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とは言ったものの、何をどう考えればいいのかわからなかった。
ユウに相談したいけど、ユウは今はそれどころじゃないよね……
私は洋子に相談することにした。
「重たい相談でごめんね……」
近所のカフェでお茶をした。
もう八月。蝉の声がかん高く夏を謳歌している。
「実は、私、卒業できたら働こうと思ってるの。だけど、子どもと二人で食べていける職業ってなにがあるだろうと思って……」
「そうだねえ……二人で暮らすなら家賃と光熱費と食費は不可欠だよね」
「うん、そうすると二十万円くらいはお給料とらないといけなくて」
「夜の仕事もあるけど、保育園代金が高くて本末転倒かなぁ……」
やっぱり洋子はすごい。こんな私のためにいろいろアイデアを出してくれる。
「その前に、卒業、させてもらえるの?」
洋子は痛いところをついてきた。そうなのだ。まだ学校から明確な返事をもらっていない。
「まずは担任と話からだね」
そう言って二人は別れた。
洋子のいう通り、今どんな状況か知らなければならない。
私は学校に電話を入れた。
担任は言った。
「今のまま、お腹が大きくなっていくあなたを、みんなと同じに扱うことはできないの。とりあえずコースはどのみち就職クラスになるから、そこだけは決まってるから」
「私、学校やめなきゃいけないんでしょうか……」
不安な本音が出た。
やや間があって、担任は言った。
「今そうならないでいいように頑張って話をしているから、あと少し待ってね」
やはり学校も無理か……
私は絶望のどん底にいた。
頼れる人は他にはいない。自分で乗り切らなくてはならないのだ。
街は台風で大荒れだった。私の気持ちのように。
◇
ユウは外を眺めていた。
私が病室に入ったとき、ユウは窓の前に立っていた。
「台風すごいな。チカ、こんな日にまで来なくて大丈夫だったのに……」
「あら。来ちゃいけなかったかしら?」
「そんなわけねーだろ。退屈してたし。って、なに作ってんの?」
「オムツ……」
「へぇ、そうやって作るんだ?」
「だいぶ我流だけどね。縫い目が肌にあたらないようにするんだよ」
するとユウはくしゃくしゃな笑顔で、
「母親らしくなりやがって」
と言った。
「だって母親だもん」
私はピースサインで返した。
「俺さ、もしも、万が一治ったときには三人で散歩に行きたいな」
「行けるわよ。春になったら満開の桜の下で、バンド仲間と一緒にお花見するの」
そして沈黙。
二人にはわかっていたのだ。ユウは次の春を迎えられない。
それでも春を持ち出したのは、希望かもしれない。藁にもすがりつく想いかもしれない。
沈黙を破ったのはユウのほうだった。
「安心して、元気な子どもを産めよ」
「うん、大丈夫」
本当は大丈夫じゃなかったのかもしれない。だけど、この時はそういうより他になかった。
台風の嵐がやみそうにないので、私は母に迎えにきてもらうことにした。
「お父さん、まだ怒ってるのか?」
「うん、まだ……でもいつかは認めて見せるから」
「そっか。チカが頑張ってくれるから、今の俺も、子どももいるんだ。身体だけはしっかり気を付けるんだぞ」
「うんうん、わかってます!」
私は二度返事をしてユウから怒られた。
帰りの車の中で、私は母に何気なく質問をした。
「お母さんが私を産んだときって、どうだった?」
「ん?そうねぇ、周りがみんな喜んで、ヘトヘトなのにお見舞いに応えるのが大変だったかな。チカは逆子の上にへその緒が絡んでて、十に時間かかって産んだのよ」
母が語り始めた。




