02
「俺のチカにこんなことしやがって!ただじゃすまねーぞ!」
とユウは吠える。
一生懸命止めに入っていたが、あることに気づいてしまった。
「俺の、チカ……?」
ユウは返事をせず、ただただみんなに向かって吠えていた。
私は耳をふさぎ、現実逃避をはかろうとした。
そのとき、ユウの大きな手が私を包み込み、
「もうぜってーこういうことさせねーから、な」
と囁いた。
不覚にも、涙がポロリ、またポロリと落ちてきた。私はユウの腕の中で泣いた。
それからは露骨ないじめは減った。
ただ、まだ足を引っかけられたりするので、完全にないとは言い切れなかった。
私は強くならなければならない。
そう思った。
次の回からは引っかけようと足を伸ばしてくる女子を睨み付けることができるようになった。
女の友達は洋子だけになってしまった。それでも、私には充分過ぎる友達だった。
ユウはあれから朝、昼、夜とメールを送ってくれた。
私はあまり返事をしなかった。
ユウという人がどんな人か知らなかったし、勝手に「俺のチカ」なんて言うし、めちゃくちゃな人だな、と思っていた。
ユウはバンドを組んでいるらしく、しょっちゅう練習風景を写メしてきた。
学校にはあまり来ていないようだった。
私は洋子に相談した。
なぜ彼はこんな言動をするのか、なぜ勝手に「俺のチカ」なんていうのか。
答えはスムーズだった。
「ユウくん、チカのこと好きなんじゃないの?」
私はそんな覚えもないし、全く知らない他人だったから、私の何を見てそう思ったのか理解できなかった。
だいたい大抵ユウは学校に来なかったし、接点が無さすぎた。
私は相変わらずユウのメールにはぶっきらぼうに返事をしていた。
朝から、と言っても十時過ぎ辺りに『おはよー』とメールが入ってきて、お昼休みに今日の昼食、とカップ麺の写メが添付されてきて、夕方にはバンドの練習の風景の写メがきた。
『中央町でやってるから、よかったら遊びに来いよ』
とお決まりのメッセージが添えてあった。
メールはほぼ毎日来た。
あまりのウザさに受信拒否をした。
すると、かったり次の日には学校に現れて
「なんで拒否にすんの?」
と責められた。
「なんで私が責められないといけないの?そっちが勝手に一方的に送ってきてるだけでしょう?」
「チカ、俺は俺のことを知ってほしくてメールしてる。少しでもお前に近づきたい」
私は、はぁー、と海よりも深いため息をついて言った。
「それで、どうして私なわけ?」
「そりゃ、俺がお前のこと好きだからに決まってるだろ」
「なにを根拠にそういうことが言えるわけ?」
「好きってことは理屈じゃないだろう?」
「――それは、そうだけど」
私はなんとなく納得できないでいた。
「とにかく、最初はメル友からでいいから、俺のこと知ってよ。それから断ってもいいからさ」
なにを断るというのだろう?付き合ってくれだなんて言われてないし。
顔をくしゃくしゃにした笑顔でユウは言う。
「まずは友達からで」
私は差し出された手を条件反射で握ってしまった。
「これで交渉成立、な」
私は仕方がなく頷いた。
ユウはいつも強引だった。私は後をついていくので精一杯で、でも、そんな私の肩をいつでもしっかり離さないでいてくれた。
くしゃくしゃにした笑顔をみると、心の奥がキュンとなるのを感じた。
しかし、私はそんな気持ちを押さえ込んだ。
ユウはいわゆるヤンキーで、タバコは吸うわ、ピアスをいくつも開けているわの問題児だったらしい。
でも、ユウの素顔はそんなことはなく、いつも人懐っこい笑顔で笑っていた。
これはいつもユウを見ていないと気がつかないことだった。
ユウの表面は金髪で突っ張っていたから。