリザにそっくりで、髪の色まで丁寧に再現されていた。
「他にもクルリ様の人形などもあります。出来はエリザ様と同じくらいいいものです。ヘラン領の伝説であるクルリ様を、人形劇を通して後世に伝えていきたいと思います。そのために劇場が必要で、出資を募っているところです」
はい、終了。
俺がルビーを三つ出資。
エリザはエメラルドを一つ出資。自分の顔があまりに精巧に再現されていることが逆に気味悪く、エリザの出資は厳しいものとなった。
青年ワッパ。ルビー三つに、エメラルド一つ。出資完了。
では、次行ってみよう!
「ルーツル。ピアノ演奏師。田舎からヘラン領に出てきました」
田舎から出てくる先がヘラン領の時代か……。変わったなぁ。
「最近作った曲です。『エリザの目覚め』聞いてください」
彼女は古びたピアノで自分の曲を弾いた。その腕前がいいだけでなく、曲自体も素晴らしい。耳元を優しくなでてくるかのような優しいテンポで曲は進んでいき、最後の最後にすべてを弾き飛ばすかのような高いキーの連続でフィニッシュを遂げた。圧巻だった。
「目標は世界一のピアノ演奏師。子供たちにいつでも音楽を届けられるように、ヘラン領を周りたいです。そのため移動式の演奏馬車を購入したい」
はい、終了。素晴らしい心意気!
俺が世界に三つしかないと言われる伝説のピアノを出資。
エリザが絵画五点、壺八点、ダイヤモンド三つを出資。
彼女の夢にはあえて、与えないという道もある気がしたので俺はピアノの出資だけ。エリザの評価は爆発的に高く、とんでもない出資をした。曲名も良かったのも知れない。
素朴な女性ルーツル。ピアノ一点、絵画五点、壺八点、ダイヤモンド三つ。出資完了。
では、次行ってみよう!
「ガンツ。馬の調教師。良い馬をとにかく育てたい。魔導列車やドラゴンで話題が持ちきりの今だからこそ、あえて馬を大事にしたい。そして世界一速く走る馬を育てたい。目標は魔導列車を超える馬! 」
なるほど、面白い着眼点じゃないか。魔導列車を超える馬か。真にロマンがある。
「自分が育ててきた馬の一頭が今年ラーサー王子に購入されました。実績は十分だと思う。ヘラン領の美しい自然を活かして最高の馬牧場を作る。出資をお願いします」
はい、終了。気に入った! そのロマン。
俺が土地の権利書、銀の延べ棒二百本出資。
エリザは出資なし。
速い馬という点にロマンを感じた男と、感じなかった女の差。どうやらエリザは大人しい馬が一番好きらしい。
そばかすの目立つ青年ガンツ。土地の権利書、銀の延べ棒二百本。出資完了。
さあ、いい感じに地下金も隙間ができ始めた。屋敷にもスペースが空きだしたぞ。
次のは貸付部門です! えっ? 吐き出すんじゃないの? まぁ貸付だけど利子は貰わないから。
さあ、事業を始めたいあなた、拡大したいあなたアピールの時です!!
一人目、行ってみよう!
「ポルマート。豆農家。最近のヘラン領の食料自給率に不安も持つ。六十%を生産により、
四十%を輸入により賄っている現状。この割合を八十、二十に持っていきたい。増え続ける領民を無事に支えるためにも八割自産という数字は理想的である。そして豆の栄養のすばらしさを今一度領民に知らせたい。生産拡大と宣伝費のため金銭を貸していただきたい」
はい、終了。優秀、非常に優秀。
俺が金の延べ棒を三本。
エリザが金の延べ棒を三本。
有能すぎる彼には俺とエリザからの高評価が飛び交う。お礼に豆を送ってくれるらしい。今夜は豆づくし決定だな。
少し肉付きが良い中年ポルマート。金の延べ棒を六本。貸付完了。
次、どんどんカモン!
「キャシー。鳥愛好家。鳥たちとのコミュニケーションが得意で、気が付けば様々な種類の鳥を数十羽も飼っていました。彼らとの触れ合いの中で気が付いたことを商売にしたくて来ました」
ほう、まだ事業を立ち上げている訳じゃないと。完全に一から始めるのか。面白い。
「鳥を使った新しいコミュニケーション方法です。手紙のような深い会話ではなく、どこかへでかけるか? とか、調子はどうだいとか? 簡単なメッセージだけをやり取りするものです。方法としては鳥の種類ごとに予めメッセージ内容を決めておいて、飛んできた鳥の種類で意思疎通を図るのです。新しい鳥の飼育と、顧客の募集のためお金を貸して欲しいです」
はい、終了。一定の需要は見込めそうだ。ロツォンさんを呼ぶためだけの鳥とか我が屋敷にも置いてほしい。
俺が金の延べ棒を一本。
エリザが精霊の卵を一つ。
将来性のありそうな話だったが、意外と消極的な俺と、なぞ評価を下すエリザ。当人は喜んでいるので良しとしよう。
不思議系少女、キャシー。金の延べ棒を一本、精霊の卵を一つ。貸付完了!
さあさあ、次々!
「シャオ。何か人の為に役立つことがしたい。その過程で自分も成長出来たらいいと思う。誰かに尊敬されたいとかは思わない。目立たなくてもいいから、何か世界を変えられるようなことがしたい。まずはお金を借りて、そしてそのお金で人脈を広げたい。感謝をいつも胸に抱いていれば、万事解決すると思う」
……うん。
俺が部屋にあった一番分厚い本。
エリザがアッミラーレ王国への旅行券。
意識高すぎる彼には未知の本と、未知の世界への切符を渡そうではないか。
意識高い系青年、シャオ。分厚い本と海外旅行券。貸付完了!
いよいよ、貸付も終わりである。さあ、ここからが本当に財産を吐き出すときだ!
待ちに待ったヘラン自治領、大ビンゴ大会!!
魔力を込めた特製の絵付きビンゴ札を領民一人一人に供給して、ビンゴ大会は行われた。
『まずは中央のクルリ・ヘランの顔を押し込んで下さい』
全ての用紙にそう書かれたビンゴ札はそこからスタートされる。おれも自分のビンゴ札の中央を押し込む。
さて、大ビンゴ大会ともあって、規模は相当にでかい。しかも一日でめくれるのはたった一つの絵だけ。
一日目、空に飛びあがったプーベエにはでかでかとした垂れ幕がかけられていた。その垂れ幕にはエリザの絵が描かれている。そう今日はエリザの絵をめくる日なのだ。
そして俺のビンゴ札には……。エリザの絵がない!! まさか、どっかはめくれるとおもってたのに。ないのかよ!
流石にまだビンゴがあるはずもなく、大ビンゴ大会二日目!
プーベエは空高く飛びあがり、再びその体に垂れ幕がかけられていた。
そこには、猫先生の絵が描かれている。
二日目は猫先生をめくる日だ! 俺のビンゴ札は……。まさか、またもないだと!?
縦六マス、横六マスの合計三十六マスのビンゴ札だ。早い人はすでに三つ並んでしまっているぞ! どうするんだ!? ここからの逆転などあるのか!?
三日目!
プーベエの体にかけられた垂れ幕は……、アーク・クダン! 王族も入れちゃった!? ビンゴのマスに王族まで!? そして俺のビンゴ札には……やはりない! もうあきらめよう! アーク王子め、覚えておけ!
四日目! 空高く飛びあがるプーベエにかけられたのは……、エヤン・ドーヴィル!! 渋い顔のナイスガイ! エリザのパパ! 早い人はリーチですよ!
五日目! ビンゴが出るかもしれない大事な日! リーチの人は昨日眠れたかな!?
さあ、プーベエにつけられた絵は……、ヘラン宿のおばちゃん!! 誰だ!? 知らんぞ! 知らん奴まで入っているぞ。ビンゴになる奴なんているのか!?
……、いたよ! 昼頃に屋敷にビンゴ札を持ってきた少女がいた。
「び、ビンゴです! 」
恐る恐るビンゴを宣言するかわいらしい子ども。
「何が欲しい? 」
「ママが一番高価なものって……」
うん、それがやっぱりいいよね。地下金庫を探り、見つけ出したものは純金でできた豚。場所も取るし、こいつでいいだろう。担いで少女のもとに持っていってやった。
「ビンゴおめでとう! 」
「ありがとう領主様! 」
担いで帰れそうになかったため、馬車を手配してやった。きっとあの子は一生ビンゴを好きでいるだろう。五日目は彼女だけ!
六日目! 一気にビンゴが押し寄せてくるかもしれない大事な日!
さあ、プーベエにかけられた絵は……、大根!
まさかの魔法生物! 知らない人はとことん知らない! 知っている俺はとことん知っている! こんなのビンゴに混ぜるな!
……、大根でビンゴになったやつが来た。
大根だった。
「ウィ」
当たった。
参加してんじゃねーよ。肥料をくれてやった。めちゃくちゃ喜んで帰っていった。
実はこれは最後に、ビンゴは出なかった。流石に絵を細分化しすぎたらしい。第一回目大ビンゴ大会は、母親の意思を組んだ少女と、大根が勝った結果に終わった。
地下の金庫にはスペースができたものの、大した変化にはならんかった。そして投資と貸付の返済がその後連続で来て、元通りなる。
「少しケチをしすぎたな」
「それね。第二回はもう一つゲームを増やしましょう」
「またケチったらどうしよう」
「そしたら第三回をしましょう」
そうしよう。