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7章 6話

ピチダイがダータネル家の取引を邪魔して押収した品が屋敷の前まで届いた。

馬が4頭で引く、大掛かりな荷馬車でやっと運べるような品物だ。ただごとではないことは一見しただけでわかる。


一部の信頼できる領民に手伝ってもらい、荷馬車からそれを屋敷の倉庫に運び入れて貰った。厳重に布とロープで覆い隠されているため中身は見えてこない。しかし、僅かにする鉄の匂いや、その剛性さから何かの兵器ではないかとうかがわせる。

手伝って貰った領民たちはそれを運び入れた段階で解散してもらった。なにかやばいものだと彼らも理解しているようだけど、詳しくはまだ見せてやれない。どんなものかまずは俺たちが判断すべきだ。


頑丈なロープは全て俺の手で外し、最後に残った布も勢いよく取り去った。

目の前に現れたのは大砲のような兵器だった。しかし、大砲のような鉄の大筒一口ではなく、小ぶりだが銃口の小さい筒が数多くある。それが円形上に20近く並べてあり、綺麗に溶接されている。土台は鉄の車輪でできており、この重い兵器自信を可動にさせる作りだった。地面から銃口までの高さは俺の胸辺りまで来る。

圧倒的な存在感があった。


「王都にある大砲とはちょっと違う? いや、だいぶ違うか……」

一応感想と、ラーサーへの確認として言ってみた。

「そうですね、王都にある魔道大砲は遠距離へ、それも大火力を想定しておりますが、どうやらこちらは想定している戦いの場が違うようですね」

それに……と他の感想もありそうだったが、とりあえずはこの兵器のより細かい観察に移った。


それから一日かけてラーサーたちとこの兵器について解析していった。どうやら使われている材料からして、やはりアッミラーレ王国から輸入されてきたもので間違いないことが分かった。そして、これを作ったのはおそらくアッミラーレ王国の貴族であるサルマンという男。

はじめ勝手がわからなかったのだが、いじっていくうちにこの兵器の便利さそして恐ろしさが分かってくる。

どうやら魔法弾を打ち出すシステムはラーサーが良く知る魔道大砲と同じらしい。


兵器の上部に取り付けられた魔石に手をふれ、性質変化させた魔力を流し込んでいくのだ。そうすることで魔道大砲につけられた魔石と共鳴して、魔道大砲の大筒から変換された魔法弾が遠距離にそれも大きな破壊力を持って飛んでいくのだ。

しかし、魔道大砲の弱点としては連射ができないという点があげられる。それは魔道大砲を打ち出す際のコストが高すぎるからだ。一発打ち出すためには並みの魔法使いが3人息を合わせて魔力を魔石に注ぎ込む必要がある。注ぎ込む魔力量を3だとすると発射される魔力弾の威力は4、とエネルギー効率もそれほど良くない。個々人の魔力が合わさったり、遠くへ飛ばせたりとメリットが多いのは当然だが、その後およそ1,2分の休憩を必要とする弱点がある。

それでも魔道大砲には計り知れない価値があるため使われている。特に城を守る戦いにおいては何よりも力を発揮してきた。


一方で、サルマンとダータネル家から頂戴した今回の兵器。魔道大砲のような一発の重みは当然ない。飛距離も負けるだろう。しかし、こちらのユーティリティは魔道大砲を遥かにしのぐ。

まず、操作は一人で十分である。魔石に注ぎ込む魔力は一人分で事足り、魔道大砲のエネルギー効率の悪さとは対照的に、こちらは1注いだら銃口から発射される魔法弾の威力は通常の魔法の威力の3倍にもなると見込める。銃口が細く、魔力が凝縮されて発射されるためだ。しかも銃口が円形上に並べられており、連射も可能である。操縦者の魔力量にもよるが、魔道大砲が魔力弾を一発撃つ間に、およそ数十倍の数を打ち込めるのがこの兵器の恐ろしさだ。


「これって結構な国の危機? 」

「未知数な部分は多いですが、早急に王都に戻って報告する必要がありそうです」

ラーサーの緊張した顔は、ここ最近見たことがないほどのものだった。前に水を飲みすぎてお腹を下した時、これに近い顔はしていたけど……。


屋敷の倉庫の中で試し打ちはできないので、外に運び出し、早速その威力を試させてもらった。俺たちの論では相当強力な兵器なるものと想定しているが、果たしてどれほどのものか。


外に持ち出したものの、何を撃っていいやら。

木? いいや、木だって生きているじゃないか。


ならばと、銃口を空に向かって60度ほど傾ける。

角度と距離をうまく調整して、目標落下地点を天然の花畑へと設定する。


魔石に触れ、水の性質を纏わせた魔力を注ぎ込んでいく。

魔力が流れた込んだ途端、20もある銃口から順番に凝縮された水の球が高速で発射されていく。一秒間に3発はでているくらいのかなりの連射スピードだ。

ドドドドドドドドドッと辺りに響き渡る、地面をも揺らすほどの爆音。


そして天高く打ち上げられた水の球は空中ではじけて、やがて細かい水の粒となって花畑へと降り注いだ。


うわー、花の水やりにすごく便利―。

なんて考えをしたのは、絶対に口にはできない。国のピンチなんだから真面目にいかないと。

でもしばらくはこうして使わせてもらおうかしら……。


「量産されたら太刀打ちできなくなるな……」

「それはないと思います。発射の媒介をする魔石は非常に希少なものなのです。そんなにポンポンと集まるものではありません。しかし、この技術力が恐ろしいこともまた真実。兵器管理はアニキに任せます。私は急いで父上にこの剣を報告してきますので」


ラーサーとアイリスもこの剣で王都に戻るため、夜遅くなのに旅支度に入った。

俺とロツォンさんは兵器を分解し、夜のうちに簡単な設計図を書き上げた。こから更に解析していくが、急いでラーサーに持たせる分にはこれで十分だろう。


「この兵器、なんと呼びましょうか? 」

ラーサーたちに設計書を渡した時、ロツォンさんがそんなことを聞いてきた。

確かに、名前がないというのも不便なものだ。

水やり器? 絶対却下されてしまうだろう。


「水やり器とかどうかな? これなら名前が漏れても平気だし、知らない人が効いたらさっぱりわからないじゃない? 」

とアイリスが案を出した。俺と同じこと考えてたー。なんかちょっと嬉しい。

「そうですね。いい案です。ではこれよりこの兵器は水やり器と呼びましょう」

決定しちゃったー。それでいいのか。なら言えばよかったよ。ぐっと堪えたのがちょっと悔しい。


「では、アニキ。しばしのお別れです」

ラーサーとアイリスは水やり器の情報持って、早馬で王都へと向かった。


さてさて、俺とエリーとロツォンさんは残ったわけだが、何かをやるよう託されたわけじゃない。待っている間、ヘラン領の発展に貢献するため働くしかないのだが、せっかく水やり器の設計図もわかって来たし、作ってみたい。


という訳で、次の日には開発が進んでだいぶ規模も大きくなり、活気があふれている職人街へと向かった。もちろん水やり器も一緒に。


なるべく情報を漏らさないようにはしたが、結構難しいだろうなとは思う。

腕利きの職人を集め、俺も片手にハンマーを持ち、水やり器2号政策談議に入った。


「そりゃクルリ様の技術やこれだけの人員があれば形だけはこれ以上のものはできますぜ? しかし、やはり魔石がないんじゃどうしようもないですぜ」

職人たちと話し合った結果、やはり魔石がないとどうしようもないということだった。

ここまで高出力に耐えられる魔石は一部の地方で少量しかとれない。しかもそのほとんどを王都が独占しているものだから、ヘランの地にはありもしない。


結局完成品は無理だが、作り手が集まればとりあえず作ってみようということになるのも必然であり、およそ一週間をかけて水やり器2号は完成した。銃口の円筒は一号よりも更に綺麗な円形を描いており、細部のつくりも比べ物にならないほど丁寧だ。職人街はものになりつつあるという証拠がここに出来上がっていた。

「では皆のもの、やってみようか」

ここまでのものを造り上げるとどうしても使ってみたくなるのが人情で、可哀そうだが一号は分解された。もちろん魔石を奪うためだ。


魔石を2号にはめ込み、早速水やりテストが開始された。

先日よりもさらに天高く打ちあがる水の球たち。

しかも速度も速い。魔力を注ぐと、1秒間に5発ほど連射される。エネルギー効率もさらに上がっていた。1注いだら5の威力として発射されている。今日は大量に水が飲めるぞ、花たち!

こんな感じだが、喜んでばかりはいられない。恐ろしい兵器を、どうやらヘランの地さらに化け物へと進化させてしまったみたいだ。ちょっと危うくないですか? という不安があったりする。


でも、これだけの成功を収めると更に改良したくなってしまうのも人間の悪いところで、気が付くと3号の制作に移っていた。どこへ向うのかヘランの民よ。

それを先導している俺が言えたものじゃないけれど……。


3号制作途中で、ロツォンさんが大事な報告があると耳打ちしてきた。

一旦制作現場から離れ、報告に目を通したところ、どうやらヘランの地でなぞの鉱石が見つかったとのことだった。


資源に頼ることを減らすための政策を盛んに行なっているヘラン領だが、あるものは純粋にありがたい。要は頼りすぎず、長く活用できるように大事に使っていけばいいだけの話だ。


3号の制作は職人たちに一旦任せて、早速俺は報告のあった土地に向かった。

現場では人々が多く集まり、今も山をまっすぐに掘り進めてるところだった。

畑の面積を拡大させる一端で行っていた開拓作業が、思わぬ宝を見つけたらしいと、彼らは盛んに掘り進めている。

鉱石などは職人街に回せるので、領主の名を持って領民から高めに買い取っているのだ。臨時の収入とばかりに彼らが意気込むのも理解できる話だ。


俺が到着すると彼らは作業を中断して、掘り進めた坑道へと俺を案内した。人が2,3人横に並んで歩けるほど広く彫られており、中には明かりなどの設備も整えられていた。

入ってみて、どんなものかと観察してみる。

肝心の鉱石といえば、どうやら掘れば湧き出るほど大量にあるらしかった。

試しに手で軽く壁を掘り進めるだけで、確かに鉱石のお尻が少し見た。


「おやっ!? 」

なんの鉱石かは気になっていたが、それよりも量のほうが大事だと考えていた。

今日来たのも量を算定し、彼らにいくら支払うかの相談に来たのだ。不足している物資などあればそれも援助するつもりだったのだが、おやおやおや、ちょっとばかり予定が狂ってきたぞ。


すぐに人を呼び、鉱石を掘り起こさせた。

明るいところに出て、物を確認する。

そしてこれまで掘り出したものも全部確認していった。


全部同じものだ。間違いない。

これはただの鉱石じゃない。魔石だった。

しかも水やり器や魔道大砲に装備可能な高エネルギー高純度のものが……。


手にした魔石を眺める。

ラーサーの説明にあった王都の魔石と、アッミラーレ王国からやってきた水やり器についていた魔石の純度とざっと比較してみた。

持って軽く魔力を流すだけで分かる。2倍…いや、3倍は魔力伝導率がこちらのほうが上回っている。破格だ。


振り返って、先ほど出てきた坑道を見た。視線をさらに上げる。

山の規模が思っていたよりもずっと大きく深い。

こういった採掘現場に詳しい男がいて、あとどれくらい魔石が出てくるか尋ねてみた。

「今の小規模なペースで掘り進めれば2,30年は出続けるでしょうな」

とのことだった。詳しい調査は後々必要だとしても、この情報は俺の手を振るわせるには十分すぎた。


そして、ずっと側に控えていたロツォンさんが、その晩何気なく俺にこう告げた。

「クルリ様、どうやら天下がとれそうですね」

ぎくりとした。冷や汗も大量に出た。

あれだけの大量な魔石に、水やり器の製造技術を持つヘラン領。そしてそれを束ねるのは俺。


いやいやいや、それはダメ! そういうのは性に合っていないから!

水やり器3号の改良は後一週間もすれば完成するだろう。またもやかなりの性能アップが見込める。完成したらしたで、今度は他の欠点が見えてくるだろう。

剣を造る過程も似たようなものなので大体わかっているのだが、これは10回も改良を重ねればほとんど完璧なものに仕上がってしまう。ということは水やり器10号、11号辺りで完成品となる。

完成すれば今の職人街の技術と人員で量産可能だ。魔石は大量にある。……天下が取れてしまう!

いやいやいや、いかん! こういうのは考えた時点で負けだ。もっと堅実に生きていこうじゃないか。


「ロツォンさん、天下はまた今度にしておこう。それよりももっと楽しいことに使おうよ」

「というと、あれですね? 」

「ああ、計画ばかりでなかなか具体的な話に進展しなかった、あれだ。これだけの物資と、職人街も仕上がりつつある。人も増えだしたヘラン領だ。あとは資金が少し寂しいが、それは借りるとしよう。いよいよ、魔導列車をこの国に走らせることができるかもしれない」

「クダン国横断ですか……」

「ああ、下手したら天下を取るよりも大変な事業になるかもしれない」

「さすがはクルリ様。列車よりも、天下を取るのは余裕だと? 」

いやいやいや、何言っちゃってんの!? この人!!





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― 新着の感想 ―
[一言] 7章6話ラーサとアイリスが戻るとき、この剣になっています。この件ではないでしょうか? そのあとに、こからとなっていますが、ここからでは? さらにその後の、名前にとき効いたらになっています。 …
[気になる点] 兵器が簡単に改良→魔石が足りない→謎の鉱石発見→高純度の魔石発見←さすがに都合がよすぎ。 問題を作って次のくだりで努力もなく解決なら凄くチープになるのではじめから問題を作らないで欲しい…
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