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恋の歌  作者: ちびひめ
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翌朝、お味噌汁のいい匂いで目覚めた。


私、お嫁にきたんだから、朝食の用意は私がしないとダメだったのに!


焦りながら台所へ行くと、お母さんが

「あらあら、もう起きちゃったの?騒がしかったかしら?ごめんなさいね」

と言ってきた。

私は

「朝食の用意は私がするべきだったのに、すみません……」

と言った。

「あら、どうして?」

「だってお嫁にきたのに、準備させるなんて……」

「いいのよ、いいのよ。妊婦さんは少しゆったりのほうがいいのよ」

と言ってくれた。


それにしてもいい匂い。焼き鮭の匂いだ。


「じゃあ、これをテーブルに運んでくれる?お・よ・め・さ・ん」

お母さんはウインクするとそう言った。


私は言われた通りに配膳する。


ユウはいつもこんな朝食を食べていたんだね。

もし、元気になって一緒に住んだら、私、用意できるかなぁ?


配膳が終わる頃お父さんが起き出してきた。


「ユウ起こしてきます」

私はそう言うと、ユウを起こしに行った。


ユウはまだ夢の中だった。


長いまつげ、しなやかな指先、このどれもがもう私のものだった。

まだ信じられないけど、お嫁さんなんだね。


しばらく見とれていると、ユウがゆっくり目を覚ました。

「……チカ?」

ゆっくり横を見ながら呟いた。


「おはよ、ユウ。ご飯が出来てるよ」

「そうなの?早いな、まだ眠りたいよ」

「まだ寝とくなら寝とくで構わないけど」

「いや、できるだけチカといたいから、起きる」

そう言って車椅子に座った。


朝食を見ると、ユウは

「うまそう!もう一度くらい母さんの料理が食べたいと思ってたんだ」

と言った。


もう一度……もう次がないような言い方をするユウに、誰もなにも言えずにいた。





「延命治療っていうの?あれ、俺は必要ないから」

ユウが言い出した。

「管だらけになってまで生きたくはないから」

ユウは真剣な眼差しでそう言った。


「でも……私は生きていて欲しい」

私は泣きそうになりながら言った。


ユウはさっき食べた朝食を吐きながら言った。

「俺、もう先がないってこと、わかってるから。自分の身体は自分が一番知っているもんだよ」

「お願い、ユウ。そんなこと言わないで……」


病室へ戻りながら、私は泣きそうになった。


せめて、子どもが産まれてから、みんながそれを願っていた。

もちろんユウも。


病室に戻るとまた点滴が施された。


歩けるのは歩けるのだが、長時間立っていられない。

薬の副作用もあって、吐き気がひどい。でも、吐くものがない。

ひどいときは吐血した。


私はなんとか手術出来ないかとお医者さんに相談したけれど、もう手の施しようがないといわれた。

持ってあと半年の命だと。


絶望、どん底。


まさにその言葉の通りだった。



そんなとき、お腹が動いた。



確かにお腹を蹴る感じがする。

そっと手を当ててみると、お腹が波をうつように動いた。

今までも動いたかな?ということはあったけれど、こんなにはっきり動くのがわかるのは初めてだ。

興奮してユウに電話する。

「わぁ、俺も触ってみたい!」

ユウが喜びの声をあげた。

「明日お見舞い行ったら触らせてあげる」

と言うと、

「よっしゃ、もう一曲書くぞ!」

というユウ。

「もう一曲?」

「そう、産まれてくる子どもに一曲。」

そういえばまだ曲を作っているらしいユウは、大事にギターを磨いていた。

「はりきりすぎて変な曲作らないでね」

ユウは失礼だな!と言いながらどこか楽しそうだった。


――ユウ、あなたに子どもの顔を見せてあげたい――私はそう、思った。

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