06
映画はむちゃくちゃ泣けた。
エンドロールが終わり、ハンカチを手にした私は、立ち上がると、横の席にいたユウが立ち上がらないことに気づいた。
ユウはティッシュをボロボロにしながら泣いていた。
「ごめん、泣きすぎて立ち上がれない……」
そういうユウを宥めながら、私はなんとかホールを抜け出した。
映画館の待ち合いロビーでユウが落ち着くのを待った。
「俺ダメなんだよ、こういうの……」
と言いながら鼻をかむユウ。私はそんなユウを可愛いな、と思った。
金髪で、ジャラジャラピアスしてて、イケメンだけど怖いユウの、知らない顔を見れた気がしてなんだか嬉しかった。
映画のあとはブラブラとウィンドウショッピングをした。
雑貨屋に入り、あれやこれやと見て回る。
「見て見て、このカップ超可愛い!」
「このお皿で飯を食ってみたいな」
指差すもののどれもが好みのタイプで、趣味が似ていて嬉しかった。
その雑貨屋で、お揃いの色違いのマグカップを買った。
「今日の記念!」
ユウはとても嬉しそうにマグカップの入った袋をぶらぶらさせながら歩いた。
途中で休憩したいな、と思ったら、タイミングよく、
「スターマックスにでも寄らない?」
とカフェに誘ってくれた。タイミングが、ほんと、バッチリだ。
私はカフェモカを頼むと、
「席とっといて」
と言われて先に中に入った。
そして気付いたのだが、映画代も、マグカップも、スターマックスも、すべてユウが払っていてくれたことに。
エスコートが自然でなにも気にしていなかった自分が恥ずかしい。
ユウがカップに入ったコーヒーを持って席にやって来た。
私は、
「今までの、お金いくらだった?」
と直接的に聞いた。
するとユウは、
「あー、いくらだったかなぁ、わかんないからいいよ」
と言う。
「私、このためにバイトしてるんだから、払わせてよ」
しかしユウは、
「それはイザって時のために貯金しときな」
と笑って言った。
「ユウに貯金って言葉、似合わないよ」
と言って二人で笑いあった。
温かいカフェモカに、ホッとした。
夏休みのバイトがない日は、ほとんどユウと一緒にいた。
学校に居残りしておしゃべりしたり、自転車で遠くまで行ったり。
私は幸せな時間をすごした。
学校での他愛ない話も楽しかったし、なによりユウが隣にいてくれることが一番嬉しかった。
夏休みも終盤なある日。
いつものようにバイト先にユウが来ていて、私はのんびり後片付けをしていた。
大学生の先輩が、先にあがっていいよ!と言ってくれたので、早々にバイトを切り上げてユウの元へ向かった。
ユウは様子がおかしかった。いつもより固い表情。怒っているようにも見えた。
私、なにか気にさわることしたかなぁ……と不安になりながらもユウの元へ向かった。
ユウは私がきてすぐ、黙ったままだった。
いつもなら自転車を出してきて、明るく
「早く乗れ〜。十、九、八……」
と始めるところだが、自転車に触れもしなかった。
「ユウ、どうしたの?」
私の不安がマックスになる。
すると、ユウは箱を差し出した。手のひらサイズの箱。
宝石のケースだ。
「これ、開けていいの?」
と聞くと、力強く頷いた。
開けてみると、きれいなシルバーのシンプルな指輪が入っていた。
「え……なに、これ……私に……?」
ユウが力強く頷く。
「こんな俺でよければ、付き合ってください」
そうだった。私はお友だちからって言っていたのをしっかり覚えてくれていたのだ。
「わ……私なんかで、ほんとにいいの……?」
「俺は、チカが好きです。付き合ってください」
二度目の告白に、私のまつげから、ぽろぽろと、涙がこぼれた。