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8章 12話

奇跡の復活を果たした俺は、自治領主就任式に向かってまた準備を進めることになった。

屋敷には現在ラーサー、アイリス、レイルなどが泊まってくれて明るく過ごしているが、エリザとは顔を合わせづらい気まずい状況が続いている。

激しく喧嘩をして、その後記憶が戻るとか気まずすぎる。本当に気まずい。なんだかあちらも気まずいみたいで、二人して不自然に距離を取ってしまっている。

今朝も顔を合わせるなり、俺もエリザも小走りに走り去っていった。走っていった先が同じで、また走りさるというドジっ子ぶりもお互いに発揮。

アイリスが仲直りのために間を取り持ってくれようとも試みたが、うーん、いざ顔を見合わせるとなんだか言葉が出てこない。

そんな感じなのだが、エリザとプーベエはというと早々に仲直りできたようで、プーベエの食事はまた前みたいにエリザが作って持って行ってくれるようになった。プーベエもすっかり元通りの様子で甘えてほほを擦りつけていたりする。俺もあれだけ素直だと良いのだが、なかなか難しい。素直にほほを擦り付けた先には、ビンタが待っていることだろう。

でも、そのうち仲直りもできるだろうという楽観的な気持ちもどこかにあるため、この件は置いておくとして、まずやらなければならないことがある。

先日の魔導列車襲撃、および誘拐を行った犯人グループの裁きである。

王都に送り付けて裁きを任せても良いのだが、襲撃されたのが魔導列車であったことと、被害者のほとんどがヘラン領民だったこと、更には自治領設立のタイミングだったこともあり、罪は相当重いと判断し特別に犯人グループをヘラン領で裁くことが許された。

まだ裁判長のポストは空いたままなのだが、領民の不安な気持ちを汲んであげるためにもこの裁きはやはりヘラン領の地でやっておくべきだろう。

最高責任者を俺に据えて、裁判は行われる予定だ。


その前日、俺はひっそりと屋敷の庭に隠れて“ヤツ”を呼び出すことにした。魔法生物である、大根を一匹だけ呼び出したのだ。

群れるとキモイ彼らだが、一匹小さいのを呼び出すと不快感はそうでもなった。頭に緑の葉を乗せ体は相変わらずの白い大根上に伸び、大根の片側には濃いおっさんの顔が浮かび上がっている。

『ウィ』

「あっ、こんにちは。ちょっと聞きたいことあるんだけど」

どうやらしっかり挨拶のできる個体がやって来たらしい。スムーズな会話ができそうでなによりだ。

『ウィウィウィウィウィウィ』

自分は立場をわきまえているため、主の質問なら何でも答えます。だと!? まさか、こんな礼儀正しい個体が本当に生息していようとは、まだまだ大根たちは奥が深いようだ。彼らを本当に理解することができるには、道はまだ遠いのかもしれない。近くても、理解しようという気持ちもないのだが。

「この間大木大根が一人人間をお前たちの世界に連れていっただろう? あいつはどうなっているのかなと」

『ウィー。ウィイウィウィウィウィウィイウィ』

なるほど。そんな過酷なことになっているのか。

どうやら大根たちのふるさとでは少ない資源、更には他の魔法生物たちとの戦いで常に労働の手が足りていないと。だから連れていった人間は強制労働させているらしい。

「どうなんだ? 良く働いているか? 」

『ウィウィウィッウィウィ』

それはそれは良く働くと。なんか人間全体が褒められているようで嬉しいな。だから大根会議が行われて、もっと人間がいるということになったらしい。

「ほぉー、それは都合がいい」

『ウィウィウィイウィウィウィウィウィウィウィウィウィウィイウィウィウィウィウィ』

うわっ、なんか急にめっちゃしゃべりだした。こわっ!

なになに? 今まで我々大根生物は無償で働いてきた。そろそろその対価を欲しても良い頃だと思う。近々正式な遣いが来るはずだが、今ここでも伝える。今後我々への報酬に人間をよこして欲しい。

礼儀正しくも、きっちりと自分たちの要求を伝えてきた大根。礼儀正しいぶん、なんか却って面倒だな。蹴とばしてやりたい気持ちになった。

「いいよ。こっちも受け皿が欲しかったところだ。自治領になって犯罪者を捌くことができるようになるから、有罪の者はそちらに送る。刑期を終えたら返してくれ、また新しいのが入ったら送るから」

『ウィウィイウィウィウィウィウィウィイウィウィウィウィ』

私では正式な返答はできないが、その内容でこちらも条件を飲むと思う。千人くれたら我々は十年働く。

生意気に交渉してきやがるぜ。一度代表大根を召喚してみようかな。で、生意気言ったら思いっきり絞る。で、干す。日に干すし、召喚もせずに仕事面でも干す。

「千人は多い。けど、どうしても送る必要のある人間は出てくるだろう。数は約束できないが、定期的な供給はできる。それを代表大根に伝えてこい。それと三十年は働け」

『ウィウィウィウィウィイウィウィウィウィウィウィウィッウィウィウィ!! 』

主が自治領主になったのは知っている。それは我らが存分に働いたからだ。そのおかげだ。地上は主にやる。地下は我らが支配する。我らは一心同体だということを忘れるな! 立場は対等なはずだ!

スパーンと蹴とばして、礼儀正しい言葉使いの大根を地中に帰らせた。次はもっとがさつなのでいいや。多分さっきの大根は大根界のエリートだろうな。変な思想とか持ってそう。やだやだ。それにしても、地上やる。地下は我らのものって、奴ら意外とでっかい野望の持ち主なんだなぁ。意外と感心してしまった。

さて、罪人たちの行く手は決まったことだし、誘拐犯共を捌くことにしようか。


次の日、裁判の会場となったヘラン領主屋敷前臨時会場には数多くの領民たちが集まっていた。裁判への興味や、純粋に野次馬根性で来ている人などなど様々な視線が会場を覆った。

会場の一番奥の俺が座り、見届け人として側にラーサーが王族代表として座った。

待つことしばらく、領民の輪を割って、鉄熱隊に引き連れられて誘拐犯の一味が全員縛られた格好でやって来た。精神的な疲労や、体力の疲労が見て取れた。気力をそがれて自力で立てない者もいた。

裁判が始まる。

今回の罪状がロツォンさんよって読み上げられていく。犯した具体的な罪をもとに、一人一人の名前と罰が言い与えられる。誘拐犯は一律にヘラン地下牢獄(大根たちの国)で十年の強制労働だ。真面目に刑期を終えたものにはヘラン領での仕事を与えることも内容には含まれた。弁護人はおらず、彼らには自己弁護の方法しかないのだが、罪状に異議を申し立てる者はいなかった。

刑の決まった者から会場を後にし、最後に残されたのが、先日の誘拐事件で人質に紛れて俺を後ろから刺した真の主犯である男。

元は名のある貴族であり、先日もまだ貴族を束ねるだけの気概があった。それなのに、今は罪人に身を落とし、ただ裁きを待つばかり。

彼の罪状もロツォンさんによって読み上げられていく。誘拐および、殺人未遂、魔導列車の破壊等が彼にのしかかる罪だ。罰はヘラン地下牢獄で三十年の強制労働。もちろん彼にも、真面目に刑期を終えたあとはヘランで仕事を与えることを内容に加えた。

「異議はあるか? 」

「それよりも、クルリ・ヘラン殿。こんなに早く公の場に出てもよろしいのか? 傷がまだ痛むだろうに」

彼は疲れ果てた顔で、それでも気力を振り絞って必死にこちらを睨みつけながら、ニヤリと笑った。

「大丈夫だ。完治した」

「無茶を言うな。あの傷だ。座っているだけでも辛いだろうに」

「いや、ほら、こんな具合に完治した」

傷口があった場所をめくり、彼に見せてやった。そこには俺の健康的ですべすべした肌があるだけだった。

「あっ……がっ! そんなはずは!? 」

「あるんだよ。今度は喧嘩相手を間違えないことだな」

彼は開いた口が塞がらず、こちらを見つめ続けた。正気に戻るまで待ってやるつもりもないので、再度聞いた。

「もう一度聞くが、異議はあるか? 」

まだ返事がないので、鉄熱隊に退場させるように指示を飛ばした。

今回はこれでお終いだ。

「……異議だと!? あるさ、あるに決まっている」

動き出した鉄熱隊を止める。

「異議があるなら聞こうじゃないか」

「成り上がりの小僧がこの私を裁くだと!? 我が家は代々王族に仕えるほどの逸材を出してきた銘家だ。ダータネル家だって我が家には一目置いていた。そうだ、こんな辺境の領主に裁かれる我ではないのだ! 」

「誰が偉いとか、そういう話ではないぞ。お前は犯罪行為をし、私がたまたま裁く権利があるだけの話だ。お前の家が過去どれだけ栄華を極めたかなんて、お前の犯罪行為になんの関係があるんだ? 」

「関係があるとも。ラーサー様も黙って聞いていないで何かおっしゃってください。この不届き者になにか喝を! 」

俯き加減に話を聞いていたラーサーだったが、この言葉にようやく顔をあげ、彼に厳しい言葉を放った。

「不届き者はあなたです。自治領主様に謝罪を述べなさい」

「なっ……。なぜです! 王族のために我が家は何代も働いたというのに! 国の為に! 王族の為に!! それなのに!! ああっ!! 」

ラーサーは悲痛な顔をしてその叫びを聞き入れていた。真面目に取り合う必要などないと思うのだが。

だから俺からこう言ってやった。

「言葉だけでなく、行動も伴っていたらもっと違う結果になっていたかもしれないな。いつまでも人に縋り付いているから自分の力で立てないんだ。大根の国……ヘラン地下牢でそのことをよく考えて見るんだな」

彼はとうとう怒り叫び、次第にそれが奇妙な笑いへと変わっていった。

「盛者必衰……か。あれだけ栄華を極めた我が家でもこんなことになってしまうのか……」

「哀れだな」

「ふん、笑うがいい。クルリ・ヘランよ。だが、次はお前だ。頂に届いたつもりか? 年老いてお前が地位を失う日が来ないとでも? 馬鹿め、今なら言える。誰にだって俺の立場になる可能性はあった! 」クルリ・ヘラン、お前にもな」

「当然だな」

もはやその言葉は俺に響くことはない。誰よりものそれについては思い悩んできたと言ってもいい。

「わかっているだと? それともわかっているつもりか? いざその時が来るまでお前にはこの苦しさなど想像もできはしないだろう。これからも没落する貴族はどんどん出てくるだろう。そいつらはお前を見ては妬み、嫉み、やがて恨む。ダータネル家や私だけではない、お前が没落するその日までお前を追い続ける者は後を絶ちはしない! 」

「どうぞ来てください。大根の国は人員不足らしいので」

「ふははははっ!! いつか没落したときのお前の顔が楽しみだ! 登れば登るだけ、落ちる高さも高くなる。最高だ! 地獄から見ておいてやるぞ! 」

彼は叫びに叫んだ。そして何が嬉しいのやら、笑いが止まらない。

「だからお前は二流なんだ」

「……は? 」

俺の言葉に耳を傾け、笑いは一旦止まった。そしてまた凄い形相で睨んでくる。

「没落が怖くて貴族がやってられるか」

「……どういうことだ? 」

「没落予定なら、鍛冶職人を目指せ。そんなことも考えられないからお前たちはダメなんだ。権力よりも、自力を欲しろ。地に足の付いた生活を忘れないように。以上、お前は大根の国で三十年の強制労働。できれば向こうで手に職つけられるように頑張りなさい。閉会! 」

会場に集まった全員に聞こえるように、閉会を告げる木槌を叩いた。木の乾いた心地の良い音が響き渡る。

「解散!! 」

誘拐犯たちは全員が連れていかれた。

彼らにはこの後土に沈んでもらい、強制労働をして貰うこととなる。

大根たちと喧嘩しないように。ちゃんと働いているかは、定期的に大根を召喚して報告して貰おう。

また新しい指針ができて、ヘラン領は一つ進歩した。

没落予定はどこへやら。ヘラン領には平和な風ばかりが吹いていた。

もう没落はないのかもしれない。だけど、鍛冶職人としての腕は磨いていこう。それが俺の基礎の部分であると思うからだ。いいや、思うんじゃない。きっと基礎に違いない!!



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