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恋の歌  作者: ちびひめ
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初めてのお泊まりだ。

わくわくする。

ユウもそんな気持ちだったらしく、

「今日は一日中一緒か」

と笑顔で返してきた。

「うん!私、先にお風呂いただくね」

「夫婦なんだから、一緒に入っても……」

「ユウのエッチ!!知らないんだから!」

私は半分本気で冗談を返しつつ風呂場へ向かった。

お母さんがいろいろ準備してくれたおかげで、安心して風呂に入れた。

「ふぅ……」

湯船に浸かってため息をつく。これは楽しかったあとの、いいため息だ。


……にしても、私は今、ユウのいつも使っていたシャンプーや石鹸に囲まれている。不思議な感じだ。まだ付き合って一年半くらいなのに、ずっとそばにいる感じがする。

だけど、なにかくすぐったい。

初恋は実らないっていうけど、実っちゃったよ……


正確に言うと初恋ではなかった。高校生になったばかりの頃、生徒会長だった人を好きになった。

意味もなく生徒会室の前をうろうろしたりして、明らかに挙動不審だった。

そんな私にチャンスが訪れた。


生徒会のアンケートを生徒会室へ持っていくという使命を預かった。


生徒会室をノックすると、会長の返事が聞こえた。

ドアを開けると、会長は一人で書類を片付けていた。

やっとの思いで声をかけたのは

「あの……書類、手伝いましょうか?」

の一言だった。

「あぁ、ありがとう。でも生徒会外の人に手伝ってもらうのもなんだから……」

会長はそういうと頭を横に振った。


言え!言うんだ!


しかし私の口から出たのは

「そうですよね。部外者が、失礼しました」

という一言だった。


会長は

「そういう意味ではないんだけどね、ごめんね」

と謝ってきた。



この恋はそこで終わりだった。


三年生は卒業、会長も卒業していき、それまでだった。


それだけである。

私の恋らしきものとは、その程度だけだった。


だから、突然現れたユウには驚いたし、正直ビビった。

ユウが入学式の時から見ていてくれたなんて、思っても見なかった。



入学式の日、私は中学から一緒の洋子と校門前で待ち合わせていた。


そこへ一匹の犬が、リードをつけたまま走ってやって来た。大型のゴールデンレトリバーだった。

こんな大きな犬が離されていると、周りも怖がってしまう。


私は犬が怖がらないように優しく話しかけながら、リードをとった。

リードをつけているということは、飼い主が近くにいる証拠だと思い、洋子に先に体育館に行くように伝えると、そのままリードを持って待っていた。

入学式ギリギリのところで飼い主は現れ、私はなんとか入学式に出席した。


この一連をユウが見ていたなんて知らなかった。

そして、それを見て好きになってくれるなんて、信じられなかった。



ユウは私の初恋の人に等しかった。

初めてできた彼氏。初めてしたキス。

すべてが初めての経験だった。

そして、初めての結婚式。

人生最高のときを、一番好きな人と過ごしている。こんなすごいことってあるのかな?

私はお風呂からあがっても夢見心地だった。



ユウは風呂には入れず、清拭のみだった。

私は手伝っていて感じていた。

ユウに巣食う病魔が侵攻していることを。


ユウは自転車に乗せてくれていた頃のようにがっしりした身体ではなくなっていた。

痩せ細り、艶のない肌になっていた。

髪の毛も自慢の金髪は痩せ細り、黒い髪の毛の部分がずいぶん伸びていた。

「脱色、しなきゃだね」

と私が言うと、

「俺はロッカーだからな。いつでもかっこよくしとかないとな」

と笑い混じりに返してきた。



「病気がよくなったら、なにしたい?」

「エッチしたい」

「もう!人が真面目に聞いてるのに!」

布団に入っても会話でもりあがった。

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