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恋の歌  作者: ちびひめ
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クリスマスイブはユウと過ごした。


期末テストの結果もまずまずだったし、これなら卒業出来そうだ。


クリスマスイブの日に私はプレゼントを用意した。

夏の間にコツコツと貯めたバイト代で、今のと違うアコースティックギターを買ってきたのだ。


ユウの喜びようはすごかった。

回診にくるお医者さんにも、看護婦さんにも自慢しまくって、抑えるのがやっとだった。


バンド仲間もお見舞いに来てくれて、アコースティックギターはかなり活躍した。

弦の調整はしてもらってあったのだが、ユウは一つ一つ音を確かめていった。

「こんなにいいギターもらったら曲作りはもっと熱心にしないといけないな」

口癖になったように言っていた。



ユウの吐血のタイミングは早くなってきていた。

胃ガンが血管を圧迫し、背中側の血管が切れたりして吐血しているようだった。

手術をお願いしたが、患者の体力を考えるともうメスはいれない方がよいでしょう、と言われた。

ユウは痩せほそって、まるで別人のようだった。

痩せた手にしている結婚指輪がガバガバになり、すぐ抜けていってしまう。それでも、記念、と言って指輪を外すことはしなかった。

外すのは検査のときだけだ。



お医者さんから、

「もってあと一月でしょう」

と死の宣告を受けた。


私は目の前の事実を受け入れられずに、何度も嘔吐した。

ユウには宣告をしないでいてもらった。





正月はそれぞれの家で迎えた。

初詣に行こうと思ったが、ユウの体調がかんばしくなく、断念した。



ユウは病室より実家にいることが増えてきた。

それは確実に死の宣告であり、せめて最期の時は家族で、というお医者さんの意向によるものだった。

痛み止のモルヒネだけが注射され、もう針を刺す場所がなくなるほど腕は注射あとだらけだった。


私はユウのそばにいた。

母に許しをもらって、ユウの家に泊まり込んだ。

父はなにも言わなかった。



私は出産予定日を過ぎたのにまだ出産できていなかった。来週まで様子をみて、産まれてきそうになければ陣痛促進剤を打とう、という話になっていた。





その『時』は意外にすぐやって来た。


私が朝からユウのお見舞いに、いつも通りにやって来たときだった。


その日は朝からユウの体調がよく、院内を車椅子で散歩してあるいていた。

ホントに穏やかな時間だった。



そんなときに、ユウは大量に吐血をした。

すぐに輸血が開始され、ユウはICUにいれられた。


怖い。ユウがいなくなっちゃう。怖い。



そんなときに、私の陣痛が始まった。

ぐぐっと腰が痛くなり……そう、ちょうど生理痛のような感じの波が繰り返しやってきた。


それでも私はICUから離れようとはしなかった。


ユウがいなくなる……そんな世界に何の意味があるのだろう?

怖かった。ユウを失うのが。


陣痛はやがて我慢の限界を越え、私は担架で産婦人科の中へ入れられた。


「まだ、ユウが闘っているのに、どうしてこんなタイミングで!!」

先生に涙ながら言ったが、先生は

「頑張りましょう」

それしか言わなかった。



「まだ力まないで!もう少し我慢ですよ!」

看護師さんが言うけれど、私は限界を越える痛みで力まずにはいられなかった。

時間が長く感じた。

ユウは大丈夫だろうか?


しかしやがてそんなことを考える余裕はなくなった。


「ヒッヒッフー」

母親学級で習った呼吸法。しかし、そんなことをしている余裕はなかった。

苦しい、苦しい。いたい、いたい!!


「頭が見えてきましたよー!仲間さん、あと少し頑張りましょうね」

看護師さんがそう言った。


私は息もできなくなって、看護師さんが横で

「ヒッヒッフー」

という声に出来るだけ合わせて呼吸を取ろうと必死になり、必死で痛みに耐えた。


やがてずるりという感触があり、あぁ、産まれたんだ、と認識した。

私はお腹の上にその小さな命を乗せられて思った。この子に会うために産まれてきたんだと。

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