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私は父に手をとってもらい、式場に入った。
一歩、また一歩とゆっくり進んでいく。
壇上では、車椅子に乗ったユウが待っていた。
壇上のユウに私の手を預けると、父はそのまま、椅子へ戻った。
私は壇上のユウとゆっくり目を合わせると、微笑んだ。ユウは今にも泣きそうな顔をしている。
讃美歌が流れ、神父さまのお話が始まる。
ユウは真剣な顔をして聞いていた。
私はそんなユウをいとおしく思った。
神父さまが言う。
「命ある限り、永久に愛することを誓いますか?」
「はい、誓います」
ユウの声がはっきりと式場に響き渡る。
「命ある限り、永久に愛することを誓いますか?」
「はい、誓います」
私の声はなんだか緊張で震えていた。いや、喜びで震えていたのかもしれない。
「では、指輪の交換をします」
ユウが私の手をとって、薬指に指輪を差し込む。
続いて私もユウの手をとって、左の薬指に指輪を差し込んだ。
ユウの手は痩せ細っており、私は手に触れるのをためらったくらいだ。
「続いて、誓いのキスをお願いします」
ユウはおもむろに立ち上がると、私のベールをめくり、唇にキスをした。
長く感じたが、一瞬だったのかもしれない。
唇をそっと離すと、ユウは言った。
「命ある限り、チカのことを守り抜きます」
ヴォーカルをしていただけあって、ユウの声はよく響く。
誰ともなく拍手が生まれ、それは大きな渦となって私たちを祝福した。
「新郎、新婦退場」
その声を後ろに聞きながら、私はユウの車椅子をそっと押して歩き始めた。
九月のよく晴れた日のことだった。
披露宴までは少し時間があった。控え室でメイクを直してもらいながら、ユウに話しかけた。
「ユウ、大丈夫?疲れてない?」
「ん?俺は大丈夫だよ。チカこそ緊張して疲れてない?」
「私は大丈夫。だって今日の主役だからね!」
笑って返す私に、ユウはふふっと笑ったが、少し疲れているようだ。
◇
披露宴が始まる。
私は両親とユウとユウのご両親に挟まれ、来訪者に迎賓の挨拶をした。
なんだか気恥ずかしい感じもするけど、学校の友達や先生に祝福してもらい、幸せだった。
それはユウも同じようで、中学校の同級生などとふざけあったりしていて楽しそうだった。
担任の先生がやって来て、
「いいニュースがあるの。また後でね」
と声をかけてくれた。
いいニュース……なんだろう?
私はそう思いながら迎賓を続けた。
やがて全席に人がつき、私たちは入場を待つばかりとなった。
ユウの車椅子を押しながら、
「楽しみだね!」
と声をかけると、
「改まると恥ずかしいもんだな」
と返してきた。
「なに言ってるの。ライブのときのほうが遥かに人数多かったし!」
と意地悪に答えると、
「それでも、緊張しすぎてやばい」
と頼りない返事が返ってきた。
「しっかりしてよ!今日から旦那さまなんだから!」
私の叱咤は激励になったのかな?
ユウはそれ以上なにも言わなかった。
やがて時間となり、せーの!で扉が開いた。
拍手の渦は私たちを再び飲み込んだ。
曲はユウが前にライブで歌っていたアコースティックなバラードでの入場だった。
ユウの顔が耳まで真っ赤になる。
そんなユウの車椅子を押しながら、私は席と席の間を縫うように高砂への道を歩んだ。
大多数が未成年というこの宴は、ソフトドリンクばかりという異例の宴となった。
親戚の中には私たちの結婚をよく思わない人もいて、嫌味をいわれたりもした。
そんな中でも助けてくれたのはユウとユウのご両親だった。
「まだ高校生なんでしょ?」
「さすがにうちでは出来ないわぁ」
「あり得ないことですよね」
そのたびユウのご両親が、
「せっかく育んだ命は大事にしないと」
「高校生でも社会の常識はしつけているつもりですから」
「好きあった二人が結婚するのは当然です」
と言い返してくれた。
おかげで私は満足のいく式を満喫できた。
――ユウも同じ気持ちだったよね?




