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6章 11話

ライフドラゴンの鱗から作った剣と少ない荷物を持って旅立った。

旅立つ直前、エリーにお土産リストを持たされた。旅行!? 旅行なの!?

まぁいいか。ちゃんと帰ってこいというメッセージってことで。


一人旅は大変だし、道もわからないので10人規模と少し多い行商人の一行に同行させてもらう形となった。俺は剣術と魔法が使えるということで護衛としての役目も与えられた。

「あんた見た目は貴族っぽいし、いい剣も持っているのに、普通に平民なんだな」

「よく言われます」

行商人たちとの道中、そんな会話を良くした。

それと並んで良く話したのが、なんで王都に行くのかという話だった。


「知り合いに会いに行く」

そんな淡白な返答ばかりをした。

知り合いかどうか、今はまだはっきりとしないけど。

実際俺だって王都に行って何をやるかまだはっきりとしている訳じゃない。ただ、会うべき人に会えば、何かわかるかもという程度だ。


道中は魔物や盗賊が良く出るという話があり、事実魔物とは良く遭遇した。その度に俺がきれいに葬っていくものだから、彼らは感心していた。

「あんたが仕事を求めて王都に行くなら、いい仕事たくさん紹介してやれそうなのにな」

俺の旅の目的を聞いてくれたのにはそういった理由があったらしい。

王都へ行く理由の多くに仕事を求めてというものが多いだけに、彼らは気遣ってくれていていたのだ。


そんな感じで俺たちの旅路は順調だったし、日に日に関係性も良くなっていった。

だから、彼らに聞いてみたくなった。

最近は新しい情報を得るのが若干怖い気持ちも芽生えだしているのだが、知るための旅なのだ、彼らから聞けることは聞いておこうと思った。


「ダータネル家とギャップ商会は王都でも有名なのか? 」

彼らの特に詳しそうなことからつつくことにした。

行商人の団体なのだ、特にギャップ商会とかは詳しそうなんじゃないのかと推測してみた。


「そりゃもちろん。ダータネル家は古くから王都の経済の中核を担う、俺たち商人にとっては天の上の存在さ。ギャップ商会は最近頭角を出してきた若い商会だ。俺たちも最近商売で少し噛ませてもらっている。随分と急成長して経済の中核に潜り混もうってんだから、ダータネル家とは犬猿の仲さ」

「犬猿の仲ね」

もしかしたら、そこらへんに両者がヘラン領を奪い合う理由があるのかもしれない。

「俺たちは両方と商売しているからな、今より関係性が悪くなったらどっちか片方とは縁を切らなきゃならんかもな。ヘラン領をめぐって遣り合っているらしいし、どうも決断は早めにしといたほうがいい」

商人の間じゃ、ヘラン領の話はそう珍しくも内容だった。

この道中、俺のいない場所でもその名をよく聞いた。政治的な情報は彼ら商売にとって欠かせないキーなのだろうと想像できた。


「なぁ、悩んでいるところ悪いんだけど、現実的なところ、どっちに付く予定なんだ?」

ダータネル家か、新しいギャップ商会か。

「あんた少年じゃないし、この旅でも随分と助けられたからいいこと教えてやるよ。あんまり大きな声じゃ言えないんだけどよ」

この道中、一番親しくいていた男が俺の耳元に口を寄せた。

「みんなの意見はまとまってねーが、間違いなくギャップ商会だな」

「へぇー」

間違いなくね。古くから続くダータネル家よりも若く新しいギャップ商会をとると。


この行商人たち一行は利に疎いとは思えなかった。それよりも、短期間だが、彼らは非常に有能なグループだとわかる。

そんな彼らが、選んだ、選ぶ予定なのがギャップ商会だと。


ギャップ商会はダータネル家から覇権を奪う象徴としてヘラン領を取り上げるつもりなのか。十分にあり得る話だ。

王都へはレイルを訪ねるつもりだった。


しかし、思えば彼へのつてがない。

話を聞く限り、レイルという男も結構な身分がありそうだったし、いきなり行って会えるものかどうかも不安になって来た。


そこへ、興味深い、ギャップ商会の話が降って来た。

是非、ここのトップに会ってみたいと思った。ヘラン領を求める理由とか、そのほかいろいろ聞いてみたい。

会えるかどうかはわからないが、少なくともいきなり王子たちと会うよりかは現実的だと思う。


「ダータネル家とギャップ商会のトップたちに会うことはできそうか?」

「そりゃ無理だ」

やっぱそちらも簡単にはいきそうにないか。

「ダータネル家は言わずもがな。俺たち平民なんかには一切顔を見せてくれやしない。それにギャップ商会はかなり貴族連中に嫌がらせを受けてきた経緯があり、商会とは思えない程武闘派な連中がいやがる。それにトップは一度も表舞台に姿を見せたことがない、表舞台は常にナンバーツーが担当している」

あらら、住む世界の違うダータネル家と、姿を見せたことのない人物が頭のギャップ商会。

レイルを探したほうが無難で良さそうな気がしてきた。


「でも今日の取引でギャップ商会に仕入れに行くんだ。あんた知り合いに会うってギャップ商会の人なの? ならその時にちょうどいいんじゃないか」

「そりゃいい。何を仕入れにいくの?」

「そりゃギャップ商会といやぁ良質な薬だよ。あそこはそれでのし上がったんだから」

薬……、なにを当たり前なことを見たいな顔で会話していた連中に見られた。ギャップ商会と言えば薬、それはもはやこの国の住民にとっては当たり前のことらしかった。すみません、世間知らず、そして薬いらずな体で。


欠けた常識や、王都の知識を埋めながら、俺たちの旅路は進んでいった。

大きな建物が増えだしたころ、王都が近いと肌で感じた。

それから大きな門をくぐって、いよいよここが王都なのだとわかった。


「さっそくギャップ商会へ赴くけど、あんたも行くだろ」

王都に付いたら別れるという話だったけど、どうせなのでギャップ商会まで同行させてもらうことにした。

大きな建物が犇めき立ち並ぶ一角でもその建物は一際存在感が飛びぬけていた。

一本の高く太い塔のような建物が聳え立っていた。その四方を5メートルの塀で囲み、北側に唯一の入り口の門があった。警護兵が10名は立ち並んでいる。唯一の門であるここを通り抜けねば、中にある塔には立ち入れない決まりだ。

俺を含めた行商人一行は入る際に厳重な身体検査を受けた。

貴族連中から嫌がらせを受けてきた過去があるとはいえ、随分と大げさだと思った。

しかし、身体検査をする連中の真剣さから、どうも大げさではないかもしれないという気持ちも出てきた。剣とかその他諸々、ここで商売と関係ないものは全て取り上げられた。

おそろしい。ここのトップは随分と苦労したと見える。


中にようやく入れて貰い、行商人の連中が仕入れをしている間、俺は目の前に聳え立つ塔の頂上を見あげていた。

あの一番上に、この商会のトップでもいるのだろうか。


そう考えているときだった、ふいっと体が宙に浮いた。首が閉まる。振り返ると、身長2メートルを超す巨大な男が俺の襟元をつまみ上げていた。

手首をつかみ返し、手元に魔法でショックを起こし、相手の拘束から離れた。

一瞬の痛みだったから、手を放すだけで、相手にはダメージというほどのものは伝わっていないはずだ。

いきなりつかんできたから、これでおあいこのはずだったんだけど。


気が付いたら、俺は武装した男たち10名に囲まれていた。

「お前商人じゃないな?」

一緒に来た行商人たちもグルなのかと締め上げられている。

「確かに俺は商人じゃないよ。でもその行商人の人たちは関係ないから話してあげて。好意でここに連れてきてもらっただけだから」

俺の言葉は彼らに届かなかった。行商人たちの拘束も解けない、俺を囲む10名に緊張も一切緩まることがなかった。


戦うつもりで来たわけじゃないんだけど。なんでこんなことに。


もうやりあうしかないかなと思ったそのこと、俺を囲んでいた10名の外側から掌をパンっと打つ音が響いた。

「およしなさい」

スラリとした体格で、優しそうな顔をした男がそこには立っていた。

「商人たちの拘束を解いて。彼らはお得意様だよ。失礼した分の埋め合わせを忘れずに。その赤い髪の客人は私に任せてもらおうか」

彼の指示が飛ぶと、商会のメンバーたちはすぐに行動を起こした。行商人たちの拘束は解かれ、さきほどの失礼の詫びされている。


「ヌーノ、君は私とこの人の対応だ」

「了解」

ヌーノと呼ばれたのは先ほど俺をつかみ上げた2メートルの身長を持つ大男。

俺は特別にどこか連れていかれるらしい。

「大人しく付いてきてくれますね?」

男は俺を一瞥する。

「いいよ」

大男に肩をがっちりつかまれて、塔の中へと導かれる。

俺は最後にお詫びと礼を込めて、行商人に一行を振り返った。

そしたら、一番親しくしていた男が2本指を立ててなにかメッセージを伝えてこようとしていた。

俺は頷き、歩を進めた。


どうやらナンバーツーがいるらしい。

状況からしてヌーノじゃない、先を歩いていくこのスラリとした男のほうだ。


通された部屋は地下の部屋だった。扉を閉められ、カギまでかけられた。監禁成功というわけだ。

席に着き、対面に礼の男が座る。鍵がかかっているので必要ないと思うのだが、扉の前をヌーノが仁王立ちで塞ぐ。


「さて、これでゆっくりお話ができるわけだ」

「ゆっくりね……」

「まずは自己紹介といこう。行商人のお友達が示していたと思うけど、私がギャップ商会のナンバーツー、トリスターナです。よろしく」

彼は優しい笑顔を向け、握手の手まで差し伸べてきた。手をつかみ、握手を交わす。

俺は何と名乗ろうか。クルリでいこうか。それともクルリ・ヘランと家名までなのろうか。やっぱりクルリだけで行こう。

「クルリだ」

「ん!? ……ほう。よし、今決めました。どういうつもりか知りませんが……ただで帰すことはもうなくなりました」

なんで!? 名乗っただけなのに!?

口調がまずかったかな。トリスターナは優しそうな顔のままなのだが、間違いなくどこか怒っている。なにかまずい部分に触れてしまったようだ。

「さきほどの行商人たちは身元が割れています。我々に敵対する人たちじゃない。だが、あなたは別だ。見るからに貴族。どこから送り込まれました?」

「それよく言われます。ここには自分の意志で来ただけ」

「自分の意志で。どうして?」

「ここの商会のトップに会いに来たんだ。厳しいと言われたけど」

「会ってどうする?」

口調は変わらないが雰囲気が鋭くなった。会って暗殺されるのを警戒しているのか。会う前から随分と張りつめすぎじゃないのかな。

「なぜヘラン領の領主になりたいのか聞きたいだけだ」

「……ヘラン領だと。貴様クルリと名乗ったな。どこまで知っている?」

トリスターナの目がやばいことになっている。ビームが飛んできそうなほど鋭い。

また変なことしちゃったかな?


「いや、何にも知らないよ。本当に」

「ますます返すわけにはいかなくなったな。ヌーノ、お前はどう思う?」

トリスターナが扉の前に立つヌーノの意見を聞いた。

「こいつ魔法が相当使えると見た。警戒には値するが、どうも今までの暗殺者たちとは違う気もする」

「正直同意見だが。どうしてだ?」

「なんとなくだ」

「なんとなくか。お前のなんとなくは結構核心を突くことが多いから困る」

二人で話し込んで、俺の処遇を決めるらしい。

暗殺者どうのこうの言っているので、やはりそっち方面で苦労しているんだな。俺への警戒も当然というわけだ。


「さて、どうしたものか」

「俺をここのボスに素直に会わせるっていうのはどう?」

「「却下」」

トリスターナとヌーノの声がきれいに合わさった。

彼らの忠誠心はすごいな。ここのボスという人物はそれだけ求心力のある人物なのだろうか。

「君たち随分ボスが好きみたいだね。ますますどんな人か気になる」

「会わせねーっての」

ヌーノの威圧的な声が飛んできた。

「その忠誠心はどこから来るの? お金?」

「お前にはわからん」

そこから二人の話し合いが始まった。俺をどうするか、ということだろう。

「決まんないなら帰してよ。ボスにも会えそうにないし」

「「却下」」

帰してくれないし、ボスにも会わせてくれないか。

王都に来て早々、面倒なことになってしまった。


で、結局この塔の地下にある牢獄へ入れられた。

なんだよ、結局それかよ。とりあえず牢獄へなんて、思考の放棄だよ。



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[一言] 商人の間じゃ、ヘラン領の話はそう珍しくも内容だった。 ↓ 商人の間じゃ、ヘラン領の話はそう珍しくもない様だった。
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