呼び方
<呼び方>
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ちょっとだけ洗濯して帰ろかな。」
仕事を終え、事務所を目指して歩いていたが、私はその手前で方向を変える。
「寒い~・・。」
身をすくめながら、私は仕事で使う小物類を洗濯槽に入れ込む。
「スイッチオン。」
誰もいない洗濯場に、自分の声だけが少し響いた。
「ふぅ・・。」
ゴウンゴウンと音をたてだした洗濯機。
「・・・・。」
薄暗くなってきた空を見上げ、ボーっとなる。
「んなワケないやろ~?」
「いーや、お前ならありえるわ。」
「何でやねん~。」
「・・・ん?」
どこからか、関西弁の会話が耳に入ってきた。
(鈴井さん・・?)
そう思いながら、辺りを見回す。
「あ。」
洗濯場からは少し離れているが、フロート倉庫のシャッターの前に、鈴井と和斗の二人の
姿が確認できた。
「更織にチクったろ~。」
「ご勝手に。」
二人は何やら言い合いをしながらじゃれあっている。
(可愛い~)
そんな二人の姿を見ながら、私は笑顔がこぼれる。
「なぁ、京。」
「ん?」
(え?京・・?)
和斗が、鈴井をそう呼んだ。
「今度な、釣り行こうや~。」
「おー、ええね。」
「最近、全然行けてへんかったやん~?」
「そうやな。」
「あ。」
「え?」
「京は、桃日ちゃんのがええか~。」
(え・・っ!?)
和斗の言葉に、私は体が固まる。
「アホか。」
「ええよな~、あんな可愛い彼女掴まえて。」
「オレは、日頃の行いがええからな。」
「お前、めっちゃ極悪なやいか。」
「うっさいわ。」
「オレの方がめっちゃ行いええのに、何で可愛い彼女でけへんのかなぁ。」
「言わへんからやろ。」
「え?」
「早よ言えや?」
「・・・・うーん・・。」
「あいつの鈍感さは、世界一やからな。言わな絶対気づけへん。」
「そうやけど・・。」
「とろとろしてるから、8年も彼女でけへんねん。」
「彼女くらい、いてたわ・・。」
「それはパチもんやろ?よう8年も、片想いなんかしてられんなぁ。」
「・・オレは京典と違うて、ナイーブやねん。」
「とろいだけやんけ。」
「うっさい。」
和斗は一言言うと、そのまま立ち上がり、倉庫内へと入る。
「早よせな、日が暮れんで?」
「わーってるわ。」
和斗に言われ、鈴井も立ち上がった。
(・・・京って呼び方するんだ・・)
鈴井の事を、和斗がそう呼んでいた事を、思い出す。
(ふ~ん・・・)
そういう呼び方もあったんだと思いながら、私は終わった洗濯物を取り出した。