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恋の歌  作者: ちびひめ
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驚きのあまり、

「結婚式をって、そんなお金ないよ!」

と言うと、

「そのくらいなら積み立ててある。安心しなさい」

私は両手をあげて喜んだ。


急いでユウに電話をすると、その旨を伝えた。

ユウは電話越しに、泣いているようだった。

「ユウ、泣かないで。これはとても嬉しいことなんだから」

「ヴれしすぎでつい、ないちゃって、ごべん」

ユウは思い切り泣いていた。

今、そばにいてあげたい、そう思った。



結婚式の準備はどんどん運んでいった。式場は父の知り合いのいるホテルであげることにした。急な要望でも聞いてくれるのはとても助かった。一ヶ月で式を挙げようとするわたしたちに、親身になって話を聞いてくれた。

まずは招待客。二人の高校の同級生、お世話になった先輩、そして後輩。中学校の同級生。

私のバイト先の店長、先輩。

親戚一同。

集めたら結構な数になった。


もう時間がないとのことで、招待状は作らず、パソコンで手紙を書いて、ハガキも自分で作った。

返信をすぐに出してもらわないと間に合わないことも書き添えた。



ドレスの試着をした。妊婦さん用にお腹を圧迫しないドレスだ。

ホントはユウにも見てもらって決めたかったが、母と一緒に決めた。

ユウの衣装もきめた。ドレスに合わせてもらった。本人がいないので、サイズなどは細かくわからなかったが、だいたいのところで決めた。


食事は試食会に出て決めた。

周りはみんなカップルだったから、母と来た私は肩身が狭かったのだけれど、「お父様とお越しになるかたも多いですよ」と声をかけてもらって、少し安心した。


式場の配置、諸々はホテル側に一任した。



ハガキはどんどん返ってきた。ほぼみんな出席だった。


席次表もできあがった。

あとは、式の日まで、ユウの体調を合わせていくだけになった。


ユウの体調は万全とは言えなかった。抗がん剤の吐き気がひどく、めまいがして立っていられなかったりした。

副作用がひどくないタイミングでは、普通の生活を送れるけれど、ベッドに横になっているときのほうが多かった。

ひどくないタイミングのときは、ユウはいつもギターをいじっていた。

そして楽譜になんだか記号とかを書いている。

それが実に楽しそうで、そんなユウの姿を見るのが楽しみだった。


でも、いつ聞いても何の曲なのか教えてくれない。


部屋は個室だったので、パソコンを持ち込んで好きなアーティストの曲を聴いたりしていた。

自分たちのバンドの曲もたくさん聴いた。見舞いにくるバンド仲間に、ここはテンポが早すぎる、もっとためて、などと指示しているユウを見るのも幸せだった。



ユウは音楽が大好きだった。


ユウの周りはいつも音楽が絶えなかった。



結婚式の一週間前、再びユウは吐血した。量は少なかったから、胃からきているものだろうとのことだった。


そんな中でも結婚式の準備は進んでいった。





翌日、結婚式当日。よく晴れた秋の空となった。

まだまだ蒸し暑い、そんな時期に私たちは結婚式を挙げた。


ユウの貸衣装は、少し大きかった。なぜなら、ユウは今は食事をほとんどとれずに栄養点滴とリキッドだけで済ませていたから、痩せていたのだ。

それでも、衣装を身にまとったユウはかっこよかった。

そして今日は一日外泊許可もとった。ゆっくりできる。


私はドレスを身にまとうと、メイクを施され、ユウの後ろに立った。


すでに車椅子に腰かけていたユウはゆっくりとこちらを振り返る。そして泣き始めた。


「ちょっと、ユウ?!どうしたの?」

「チカが……」

「私が?」

「チカが綺麗だなって」

泣き虫ユウは久しぶりに涙を見せた。あの辛い治療でも泣かなかった、あのユウが泣いた。

私もほんの少し涙が出た。


――ユウ、あの時の涙は綺麗だったよ。

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