03
その日からユウと私のメールは始まった。
『おはよ』
「おはよう。今日も学校に来ないの?」
『今日は行く。チカの顔を見ないと元気出ないから』
見た目と相反する内容のメール。
どっちが本物のユウなのか、それともユウという名前の別人とメールしてるのかな、と思ってしまう。
私は朝御飯のお皿をシンクに出すと、行ってきますと言って左足から玄関をでた。
うっかりすると右足から出てしまう。
左足から出るといいというジンクスを律儀に守るようにしていた。
左足から玄関を抜けて門のところでももう一度、左足からでる。
しかし、利き足が右なせいか、意識しなければ右足からでてしまい、あーあ、という結果に何度も遭遇した。
なので扉を開け閉めするときはいつも一息ついてからにするようにしていた。
だから今日も左足からでるべく、深呼吸して左足からでた、その時、私の目に写ったのは自転車にまたがるユウの姿だった。
「おはよ」
ユウに声をかけられて慌てて返事をする。
「おはようございます」
「なーに、その堅苦しい挨拶は。もっとこう、気楽に言ってみてよ」
「お……おはよ?」
合格、と言いながら頭を撫で、私の長いストレートの髪をくしゃくしゃにした。
私の髪は黒いストレートのロングヘアだ。顔は中の上……あったらいいな、というところだ。
ユウの髪は金髪で、イケメンかもしれないが、怖くてあまり顔を見ていない。ピアスをジャラジャラつけていたのだけは確かだ。
今も眩しくてユウの顔は見れていない。
「学校、行こうぜ」
ユウに促されるままに、私は自転車の後部座席に乗った。
駅までの道をわざわざ遠回りしてくれてうちに寄ってくれたらしい。
駅までの道のり、私はドキドキしながらユウにしがみついた。
春の空はどこまでも澄み渡っていて心地よい風が吹いていた。
自転車にはすんなり乗った訳ではなかった。
なんだかんだ理由をつけて乗るのを拒否しているうちに、
「もうこんな時間!急いでいかなきゃ!」
ということになり、仕方なく乗ったのだ。
「私、重いよ?」
「チカくらいなら楽勝」
言った通り、難なく道を走らせる。
――ユウの背中は温かく、二人の距離はずいぶん近くなった気がしたよね、あの時――
「ちくしょ、マジで間に合わんかもしれん。めっちゃ飛ばすから、しっかりつかんでろ!」
そう言いながら立ちこぎをはじめたユウ。
私はどこに捕まったらいいかわからずに、あたふたしていた。
「チャリに捕まれ!」
ユウが叫んだ。
「は……はい!」
そこからは覚えていない。多分一生懸命走って間に合ったのだろう。
学校についたら、周りがざわめいた。
とうとうやってしまった。
ユウと登校。女子の視線が痛い。
ユウは平然として言った。
「誰かが何かしてきたら、すぐに俺に言えよ」
「うん……」
返事したものの、自信はなかった。
今回はいじめられなかった。
それというのも、ユウが教室に乗り込んできて、大きな声で言ったからだと思う。
「俺とチカは友達だ!だから、友達をいじめるやつは許さねぇ。このクラスに見張りをしてもらってるやつがいる。いじめたら筒抜けだからな!」
見張りとか、どれだけ厳重なんだ。
でも、それも私のタメにしてくれているんだと思うと、嬉しくもあった。
それからいつも一緒に登校するようになった。
そんな時、前に仲良くしていた恵美子が寄ってきて謝ってきた。
恵美子とは一番最初にユウからのメアドを教わったときから口もきいていなかった。
「私、悪いことしたと思う。ほんとに私がバカだった。ごめんね、チカ」
「ううん、事情がわかってなかったんだから仕方ないよ。私も許してね」
と、恵美子が言いづらそうに言ってきた。
「でも……ユウ、三年の小宮山先輩と付き合ってるよ。それだけは言わないと、と思って」