04
「小宮山先輩……?」
名前くらいは聞いたことがある。確かすごく美人で、でも超ヤンキーな先輩だったと記憶している。
やっぱり私はからかわれてるんだ――
それからというもの、なんとなくユウを避けるようになってしまった。
メールの返事はしているが、無難に終わらせていた。
やっぱり住む世界が違うんだ。私はそう自分に言い聞かせた。
だいたい、知り合ったばかりなのに期待してること自体がおかしいんだよね。
――わたしは一人でも平気――
そう思っていた。
ユウからのメールで、
『最近は早い時間の電車で行ってんの?』
とメールがきた。ユウを避けてあえて早めの電車に乗っていたのだが、まだ毎朝迎えに来てくれていたんだ。
少し胸がズキンと痛んだ。
『朝から課外があるから、早めに行ってるの』
私は自分の醜いこの気持ちを、嫉妬をユウに見せたくなかった。
『んじゃ俺も早く一緒に行くわ。何時?』
『もう一緒に行かない。小宮山先輩にバレたらどうするの?』
するとユウからのメールが途絶えた。
寂しくなんてない。だって元々一人だったんだし、毎日メールするほどこれからは暇じゃないし。
第一、彼女持ちにからかわれて、私、一人うかれてバカみたい。
危うくだまされるところだったよ。
私は深呼吸を一回すると、勉強を始めた。最近はユウがノート見せてとせがんできたことがあったので、ノートも綺麗に書くようにしていた。
「バッカみたい」
それだけ言うと、はらりはらり、と涙が出てきた。自宅にいてよかった。こんなみっともない姿、誰にも見せられない。
夜寝ようとして、いつものメールがないことに気づく。
そういえば、さっき小宮山先輩の話を出したところからメールがないんだった、と改めて気づいた。
寝るまでの一時間くらいは、毎日電話やメールをして過ごしていたので、なんだか胸にぽっかりと大きな穴が開いたような気がした。
五月も終わりかけのこの日、結局一日ユウからのメールはなかった。
私はユウのことなんて早く忘れたくて早々にメアドを消した。
翌々日、月曜になり、朝から早めの電車に乗ろうと家を出た。
そこで驚いたのは、ユウの姿があったから。
ユウは眠そうに目を擦りながらこちらを向いた。
「おはよ、チカ」
何にもなかったかのようにユウは迎えに来た。
――どうして?なんでユウがここにいるの?
小宮山先輩とのことはどうなったの――
聞くことが出来なかった。
いつものように自転車に揺られて登校した。
何も言えずに――
教室につくと、洋子がやって来て言った。
「小宮山先輩が、話があるから屋上へ来てって……」
「うん、わかった」
「わかったって、チカちゃん一人で行く気?」
「もちろんよ」
「危ないよ、私もついていく」
「洋子は課外があるでしょ」
「だけど……」
私も怖かった。何を言われるか、何をされるかわからないけれど、一人で行くと決めた。
洋子を危ない目に遭わせたくなかったし、これは私個人の問題だから。
私は一つずつ階段を踏みしめるようにして登っていった。
屋上のドアを開ける。
きぃぃ、と古い音をたててドアは開いた。
小宮山先輩は一人で座っていた。
時折吹く風が先輩のウェーブで軽い髪をそっと撫でていた。
先輩はこちらを向くと
「あなたが……チカさん?」
と聞いてきた。
イメージと全然違う。
茶髪でメイクしてはいるが、ヤンキーっぽさは全然ない。むしろか弱くて守ってあげなきゃいけないようなタイプに見える。
先輩は、私に向かって言った。
「ユウのことなんだけど……」