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十月はあっという間に過ぎていき、十一月の半ば、文化祭があった。
私はお腹が大きくなりながらもまだ学校に通えていたので、今年はうどん作りに励んだ。
みんながお腹のことを考えて、一番負担のない部分をさせてもらっていた。
去年の文化祭は初めてユウと一緒に見てあるいて、何もかもが違う色に見えたことを思いだし、少し泣きそうになった。
休憩時間にステージを見に行った。
そこにはユウのバンドの面子が揃っていた。
え?誰が歌うの?
思っていたら、去年のカウントダウンのときにユウのひとつ前で歌っていたヴォーカルの男の子が出てきた。
同じ学校だったんだ……
お腹に響くリズム。シャウトする歌声、人の熱気・熱気・熱気!
体育館の一番後ろで聞いていてよかったな、と思う。
するとお腹の子どもが刻むビートに合わせてお腹を蹴ってきた。
「やっぱりユウの子どもだね」
と洋子が笑いながら言った。
「まさか、産まれてきたときから金髪だとか」
洋子は続けて笑う。
私も釣られて笑ってしまった。
ヴォーカルの子はレンと言うらしい。ユウより断然背が高く、ユウより甘い声だ。
MCが始まる。
「今日はヴォーカルさんがお休みということで手伝いに入らせてもらいました。レンです。至らないところがあるとは思いますが、精一杯歌いますのでよろしくお願いします」
すべてをシャウトで歌いきる、それはいつものバンドがパンク系だからだと思う。
サビまでは甘く歌い上げ、シャウト、シャウト、シャウト!
盛り上げ方を知っている。
ユウと互角?いや、それ以上かも……
私は鳥肌をたて、聞き惚れていた。
◇
「もうね、すっごかったの!!!」
興奮気味に話す私を宥めながらユウは聞いた。
「そんなによかったの?」
「うん、身体中鳥肌がたった」
「俺が歌っているときよりよかった?」
「……それは、比べられないよ……」
真顔で言う私の言葉を聞くと、ニヤリとして口を開いた。
「……だろうな」
「すぐ意地悪言うー」
「俺があいつに頼んだからさ。他のやつに歌わせるには俺たちのバンドはもったいないからな」
「そうなの?でも、全然元の歌と違ってたよ?」
「そりゃ、あれだ。個性ってやつさ」
ユウが選んだから、間違いはなかったけど、少し寂しかった。
「お前、今寂しいと思ったろ。だーいじょうぶ、俺が病気治してすぐ歌ってやるからさ!」
その日以来、ギターに熱中することで我を忘れずにいるような状態が続いた。
ギターに熱中していないと、痛みや苦しさから解放されないのである。かろうじて正気を保っている、ユウはそんな状態だった。
見舞いの花が萎れてしまう前に次の花束を買ってきていた。
するとユウが、その花が枯れるまで次の花はなくていい、と言った。
「だって、枯れちゃうよ?」
「いいんだ。その花の一生を見ていたいから」
こんな弱気な発言、今までしたことがなかったのに。
私は
「そう……そうだね」
それしか言えなかった。
ユウは日に日に痩せていった。ご飯を食べれないからだけでなく、そこには大きく病巣が絡んでいた。
柔らかくしたものなら食べれはするけれど、人工肛門からでていく便はあまりよい状態とは言えなかった。
二週間に一回、外出許可がでた。
私はユウとどこかへ行けることが楽しみで、ユウがどんなに辛いか、苦しいかを考えていなかった。
一泊目はどこに行こう?次は?その次は?
私の頭の中にはそれしかなかった。
そして、二週間に一回の意味もわかっていなかったのだった。




