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恋の歌  作者: ちびひめ
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最初の外出許可の日、どこに行きたいかとたずねると、バンドがいつもレッスンしているスタジオだと言った。


スタジオまでは駅二つ分あるので悩んでいたら、お母さんが乗せていってくれた。帰りにまた来てくれると約束し、一旦帰り、また迎えに来てもらうことになった。

一応車椅子を持って移動する。普段あまり歩かなくなったユウは車椅子を使用していた。

スタジオは五階にあり、私たちはエレベーターで五階まで行った。


「うおぉ、なっつかし〜!!」

ユウはそう叫ぶと走り出した。

「ユウ、走っちゃだめ!」

というが否や、派手にスッ転んだユウ。

「だからダメだって言ったのに……」

ぶつぶつ言う私のことなんてお構い無しにユウは車椅子で走る。


そこにはいつもの仲間がいた。

「ユウ……」

「ユウじゃねぇか!電話くれたら迎えに行ったのに!」

「お気遣い無用。今日は少しの間だけ時間がとれたからさ、見に来たの」

仲間との再会にはしゃぐユウ。


みんなバラバラにお見舞いに来てくれたことや結婚式で少しは会ったことはあるけれど、グループとして会うのは久しぶりだった。


「で、どうだった?ヴォーカル」

「うん、移籍してきてくれるって!!」

「そりゃあよかった!あいつは俺のお墨付きなんだよね!」

話についていけなかった私にユウが説明してくれる。

「俺がいない間だけヴォーカルを他の人にやってもらうことにしたんだ」

ユウは見渡すと

「今日は来てないのか」

と言い、続けて私に言った。

「年末のカウントダウンやったろ?あれで俺の前に歌ってたやつ。レンって言うんだ。そいつに頼んだんだよ」

「へぇ、そうなんだ……」

私は全く何も知らなかった。

ただ、そのヴォーカルが今年の文化祭で歌った人だということはわかった。

あの低い甘い声の人か。

ならいいんじゃないかな。

ユウの歌声が聞けないのは残念だけれど、今は仕方ないな、と思った。

グループの仲間うちからは「仲間夫人」とからかわれた。

ユウの苗字が仲間だったからだ。

私は恥ずかしくて赤くなりながらも、お嫁に来たことを噛み締めた。


しかし、こうして来てみると、ユウの病気が悪化しているのが目に見えてわかり、もう歌うこともないんだろうなと思うと泣けてきてしまった。


「あれ?チカ泣いてる?」

ユウに気づかれた。しまった、と思ったときにはもう遅かった。

ユウは私が何で泣いてるのかを察したらしく、

「大丈夫だよ。俺は必ず戻ってくる」

と言った。

私はそれを聞いてまた泣いた。

メンバーももらい泣きしている人がいた。


そんな雰囲気を一掃するように、ユウが言った。

「これ、新曲のコピー。一ヶ月で仕上げて俺のところまで持って来て」

と譜面を渡していた。


ユウが一生懸命に作ってたのってこの歌なんだね。

私は譜面が読めないから、一生懸命に横から覗いたけれど、英語で書いている歌詞の一部しか見れなかった。



音あわせを聞いてから私たちは帰ることにした。

お母さんに電話をして迎えに来てもらう。

その間にユウが見つけたのはクレープ屋だった。

「チカ、食うか?」

いつもと変わらないくしゃくしゃな笑顔でユウが聞いてきた。

ユウは固形物が食べられない。必然的に私一人が食べることになるんだけど、

「食べてもいいの?」

と聞くと、

「俺のおごり!」

と言った。

「奥さんにおごりもへったくれもないでしょ?!」

と言うとペロッと舌を出して

「すみませんね、奥様」

と担ぎ上げてきた。


――こんなやりとりすら、今は懐かしく感じる――


心を込めて作った曲は、仲間たちにしっかり手渡された。

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