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恋の歌  作者: ちびひめ
8/34

08

翌日は学校も休んだ。


父と母は腫れ物に触るかのごとく接してくる。

それがまた昨日のことを一層思い出させて、私は震えあがった。


私の携帯のメモから車の番号と車種を特定して、警察は調査を始めたようだ。



夕方になって、ユウが家にやって来た。

私は部屋から一歩もでなかった。

ユウが部屋に入ってきたのだが、怖い。


男の人が、怖い。


私は心にも傷を負った。

身体の痛みも、顔の痛みも、全てが痛かった。


ユウでさえ怖かった私は、ユウには離れて座ってもらった。

距離があれば大丈夫なようだ。


しかし、初めて男の子を部屋に入れたのがこんな状態だったことを悔しく思う。


ユウは、

「ごめんな、俺が送れなかったせいで、こんな……ッ」

ユウは声を殺して泣いていた。

ユウは泣き虫だから。


私の分までユウが泣いてくれたみたいで、少し落ち着いてきた。


私はユウに近寄ると、よしよし、と頭を撫でた。

ユウはその手を優しく握ってきた。

私はその手の温かさを感じて、少しずつだけどユウに近づけるようになってきた。


母がジュースを持って二階に上がってきた。

「ホントにありがとうね!あなたはチカの恩人ですよ」

「いや、俺は助けられなかった。なにもしてやれなくて、ホントにすみませんでした」

床に頭をこすりつけ、ユウは土下座をした。


――そんな――悪いのはユウのせいじゃないのに――


母は、土下座するユウを見て、泣き出してしまった。

「ごめんね、ごめんなさいね、あなたの責任はないのに……」

「いや、迎えに行けなかった俺に責任はあります」

涙ながらに土下座をやめないユウ。

母は、

「ユウくん、頭をあげて」

と促され頭をあげるユウ。

私は思わずユウに抱きついていた。


不思議だった。あんなに怖かった男の人が、ユウだけは大丈夫になった。

私の分まで泣いてくれたユウは目を真っ赤に腫らしていった。


「でも、生きててくれただけで、俺は充分です」


その言葉を聞いて、とうとう私の目にも涙がこぼれてきた。

あんな目にあったあと、警察署でも泣かなかった私は、大声で泣き始めた。

ユウに後ろから抱っこされて、涙が枯れるまで泣き続けた。

不思議と、ユウの抱っこは怖くなかった。


夕飯はユウも一緒に食べた。

ユウがいてくれてよかった、家族だけだと腫れ物扱いだったから、ユウがいて、学校の話をしてくれたりして、間が持った。


ユウが帰ってから、父が言った。

「あの金髪さえなければ素直でいい子なんだが」

私は

「金髪じゃなくなったら、ユウじゃなくなっちゃう」

と言って笑った。


ユウは温かい話をくれた。


翌翌日も私は学校に行けなかった。母と一緒に心療内科に行った。

そこの先生は男の人だけど、太っていて、ひげだらけで、まるでサンタさんのようだった。不思議と怖くなかった。

一通り診察を受けたあと、先生は言った。

「じきによくなるよ」

私も先生の言葉を信じようと思った。


学校はとりあえず1ヶ月休学した。

洋子が毎日のようにノートを届けてくれた。

私は徐々に外に出られるようになり、買い物にも行けるようになった。

まだ男の人が怖いが、誰もが私を気にしているはずはない、と開き直ったらずいぶんと楽になった。


病院からは、そろそろ学校に復帰してもいいかな、という話が出た。

私の場合は、たまたま運よく病院までのバトンタッチが早かったのでこんなに早く復帰しても大丈夫だろうと踏んだらしい。


――この出来事がなかったら、こんなに私がユウのことを想うことはなかったよ――

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