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15話

試験当日。


初日の試験は体力テストである。

新一年生、全432名が学校の校庭に集合している。


動きやすい格好で来るようにとのことだったが、早朝ということもあり皆結構服を着こんでいた。

かくいう俺も上下長袖で体温を奪われないように気をつけている。


集合時間から5分ほどたったころ、校庭の正面より教官と思われる人物が現れた。

「えー、みなさん初めまして。教官のミッチェル・ウーです。

今日の試験は体力テスト、学校の外周約十キロを走ってもらいます。

タイムがそのまま点につながりますのでしっかり励むように。

各人それぞれに番号を振ったゼッケンを作ってありますので、前にきてお取りください。

では、1時間後、正門よりスタートですので各自準備を怠らないように!以上!」


10キロマラソンか、体力には自信があるし簡潔な種目でよかった。

俺のゼッケンは44番。

こんな番号普通はあまり良い気持ちにはならない。

でも特段モチベーションを落とすこともなく準備運動に入った。


その隣で同じく運動しているのが、早朝より我が部屋に来た二人だ。

「今日の試験でお前の基礎体力を確認しておく」

入念に体を伸ばしながら話すのがヴァインだ。

「上から目線で話すな、この木偶の坊!そんな話し方を許したのはクルリ殿だけだ!」

クロッシも昨日のヴァインの指示通り入念に柔軟運動をしている。


「いたいいたいいたい、そんなに強く押すな!」

気づくとヴァインはクロッシの柔軟運動のサポートに入っていた。

悪口を言われた彼なりの仕返しなのだろう。

「貴様、昨日も言ったがあまり私の肌に触れるな!変態野郎が!」

「触れなくてはサポートもままならん。すぐに慣れるさ」

「慣れてたまるか!」


昨日と同じようなやり取りをしている。

自称ヴァインの一番の理解者のつもりでいたが、もうこの二人の方がはるかに仲がよさそうだ。


さてと、この二人がイチャイチャしている間にあたりを見回した。

おー、見知った顔がちらほらと。


アイリスも見つけた。

こちらも入念に運動をしている。

何が何でも勝ってやるって目をしていた。

おかげで気軽に挨拶するのがはばかられる。


そういえばこの学園、男女への配慮とかそういったものがないようだ。

純粋な体力勝負で男女ともにハンデなしか。

まぁそれだけ優秀な女性陣が多いのだろう。


・・・アイリスに負けたりしないよね?

ちょっと不安になってきた。


他にも見渡すと・・・、いた!!

第一王子のアークと親友のレイルだ。

二人の華やかさも目立つことながら、何より女性たちに囲まれているのが非常に目立つ原因だ。

アークはパーティーで見せたような丁寧な対応はしていなかった。

あれは、さっさと去れ!、と視線で訴えている顔だ。

親友のレイルがまぁまぁと御機嫌をうかがっているのが見える。

やっぱり王子って大変だよな。


更にあたりを見渡すと・・・、またまた大物発見!

エリザ・ドーヴィル。

宰相の娘にして、学年一の美女。

学業優秀、スポーツ万能。

青い瞳を持ち、きれいに伸びた髪の毛は腰の位置まで来ている。

腕組みをしながら、軽く瞼を閉じて直立しているが、またその立ち姿が美しい!

流石は我が将来の嫁である。

正直めちゃめちゃタイプですよ。


それなのになぜ性格が悪い!

慎ましくいれば完璧なじゃないですか。

もったいない。


現に今も取り巻きの四天王がエリザの後ろに常駐している。

その四天王の視線で皆威圧されて近づこうともしない。


挨拶する価値がある男なら自分からする。

それ以外はすべて排除せよ!とでも任務を与えられているのであろうか。

そうに違いない。


そういえば原作ではエリザって、たしかAクラスに当たり前のように存在していたな。

ということは、このマラソンでも上位に食い込むということか。


・・・っぷ。


エリザの必死に走っている顔を考えるとなんだか笑えてきた。

あんなにクールぶっているのに・・・。


なんだか勝手な想像でエリザに親近感がわいてきた。

ヴァインとクロッシは仲良くやっているようなので、興味本位でエリザのもとへ近づいた。


「やぁ、おはよう。私はっ」

言い終わる前に、四天王が一人と思われる女性に胸を突き飛ばされた。

それ暴力ですよ!!


「下がれ、下郎!!」

「げろう!?」

下郎ってなんぞ!?初めて言われたからわからない。


「いや、エリザさんに挨拶しようとしただけで」

俺はだいぶ戸惑い気味に伝えた。

「エリザ様は今忙しい、見てわからぬか!下郎!!」

胸を突き飛ばしてきた四天王が答えた。

「げろう!? いや、でも立ってるだけだし」

「しつこいぞ、下郎!!」

「げろう!?」


「おやめなさい、メイリメさん」

まさかの本丸登場である。

エリザがメイリメと呼ばれた女性を制し、俺の前に来た。


完璧とまで言える、美しい所作で一礼してきた。

危うく、きれい、とかピュアな感想が出そうになった。


「クルリ・ヘランさんですね。私、エリザ・ドーヴィルと申します。

先ほどは、お供の者が失礼を致して申しわけございませんでした」

「いや、別にいいよ。気にしてないから。

それよりも、これからよろしくね、エリザさん」

「ええ、至らぬことも多いですがよろしくお願いいたします」

「それにしてもエリザさん、さっきの礼といい、その容姿といい、全てがものすごく美しいですね」

簡素な言葉で申し訳ないくらいにその容姿は美しかった。


「ふふ、クルリさんはどうやら女性の扱いに長けていらっしゃるようで」

「いや、ただの本心だよ」

「そうですか。ではありがたく頂戴いたします。

では、準備もございますので、この辺で失礼いたします」

「ああ、お互い頑張ろう」

「はい」


これまた完璧な一礼を済ませ、エリザはさっさと戻っていった。

四天王が一人、メイリメも謝罪のつもりか一礼してきた。


そんなことより、さっき言った”げろう”とかいうのを取り消せ!!


エリザの印象はすごくいいものだった。

あんな子がアイリスをいじめるなんて想像もつかない。

うーん、でもやるんだよな。

そこが女の怖さだよね。表向きじゃ何も見えてこやしない。

美しさに騙されることなく彼女を止めねば。

それが俺がこの学園にいる最大の理由でもあるのだから。



準備運動を済ませ、軽く体に負荷もかけた。

開始10分前にはすでに辺りも皆準備を終えている。

流石はエリートが集まる学校だ。

運動の心得は当然として持ち合わせている。


「少し緊張しますね、師匠」

開始直前クロッシがそんなことを言っていた。

「ああ、緊張する」

緊張するときは喋ったほうが言い。持論である。



「みんな、準備はいいか?」

ウー教官の声に反応する者はいなかった。

それが全員大丈夫だというサインでもある。

「スタート!」教官の声と共に号砲が鳴り響く。



スタートしてすぐに、先頭集団、中集団、下位集団の3つの大きな塊ができた。

皆それぞれ自分の体力を客観的に判断してあらかじめどの位置に着くか決めていたのだろう。


俺はもちろん先頭集団に食らいついた。

あまり余計なことは考えたくない。

あたりに誰がいるかは見なかった。


学校の外壁を左手に見て走っているので、最初の曲がり角で左に曲がった。

全部でこの角が4つ、後3つ曲がれば最終の直線である。


最初の曲がり角で先頭集団には50人ほどがいた。

徐々に集団がばらけてきだし、走りやすくはなっている。


そのまま徐々に集団は間延びしていった。

2つ目の曲がり角を曲がるころには、30名ほどまで減っていた。

あ、ヴァインがいる。

彼は大きいから気づいてしまった。


いかん、いかん、集中をきらせたら俺も集団から落ちてしまう。


2つ目の角を曲がった後の直線は長い。

直線というコースは走っても走っても距離が縮まったように思えないのだ。


この精神的苦痛に耐えかねて、気づけば集団は10名ほどになっている。


先頭を引っ張るのは第一王子のアークだった。

マジで!?ってなったが、いかん!集中だ!



3つ目の角を曲がり、ようやく最長の直線を終えた。

先頭は、アーク、レイル、ヴァイン、バネの効いた走りをする男、そして俺が残った。


ここまで来てペースを上げる王子に少し驚いたが、何とか全員が食らいついた。


しかし、最終の角を曲がり、ヴァインと、バネのいい男が沈む。


3人での最終決戦だ。


アークがラストスパートをかけた。

引き離されないように食らいついて、すぐに気づいた。


俺にはもう一段ギアがあると。


でも、一位は譲るとしよう。

あまり目立ちたくもないし、王子に勝っても後々いいことにはなりそうにない。


徐々にペースを落とし、アークから引き離された。


一時引き離したレイルに追いつかれる。

彼も相当疲れた様子で、無理に俺を追い抜こうとはしない。

並走という形で進み、ゴールが見えた。

アークは既にゴールして、休憩中のようだ。

「君はまだ余裕があるようだね」ふいに隣のレイルに笑顔でそんなことを言われた。

妙に不気味な笑顔だった。

ふわっと力が抜けてしまい、2位はレイルが、3位は俺がもらった。


レース後アークとレイルはお互いの健闘をたたえ合っている。

直後、ヴァインとバネの男が接戦の末、ヴァインがコンマ1秒の差で勝った。

「いよっし!」

珍しく聞く彼の大声だ。


「クルリは思った以上にやるな」

給水を終えたヴァインが話しかけてきた。

「ヴァインもその大きな体でよく走るもんだ」

俺もヴァインを称えた。

運動の後というのはどうしてこうも気持ちがさわやかなのだろう。


その後も体を鍛えた男どもが次々ゴールに流れ込んできた。

流石に女性にはきつかったみたいで、女性のゴール者はまだいない。


「次が9位か」

最後の一桁順位だ。

ヴァインを見ると視線をコースの方に向けていた。

きっと、なんだかんだでクロッシが心配なのだろう。

それと同時に上位で来てくれと願っているのも知れない。


9位の人物はすぐに見えてきた。



女性だ!


クロッシではなかったのため、ヴァインがすぐに興味を失った。

目を凝らすと、アイルスと、エリザがデットヒートを繰り広げているのが見える。


次に先に入ってきた者が、9位。

最後の一桁順位であり、そしてあの二人にとっては女性1位をかけた戦いでもあった。

二人とも美人の顔が台無しになるくらい必死だ。


アイリス。


勝っちゃだめだ!!


俺は心の中で必死に叫んだ。

声にしたいが、そんなことは出来ない。


エリザのプライドがずたずたになる。

たのむ!!

アイリス、君のために、俺のために、世界のために、負けてくれ!!


「がんばれ!最後だ、踏ん張れアイリス!!」

隣で人の気も知らずにヴァインがさわやかに応援していた。


バカヤロー!!

「エリザー!!踏ん張れ!」

思わず声に出してしまった。

「アイリス!!」ヴァインが叫ぶ。

「エリザ!!」俺も負けじと叫ぶ。

「アイリス!!」

「エリザ!!」

「アイリスーー!!」

「エリザーーー!!」


二人はゴールが見えて、最後の加速に入る。

二人ほぼ同時にゴールに駆け込んだ。


どっちだ!?


「エリザが若干前だな」

ウー教官が答えた。


「やったーーーー!!」

つい叫んでしまった。

エリザが、なんであなたが喜ぶの?といった表情だ。


「お疲れさま。エリザさん・・・ですよね?いい勝負でした」

アイリスがエリザのもとへ駆け寄り、手を差し伸べた。

スポーツ後の良き景色ですな。


「ふんっ」エリザは軽く鼻であしらい、無視して給水に行った。


アイリスが悲しそうにこちらへ来る。

「嫌われちゃったみたい。いい勝負だったのになぁ」

「お疲れ。いい勝負。そして、いい結果だったよ」

アイリスに水を手渡し、俺は満面の笑みを向けた。






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[気になる点] >目を凝らすと、アイルスと、エリザがデットヒートを繰り広げているのが見える。 アイリス?
[良い点] コミカライズで女子の体操着をブルマにしたのは英断だった
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