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7章 11話

無事トトとの話し合いがまとまり、彼も計画のメンバーの一員になって貰った。

その次の日、トトはギャップ商会の使用人たちと共に薬草の販売へと出かけて行った。

残された俺は、屋敷の前に並べられた犯罪者集団と対面する。


全員、昨日見たよりも気合が入っている。

ロツォンさんに良い食べものを手配されたのか、栄養状態もよろしい。

立派に働くことができそうだ。


「クルリ様、皆を代表して言いたいことがあります」

彼らの顔を眺めていると、昨日俺を呼び止めた男が一歩進みだしてきた。

「こいつらを代表しているジャングといいます」

ギャングとジャンクを混ぜたような名前だった。らしいっちゃらしいけど、と失礼なことを思い浮かべてしまう。


「アーク王子から直接聞きました。ヘラン領もそう余裕があるわけじゃないにも関わらず、俺たちをいつまでも監獄に入れておくことに心を痛めたクルリ様が強引に呼び寄せたのだと。ううっ、その気持ちだけでも十分なところ、王族に睨まれるようなことまでして俺たちを呼び寄せていただき、ありがとうございます!! 」

「「「ありがとうございます!! 」」」

ジャングに習って、後ろに控えた面々も頭を下げた。

礼儀とはかけ離れたような連中だが、随分と躾が良いではないか。誰が躾けたんだか……。


とはいえ、これは思った以上に使える人材が集まったのではないか? 

アーク王子がやたらと都合のいいことを刷り込んでくれたおかげで、こいつらはこの通り恩を感じており、やたらと素直だ。

それにどこか俺を恐怖の目で眺めている奴等もいた。監獄内で俺は一体何をやらかしたんだろうか? 想像するとちょっとぞっとするよ。


「俺たちはその心意気に感動しました。監獄内にいた時もそうでしたが、俺たちのことを人間として扱ってくれて、ちゃんとした生活が送れるように指導してくれたのはあなただけだ。これまでも、そしてこれからもより一層あなたへの忠誠を誓います。どうぞこの命、お好きなように使ってください」

「じゃあ、俺が死ねと言えば死ねるのか? 」

「「「もちろんです!! 」」」

調子に乗って凄いこと言っちゃったけど、もっとすごい回答があっさりと返されてしまった。

いやはや、王子にとんでもないものを押し付けられたと思っていたが、なんてことはない。彼らはかなり使えるではないか。


「まずは、お前たちがどれほど使い物になるのか知りたい。付いてこい、仕事を与えてやる」早速俺の口から出たのは仕事をさせることだったにもかかわらず、彼らからは一切の不満が出ることはない。それどころか、仕事ができる喜びを分かち合うかのように張り切った様子を見せていた。


連れて行った先は、先日魔石が大量に見つかった鉱山だ。

こちらも十分な人員がそろっていたはずなんだが、思った以上に魔導列車と竜の背骨建設の進行が早く臨時的に増員が欲しいと要望が来ていた。

都合よくそこに犯罪者集団が来てくれたので、ここにうまく当てはめてみる。


「お前たちにはここで魔石を運んで貰う。徐々に慣れてきたら新しいことにも取り掛かって貰うから、時間があれば他の仕事も見て回るように」

「「「はい!! 」」


彼らはその気合の入った返事と、真面目そうな態度通り、しっかりと働いてくれた。

普通の領民が運ぶ量よりも、平均して彼らは1,5倍は良く運ぶ。体格が大きく、力強い者が多いため、当然といえば当然だった。

こういった作業場では疲労が怪我につながるため、休憩の頻度は多いのだが、彼らが渋ったのはいつも休憩に入る時だった。

他の領民たちが適度に疲労していても、彼らはあまり疲労しておらず、もっと働きたいという気持ちを我慢できず、勝手に休憩を返上する者まで出た。


午後になっても、彼らの仕事のペースは落ちない。それどこか調子が出てきて、午前よりペースの良い者さえいた。

仕事自体は本当に順調だった。彼らの顔には働ける喜びが満ち溢れている。

しかし、所々で細かいトラブルは起きていた。

働くペースに差が生まれて、領民たちのペースに不満を漏らす者が何人か出てきたのだ。

うーん、これは同じ水槽に入れてはいけない種類の人間たちだとわかった。たった一日でわかってよかった。

一日が終わって、臨時で増やして欲しかった魔石を掘り終えることができた。一重に犯罪者集団のお陰だ。いや、もうその呼び方はやめてやろう。これからは新しい名前をくれてやることにしよう。


その夜、彼らには屋敷の側にある領地で仮設テントを建ててその中に泊まってもらうことにした。いつまでも客扱いで宿をとってやるつもりはない。

でも、ちゃんと働いた分は返すつもりだ。


彼らには食事と、全員が欲しがっているだろう酒を振舞った。

この日は俺も彼らの仮設テントへと行き、一緒に食事をとることにする。


「今日は全員良く働いてくれた。こんなに真面目に働いてくれるのなら、お前たちを近いうちに正式にヘラン領民として受け入れることができるだろう」

酒を飲む手を止めて、彼らは俺の話に聞き入る。

「しっかり働けば、家を与えてやることもできる。さらに財産を蓄えることもできるし、家族を持つことも可能だ。どうだ? ヘラン領でこのまま働いていく気になったか? 」

「元からそのつもりですぜ! 」

誰かがそういって、周りも乗せられて笑ったり、同じようなことを叫ぶ者もいた

「そうか。……しかし、今日のお前たちを見ていて思ったことがある。お前たちは頭が悪い。しかも思いやりがない。おまけに人に好かれる見た目をしていない。一日真面目に働き通したというのに、領民たちはお前たちに好意的な目を向けていたか? いいや、俺が思うに、かなり腫れ物を扱うような態度だった」

「ボス? 」

どこか弱弱しい声が聞こえてきた。


「お前たちはダメな人間だ。本当にダメだ」

「ボスがそういうなら、そうなんでしょう……」

「しかし、領民たちより1・5倍は働いた。お前たちは力が強いからな。それなのに疲労も少ない。やれと言われればこれからも今日と同じペースで働き続けることができるだろう。お前たちに他の者と同じことをやらせてもダメだが、お前たちには違う才能がある。それを発揮できる仕事があれば、お前たちはダメな人間ではなくなる。そうだろう? 」

「ボス……! ボスがそういうなら、そうなんでしょう! 」

彼らの目頭は熱くなっていた。

まず貶した後、実績と長所を褒めてやる。やっぱりこいつら操作しやすいぞ! 


「俺がお前たちを呼び寄せたんだ。何より俺がお前たちを理解している。安心しろ、力の発揮所は用意してやる」

どうせなので、王子の嘘に乗っかってみた。もう俺が彼らを呼び寄せたことにしておこう。そのほうが扱いやすくなりそうだ。


「明日より、ヘラン領初の私設兵団を創設する。お前たちはその初代メンバーになる。頭が悪いなら黙って俺の指示に従えばいい。思いやりがなんてなくていい、ただ俺を守れ。人に好かれる見た目なんて必要ない。お前たちは目の前の敵を威圧しろ! どうだ? やれそうか? 」

「「「おう!! おう!! おう!! 」」」

彼らから発せられる咆哮は、戦士の雄叫びだった。

今ここにヘラン領の私設兵団が成立した。


次の日から、彼らには剣を手に取らせた。

実際に使わせ、その向き不向きを見ていく。

流石に扱いに慣れたが多く、後は綺麗な鎧をまとわせれば正規の兵団ができあがるのではないかと期待させる。

順調そうな者はそのままやらせて置き、剣がダメなものは他の武器を持たせた。

弓も配り、これも才能あるものとないものに明確に分かれた。

槍や、棍棒なんてものも持たせてやる。

日が真上まで登ったころには、ほとんどの者が自分にあう武器を見つけていた。あとはその向き不向きに従って、編成を考えるとしよう。

なかなか強力な兵団が出来上がりそうな予感がした。


「で、お前は最後に残った訳か」

俺は最後に残っと男と向き合っていた。

顔を包帯でぐるぐる巻きにした男だった。傷か何かを隠すための包帯だろうと思われたので、包帯には触れなかった。

「なかなか向いている武器が見つからないな。何かやってみたいものとかあるか? 」

「やってみたいものがあるかだと? ふざけやがって、俺様に気安く話しかけるな」

包帯の向こうから鋭い眼光が俺を睨み付けた。

意表を突かれたのは事実だ。てっきり全員が俺に賛同しているものと思っていたから、この反抗的な態度には驚いた。

その直後、包帯男は後ろから派手に頭を殴られる。

大柄の男、ジャングだった。確か彼らを代表していたんだったな。

「すみませんボス、こいつ新人でしてね。入ったころからずっと反抗的なんですよ。ヘラン領に来る間もずっと隙あらば逃走を図ろうとしていまして。あの大監獄から出られたのが誰のお陰か理解していないんですよ」

「出られたのが誰のお陰かだと!? 戯言もいい加減にっ」

言い終わる前に、再びジャングに殴られる。

もう反抗的な言葉は出てきそうになかった。

「まぁまぁ、この場はいいから。ジャングも自分の訓練に戻るといい。こいつは俺が預かっておくから」

「ボスがそれでいいなら、行きますが」

「ああ、それでいい。こいつとはゆっくりと話すよ。どうやら言い分もあるみたいだし」


ジャングが去った後、包帯男の目には力強さが戻って来ていた。

今にも不平不満がその口からあふれ出てきそうな感じがした。


「さっき何か言いかけていたな。なんだ? 不満があるなら聞いておいてやる」

「不満だと!? そんな生半可なものではないわ! 恨みだ、それも深くどす黒い恨みがある! 」

「俺に? 」

「他に誰がいる! 俺があの監獄に入れられたのはお前のせいじゃないか。お前が父上の取引を邪魔して、我が家を貶めたのだ! 」

彼は力強く言い切ると、その手で顔の包帯を強引にはぎ取った。

包帯は案外頑丈なつくりをしていて、耳に引っ掛かり、あっ痛いっと声を漏らしていたのがちょっとおかしかった。


包帯が取れて、出てきた顔は、不平不満を表情に浮かべたひねくれた顔だった。顔のつくりは別として、髪の毛や肌は薄汚れているものの、どこか育ちの良さそうな上質さがあった。

「この顔を忘れたとは言わせんぞ。クルリ・ヘラン! 」

「え? 誰? 」

「フレーゲン・ダータネルだ。貴様というやつ、いつもいつも俺の邪魔をして。まさに疫病神だ。今この場で殺してやりたい。あー、殺してやりたい」

「でもお前ほとんどの武器ダメだったじゃん。俺に勝てんの? 」

「あー!! そういうところが腹立つ! そういう舐め腐った顔して舐め腐ったことを言うのが腹立つ!! 」

「正論だから仕方ない」

「だからそれが腹立つって言ってんだ!! 」

あまりに騒ぎすぎたため、ジャングが駆け寄って来た。俺はそれを視線で制した。ジャングは戻っていく。


「フレーゲン・ダータネルね。なんか王都で会ったよね。お腹の調子が悪かった人だ」

「貴様の顔を見たからだ。今もなんだか調子が悪い。そんなことはどうでもいい。今ここでダータネル家の全てを代表して殺してやる! 」

「だからどうやって? 武器使えないし、何かしたらジャングが飛んでくるぞ? もっと具体的な計画はないのか」

「うっ、くっそ、うぐぐぐ、あああ!! 」

なんか泣き出しそうだったので、この辺でやめてあげた。


「で、何がどうなって監獄に入ったんだよ。ダータネル家って確か王都で相当の名家じゃないのか? 没落しすぎだろ」

「貴様がそれを言うか」

力強く歯を噛みしめて、フレーゲンはより一層こちをにらむ。睨み付けても防御がさがるだけで、ダメージないんだぞ。覚えておけ。


「王家がダータネル家はアッミラーレ王国の貴族サルマンと不正な取引をしたとして我が家に攻め込んできたのだ。小汚いラーサーの奇襲で抵抗もできず、我が家は崩壊してしまった。父上は逃げ切ったものの、俺はこの通り捕まり大監獄に入った。ふんっ、笑えよ」

「いやっはははは、ちょっと、本当に没落しすぎ」

もう目からビームが出てきそうなくらい睨んでくるものだから、流石に笑うのはやめてあげた。でもなんか超面白い。貴族が没落ってありがちだけど、これだけの貴族が没落ってのはやっぱり笑ってしまうよ。全く、もしもの時のために手に職でもつけていれば良かったものを……。


ハッとした。なんか今一瞬昔の記憶が蘇るようか感覚があった。

手に職つける……。没落……。鍛冶職人……。

ああ、ダメだ。これは出そうで出ないくしゃみと一緒だ。気持ち悪い感じで終焉を迎えるだけになりそうなので、思い出すことはやめた。


「そんなに落ち込むなよ。没落したらやり直せばいいだけじゃないか」

「没落させた本人がそんなことを言うか。貴様のせいで俺の人生めちゃくちゃだ」

「もともとそんなに良いものでもなかっただろ? それに俺じゃないだろう。王家が攻め込んだんだ。王家を恨め」

「いーや、貴様だ。ピチダイがこの数年間で我が家からとった財産の額を知っているか? ギャップ商会の頭は貴様と友人関係だな。奴らが我が家から取り上げた利益分を知っているか? あの夜攻め込まれて皆を震えあがらせたラーサーの手に握られていた剣、あれは貴様が作りあげた剣だ。全て貴様だ。なにもかも貴様が関わっているんだ」

「そういわれてもなー。そうだ、とりあえず昼飯にしないか? 」

「貴様! どこまでもコケにしやがって!! 」

と呪詛の言葉をその後も叫び続けた彼だったが、エリーの持ってきた昼飯にはちゃんと口を通した。

「なんだよ。飯はちゃんと食うのかよ」

俺は仲間はずれの彼の側に寄り、一緒に目を食うことにした。

「うるさい! あっちいけ! 」

「午後はなんの武器を試してみる? お前貴族なのにそういった嗜みが一切ないのな」

「平常な顔して貶してくるな! 俺は本当は強いんだ! 誰よりもな! 」

「いやいや、弱いじゃん。そういうのいいから、何かできそうなことはないのか? できることがあれば、お前もヘラン領で暮らしていけるんだぞ? 」

「は? 馬鹿か貴様は! これのフレーゲン・ダータネルがこの馬糞臭い田舎で暮らすだと? 寝言は寝て言え! 」

「寝言に返事すると良くないらしいぞ」

「知らんわ! 」

「そういっても、お前帰る場所あるのか? 王族に処断されたから監獄に入ったんだろう? 俺の耳にはまだ入っていないけど、近いうちにダータネル家の取り壊しもあるだろう。そしたらお前はもうフレーゲン・ダータネルじゃなく、ただの無一文のフレーゲンになる。せっかく仕事を得る機会があるのに、それを放棄するのか? 勿体ない」

「貴様に俺様の気持ちがわかってたまるか!! この俺の!! 俺は王都一の貴族、フレーゲン・ダータネルなんだ! 今も! 昔も! これからも! 」

そう力強く言い切り、フレーゲンは大泣きしだした。

「まぁそう泣くなよ。過去の因縁なんてどうでもいいじゃないか」

俺覚えてないし。

「どうでもよくない! お前が嫌いだ! 魔導列車はダータネル家の計画だったんだ! それを勝手に進めやがって」

「ああ、確かそうだったな。でも計画だけじゃなく俺たちにはその意思と力もあった。だから成功しつつある」

「くそっ!! くそっくそっ!! それに、エリザも俺の嫁になる予定だっんだ! それなのにくそ田舎のくそ貴族である貴様に奪われた! 」

「いやいや、それはエリーの気持ち次第だろ。文句を言われる筋合いはない」

「なにもかも、俺から奪い取っていきやがって! 」

「もう、俺が悪かったから。な? 卵焼きあげるよ、それで勘弁してくれ」

「卵焼きで勘弁できるわけないだろ! 卵焼きで! 」


卵焼きは受け取手貰えず、その後も彼は延々騒ぎ通して、夕方ごろにはぽっくりと死んだように眠りについた。

これだけ騒げば多少すっきりもするだろう。


フレーゲン以外のメンバーはほとんどが自分に合った武器を見つけていた。

兵団はこれでもう充分出来上がりつつあった。

フレーゲンの処遇はまた今度決めよう。


「おーい、全員集まれ」

眠ったままのフレーゲン以外を全員集めた。

「お前たちはこれから私設兵団として俺の言う通り戦ってもらう。きっときつい道になると思うが、それでもやれるよな? 」

「「「おう!! 」」」

「よし、ではお前たちに名を授ける。今よりお前たちは『鉄熱隊』と名乗れ。ヘラン領の私設兵団鉄熱隊、鉄の様に固く、温泉の様に熱い魂を持った兵団だ。いいか、その名に恥じぬように行動しろよ」

「「「おう!! 」」」

こうして、また一つヘラン領の地盤を固くする出来事がまとまった。



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