容疑者
<容疑者>
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「お待たせ。」
「あ、うん。」
あれから、30分程して、和斗が京典のマンションへとやってきた。
「で、どうなの?」
「うーん・・本人だけが消えたって感じ?」
「へー。」
会話をしながら、和斗も部屋の中を見渡す。
「けど、鍵開いててんやろ?」
「うん。」
「で、本人おらへんて事は、何か起きてるいう事ちゃうの?」
「何かって?」
「ん~・・誘拐とか。」
「まさか。」
和斗の言葉に、白石は軽く笑う。
「三十路の男よ?京典。誘拐なんてありえないでしょ。」
「まぁ、そうやけども。」
和斗も、軽く笑う。
「あ。」
「ん?」
「玄関の外に、落ちてたんだ。」
「え?」
白石は、ドアの前に落ちていた薄いピンクのハンカチの事を思い出し、玄関へと走って行く。
「更織?」
和斗は、リビングにポツンと取り残される。
「これこれ。」
「ん?」
息を切らせながら戻ってきた白石に、ハンカチを見せられる。
「何これ?」
「落ちてたのよ、玄関の前に。」
「女もん?」
「そうだと思う。」
「桃日ちゃんの?」
「うーん・・私は違うと思うの。」
「え?」
「彼女、こういうブランド物、趣味じゃないと思うのよね。いつも、可愛いカジュアルな洋服やバック、身につけてるでしょ?」
「あ~・・。」
白石の言葉に、和斗も頷く。
「この部屋、角部屋だし、誰かが通りすがりに落としていったっていうのも、考えづらくない?」
「ん~。」
「それに・・。」
「え?」
白石は、ハンカチから微かに匂ってくる香水の香りに気づく。
「このハンカチ、匂うの。」
「え?臭いか?」
「そうじゃなくって。この香水の匂い・・何か覚えがあるんだけど・・。」
そう言いながらハンカチに鼻を近づける白石を、和斗もじっと見る。
「京典の昔の女じゃね?」
「え?」
「あいつ、派手に遊んどったから、色んな女から恨み買うてんちゃうの?」
「・・・あっ!!!」
「へ?」
「思い出した!!!葵よ!総務の葵!!!!」
「総務の葵?」
白石の言葉に、和斗はわけが分からずポカンとする。
「そうよそうよ!変な匂いだったのよ!コレコレ!!」
「変な匂い?んはは。」
「性格の悪い、ムカツク女だったのよ~?京典、あんな女と寝たのかと思うと、軽蔑するわよ。」
「んはは。」
白石が怪訝そうな顔をする。
「で、何でその葵ちゃんの香水の匂いのするハンカチが落ちてんの?」
「葵ちゃんなんて呼ばないのっ。中原よ、中原!」
「はいはい。」
キィ!とキレる白石を、和斗は可笑しそうに見る。
「中原と関係があるのかしら・・。まさか、より戻したとか!?」
「ありえへんよ。京典、桃日ちゃんに夢中やもん。」
「そうよね・・。」
二人はしばし考える。
「ちょっと調べてみる。」
「え?」
「総務に知り合いいるし、中原が今日出勤してるかどうか。」
「ん。」
白石は携帯を取り出すと、総務へと電話をかける。その間、和斗はソファへと腰を降ろすと、テーブルの上にあった雑誌を読み出す。
「和斗!」
「ん~?」
和斗は、雑誌を読みながら白石の声に返事をする。
「そんなの読んでる場合じゃないってば!」
「なん?」
「中原、今日休んでるって。」
「オフ?」
「そうじゃなくて、体調不良とかで、出勤してないんだって!」
「そうなんや?」
「怪しくない?」
「え?」
「おかしいじゃん。京典が無断欠勤してて、鍵あけっぱで、中原のハンカチが落ちてて、中原が会社行ってないなんて。」
「ハンカチが、中原さんのやと決まったわけや」
「そうよ!絶対そう!!」
「お前は~。」
途中で言葉を遮られ、和斗は笑う。
「ね、行こうよ。」
「どこに。」
「中原ん家に決まってるじゃん!」
「行ってどないすんのよ。」
「京典の事聞くの!」
「もし、中原さんが知ってても、ほんまの事言うはずないんちゃう?」
「そ、そうかもしれないけど・・。」
「頭使う。」
「え?」
白石が和斗の顔を見ると、ニコっと微笑んでいた。