07
指輪は結局サイズが大きくて、ネックレスとしてぶら下げるようにした。
「チカの指って細いのな。折れちゃいそう」
そう言いながら指を絡めてくるユウ。
私は緊張のあまり、手のひらが汗だくになり、とても恥ずかしかった。
でも、ユウはしっかりと握り直してきた。
私は恥ずかしくて――顔を赤らめながらその手を握り返した。
ユウはしっかり手を握ると、顔をゆっくりこちらに向け、唇を重ねてきた。
柔らかい感触が私を包み、温かなその温もりをじかに伝えてきた。
一瞬の出来事が永遠に感じられた。
その日から八月三十一日は私にとって特別な記念日になった。
◇
学校が始まった。
夏休みだけのバイトのつもりが、いつの間にか延長になっていて、私は俄然やる気を出していた。
ユウは土日に遊べないとブーブー言ったが、平日は相手をするということで落ち着いた。
――あの時、バイトじゃなくて、もっともっとユウといたら、なにか変わっていたのかな?――
バイトの休憩時間、一緒にバイトに入っている歩美が、タバコをふかしながら
「チカちゃんって、彼氏いるんだ?」
と聞いてきた。
「うん、実は最近付き合うようになってね」
「ふうん、ちなみに、誰?同じ学校の人?」
と聞いてきたので、
「うん……仲間ユウくん、って知ってる?」
歩美は驚きを隠せず言った。
「ユウって……あの、ユウ?」
私の中でユウという人は他に知らなかったので、
「多分、そう」
と言うと歩美は突然不機嫌になった。
「どうやって取り入ったの?」
「取り入ったわけではないんだけど、ユウのほうから友達になってくださいって言われて……」
「ふぅん」
休憩時間も終了して、急いでバイトに戻る。
この時は知らなかったのだ。
これが後に禍根を残すことを……
バイトの行き帰りはいつもユウの自転車だった。
ときどき、お巡りさんから「二人乗りは禁止!」と怒られていたが、やめようとはしなかった。
ただ、たまにユウも用事があって来れない日もあった。
そんなときはダイエットも兼ねて、家まで歩いてかえっていた。
夜の九時過ぎ。人通りもまばらになった住宅街を一人で歩く。
その日もそのつもりだった。
白いワゴン車が目の前に止まる。
私は避けて行こうと、車の右側を歩こうとした。
そのときだ。
「速水……チカさんですよね?」
「え……はい」
イヤな予感がした。
あっという間もなく私はワゴン車に乗せられて、どこかわからないところへ車は進んだ。
車から降ろされ、一面コンクリートの中で、私はさるぐつわを外された。
「ちょっと、何すんのよ!離して、離して!」
そんな私の頬に強烈なビンタがかまされる。
そのときわかった。
これは本気だ……
その瞬間、私は逃げようと走り出そうとした。
でも彼らは私の足を掴んで離さない。
私は
「やめてっ!!あたしに触らないで!!」
と叫んだが虚しいものだった。
顔中アザだらけになり、服はぐちゃぐちゃ。なにがなんだかわからない……でも妙に頭は冴えていて、車のナンバーと車種を携帯にメモった。
RRRR……
電話がなり、まだぼーっとしているまま電話をとった。
「チカ、帰ったかな?」
ユウからの電話だった。
私はやっと怖くなってきて、大声で泣いた。
「チカ、どうしたんだよ?泣いてちゃわからない。今、どこにいる?」
「……なんか、コンビニがあって……ラッキーっていうパチンコ屋さんの前にいる……」
「わかった!すぐいく!」それから一時間ほど経っただろうか、ユウが自転車でやって来た。全速力で来たらしく、息が乱れていた。
風が私の黒髪をほどくように吹いてくる。
ユウは私の格好を見て、すぐさま警察に連絡をとった。それから私の手から携帯を奪い、父と母に連絡をしてくれた。
私はただひたすらぼーっとしているだけだった。
警察署では、証拠の写真を撮ったり、もろもろ検査などがあり、家についたのは十二時を軽く回っていた。




