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恋の歌  作者: ちびひめ
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とりあえず出産するとして、それまでの学校のことを考えた。

今はまだお腹が小さいから構わないだろうけど、いずれみんなにわかってしまう。退学などにならなければいいが……


担任の先生に相談することにした。

担任の先生は話を聞くと、

「職員会議にかけてみないとわからないけど……出来るだけ退学にならずに済むように話してみるわね」

と言ってくれた。

「それにしても、先生もまだ体験したことのないことにチャレンジするのね」

と優しく言ってくれた。

それが私にはとても嬉しくて、思わず涙した。



ユウも担任の先生に相談したらしく、進路指導室からちょうど出てきたところだった。


「ユウ!どうだったの?」

私はユウに駆け寄り聞くと、

「学校だけはちゃんと卒業しなさい、だって。結婚も卒業してからにしてほしいって」

「そう……じゃあ、私生児になっちゃうんだね……」

「でも、卒業したらすぐ結婚するし、そんな心配いらないって」

「うん……嬉しい」

「チカはなにも心配するな」

「うん!」


私は幸せだった。





その日の晩、いつものようにユウに電話をかけたが、出ない。

お風呂かなと思い、しばらくしてかけなおすが、出ない。


何かイヤな予感がした。



三時間ほど経って、もう今日は寝てしまおう、ユウもきっと寝ているに違いない、と思ったときに携帯が鳴った。

ユウからだった。


「もう、ユウ遅いー!!」

と言うと、電話の向こうから泣きじゃくる誰かの声がして、私は改めて

「もしもし?」

と聞いた。

「チカちゃん……」

その声はユウのお母さんの声だった。

「お母さん?」

「ユウが……ユウが血を吐いて倒れたの」

「ユウが?!どこの……どこの病院ですか?」

「日赤病院なんだけど、今入院のための着替えとか取りに来て、ユウの携帯を見つけたからそれで……」

「すぐ行きます!」

「いや、今日は命に別状はないとのことだから、一応報告しておかないと、と思ってね」

「でも……ユウが心配です!やっぱり今から行きます!」

「ユウは薬で眠っちゃったから、明日にでも、来てあげて」

「だって、ユウが!」

「先生が胃潰瘍かもしれないっておっしゃるから、命に別状はないと思うの。取り乱しちゃってごめんなさいね。あの子今まで大きな病気したことなかったから、びっくりしちゃって……」

「わかりました。明日伺います」

そう言って電話を切ると、私は心配で泣き始めてしまった。

お腹をなでながら、「大丈夫だよね?」と何度も聞いた。





翌日、学校が終わると、真っ先に病院へ向かった。

受付でユウの病室を尋ね、エレベーターに乗って病室まで行った。


ユウの声がした。

「だから、胃潰瘍くらい気合いで治せるってば!俺、バンドのオーディションがあるから行かなきゃなんないの!」

それはユウのお母さんに向けた言葉だった。


病室のドアを開けると、ユウが顔をくしゃくしゃにして言った。

「チカ!俺、もうびっくりしちゃったよ!胃カメラってやつを初めて飲んだぜ」

ユウは元気だった。


私は拍子抜けしてしまい、その場にへたりこんだ。

「胃潰瘍だったの……?」

「おう、先生がそう言ってた。まさか血を吐くとは思わなかったぜ。最近ちょっと調子悪いかな、とは思ってたけど」

ユウはくしゃくしゃの笑顔のまま言った。

「どうも胃がおかしいな、トイレが細い便しか出ねーな、と思ってたけどさ」

「やだ、トイレの話なんて乙女に向かってしないでよ」

私は笑った。


――この時は、あんなことになるなんて、思いもしなかったよ。

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