05
小宮山先輩の髪の毛がふわふわと風に絡んでとても綺麗だ。
私は一瞬見とれる。
「ユウのことなんだけど、ユウと別れてほしいの」
懇願するように言った先輩に、慌てて私は返した。
「ユウとは、付き合ってるとか、そんなんじゃありません。ただの友達で……」
「そっか、まだあなたには伝えていなかったのね」
小宮山先輩は、小さくため息をつくと、話始めた。
「ユウはね、去年入学したときからあなたのことを気にしていたの。ユウは入学式の時、あなたがリードが離れてしまった犬を、入学式が始まるギリギリだっていうのに、飼い主さんが来るまで見守っていたことが忘れられなかったらしいの。私は、あなたがユウに振り向くまで、って約束でつきあってもらってたんだけど……つい、欲が出てね」
ふふ、と寂しそうに先輩は笑った。
「この前、ユウがあなたと友達になったってはしゃいでたから、もう付き合い始めたのかと思って。本気じゃないならユウに手を出さないでほしくて呼び出しちゃった」
風がそよいで私の黒髪も揺れる。
「付き合うとか、そんなのまだです。友達からで、と言われたので……」
「それなら時間の問題ね。あなたはきっとユウを好きになる」
「そ、そんなのまだわからないじゃないですか!」
小宮山先輩はまた寂しそうにふふ、と笑って言った。
「どうかお願い。私からユウを盗っていかないで……」
「申し訳ないんですけど、それは約束できません。」
小宮山先輩が目を見開いた。
「今後起こることは誰にもわかりません。だから、約束できません」
「そっか。そうだよね。バカなお願いしてごめんね。ただ、もし付き合うにしても、振るにしても、私がいたということだけは忘れないで欲しいの」
私は大きく深呼吸をすると、
「速水チカ、ここに忘れないことを誓います!」
と誓った。
小宮山先輩は泣いていた。
◇
「チカちゃん、一人で大丈夫だった?」
課外が終わって洋子が走ってやってきた。
「うん、優しい人だった」
――この時、私は絶対ユウと一緒にいようと思った。
結婚とか、そんなのはわかんないけど、ずっと一緒にいたいって思ったよ――
ユウには即行で謝りに行った。
「小宮山先輩とのこと、勘違いしてごめんね」
ユウは涙目になりながら
「こっちこそ、説明不足でごめん」
と謝ってきた。
――すぐ泣くユウの涙を、この時初めて見たよ。
それからは毎日送り迎えつきプラス電話やメールで、ユウの色に染められていく気がした。
それは決して悪い感覚ではなくて、むしろ嬉しい気持ちだった。
ユウもまじめに学校へ通うようになった。
ユウの色は真っ青な空の色だった。
そして学校は夏休みへ突入した。
学校は午前中は課外があったけれど午後はフリーだった。
私は悩んだあげく、午後はアルバイトをすることにした。
ユウは、
「えー、会えなくなっちゃうじゃん」
と反対気味だったが、私はユウとデートするためのお金が欲しかったので、週払いのモールに入ってるお好み焼き屋さんでバイトをすることになった。
同じモールの違う食堂で同級生の歩美がバイトをしていた。
同じ高校なだけあって話も合うし、とても充実した毎日を過ごした。
ユウのバカは、私がバイトしてお金を貯めているのに、毎日のようにお好み焼きを食べに来た。そうしてそのままテーブルを占拠して学校の勉強を始めてしまう。
もちろんランチが過ぎ去ってお客様がいなくなってから来るので文句も言えない。
ただ、私からは
「バイトの邪魔はしないでね!」
と言ってあったので、おとなしくはしていた。
そんな夏休み、初めてのバイト休み、私はユウと映画を見に行くことにした。
動物ものの感動系らしく、ユウはポケットテイッシュをジーンズにパンパンに持ってきていた。
私も一応ハンカチは持ってきていたけどね。




