表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋の歌  作者: ちびひめ
21/34

21

告知――それはとても重いものだった。


大腸の検査の結果、大腸にも癌が転移していることがわかった。それから肝臓も。

ここまでひどいと手術は出来ない、放射線治療と薬物治療くらいしかできない。

緩和病棟にはいるかと聞かれ、お母さんは悩んでいるようだった。


もってあと半年の身体。


痛みなどもあったはずなのに、ユウは元気にくらしていた。


私は先に退院し、ユウの病室へ顔を出した。


「おっせーよ!」

私の三日間の入院の間、検査づくしだったユウが一番最初に発した声だった。

「ごめんごめん。妊婦の風邪はなかなかよくならないものよ」

「子どもは?大丈夫だった?」

「うん、妊婦でも飲める薬があったから、それを飲んで治したよ」

この時私は、妊婦でも飲める薬について詳しく調べていた。

漢方薬にそういった薬があることも調べていて、それでそう返事をした。

ユウに余計な心配はかけられない。


ユウは病室にギターを持ってきていた。


「曲、作るの?」

「おう、前のよりもっといい曲を、と思ってさ」

「前のでもよかったじゃん」

「今度はお前だけのために作るの!」

「えっ、そうなの?」

私の顔はトマトのように真っ赤に染まった。

「照れてやんの!」

そうからかうユウを睨み付けながらも私は幸せだった。





「本人に、告知しようと思うの」

お母さんのその言葉は重たかった。

「その上で、あの子に生き方を決めてもらおうと思ってる」

私は無言だった。

ユウに伝えたときの落胆を考えると、とても言い出せないことだった。

それでもお母さんは告知の道を選んだ。間違いではないと思う。

「告知したら、チカちゃんにお願いがあるの。」

「はい?」

「ユウを……ユウを支えてあげて欲しいの」

「私なんかがそんな大役、できっこないです!」

「ううん、チカちゃん、あなたにしかお願いできないの。ユウを支えてあげて」

泣きながら言うお母さんにおされて、私はユウを支える心の準備をした。


告知は静かに行われた。

私なんかがその場に居合わせていいのかわからなかったが、とりあえずユウの隣にいた。


癌だと聞いたときのユウの表情は忘れられない。

納得と絶望と怒りと、そんなものばかりが大量に吹き出した、そんな顔をしていた。


緩和病棟へ移ることを、ユウは拒否した。

最後まで闘い抜きたい、ユウはそう言った。


泣き虫なユウは泣いていなかった。ただまっすぐ先生のほうを見返すと、ゆっくり私の方を向いた。

「俺には、守らないといけない『家族』がいるんです。」

と。」

家族とは私たちのことだった。私とお腹の子どものために、最後まで闘い抜くことを決めたのだ。


私は泣き崩れた。本当は泣き崩れたいのはユウの方なのに、ユウは泣かなかった。


告知してユウが最初にやったことは、バンドのメンバーにこの事を告知することだった。四人四様の困惑した姿があったが、みんなとりあえず納得して、落胆したまま帰っていった。

次にしたこと……それは婚姻届を書くことだった。

八月にはいり、ユウの誕生日がきたら、すぐ出せるように、とのことだった。

字はところどころ涙でにじんでいたが、それでもユウの私に対する気持ちを充分表現していた。

「これ、お前さえよければ誕生日に出してきて欲しいんだ。いいだろ?」

父と母は戸籍が汚れるからだのなんだのと言っていたが、私は構わなかった。一瞬でもいいから、ユウの家族になりたかった。その夢が叶ったんだ。私は嬉しさの中に悲しみを見つけた。


夢……いつか、子どもと三人で手をつないで、歩いている。

そんな夢もあった。

一年でも長生きして、子どもをだっこさせてあげたい。


――それだけが望みだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ