18
手術が出来ないとわかると両親は産むしかないのだと悟った。
「チカ、産むって簡単に言うけどね、産むにもお金がかかるのよ?それに今後の生活はどうするの?」
母は泣いた。ただただ泣いた。
「俺、働きます!学校やめて働きます!だから、どうか許してください!」
ユウは土下座をして許しをこうた。
私も慌てて横に座り、頭を下げた。
「まぁ、産むのは産むしかないんだから、それくらいはうちで……」
と父が言った。
「二人とも、学校はどうするつもりだ?」
「私、学校やめる」
「そんな簡単なことじゃないだろう?!」
父が取り乱したように怒鳴った。
「学校やめて、はい働きます、って中卒じゃどこも雇ってくれないんだぞ!きみも!いますぐ働くだなんて、そんなことじゃないんだよ?!」
父は泣いていた。
私は父の涙を初めて見た。
いつも優しく、温かな背中で私をおぶってくれる、そんな父しか見たことはなかった。
「とりあえず、ユウくんって言ったか?きみのご両親とも話し合う必要がある。今日のところはもう帰ってくれ!!」
父はぼろぼろ泣いていた。
母も泣いていた。
私、そんなに悪いことをしたの?
ただ好きな人の子供が出来たっていうだけなのに……
私は自室に籠って悩んだ。
確かに、学校やめてもなんとかなるかな、なんて考えだったけど、甘かったってことなんだ。
そうか、中卒になるんだ。そしたらどこも雇ってくれないんだ……
私はどうすればいい?ユウ……
◇
今日はユウのご両親に挨拶に行く。
とても緊張する。いつものように自転車の後ろに乗って、ユウにしがみついた。
ユウはその手を握り返してくれた。
ユウの家は緊迫感もなく、ユウも普通に「ただいま」なんて言って入っていく。
「お邪魔します……」
と恐る恐る玄関で靴を揃えてあがった。
ユウの家族はなんだか温かな香りがした。
「父さん、母さん、これがチカ」
「話には聞いてますよ」
「大変なことをしてすまないね」
と言いつつ笑顔が絶えない。
お母さんからお茶をいただくと、ユウが話始めた。
「だから、俺が十八になったら結婚したいんだ」
「結婚に反対はせんよ」
とお父さんは言った。
「ただ、最低でも高校は卒業しないといけない。出産予定はいつだったかな?」
「一月か二月です……」
と私が言うと、お母さんがにっこり笑って
「寒いからおっぱいが大変ね」
と言った。
「結婚して、金がないなら金ができるまでうちに住めばいい。ただし、二人とも高校は卒業してもらう」
ユウのお父さんはゆっくりと言った。
「あ……ありがとうございます!!」
私は土下座をしようと床に座り込んだ。
するとお母さんが、
「お腹に負担をかけてはだめよ、椅子にゆっくり座って」
と言ってくれた。
「出産費用の立て替えはうちでするから、安心して元気な子供を産んでくれ」
とお父さんが言ってくれた。
ユウと目が合うと、ユウは抱き締めてきた。
「ちょっ……ユウ!!人前だってば!」
「関係ねーよ、俺がこうしたいからしてるの」
と言ってくれた。
ユウの家は何もかもが温かかった。
◇
いよいよ両家の顔合わせだ。私の家にユウとユウのご両親が来てくれた。
「……この度は息子が、大変なことをして、申し訳ありませんでした!」
ユウのお父さんはいきなり土下座をして見せた。
「どうぞ、顔をおあげになって」
と母が言ってお父さんは顔をあげた。父は無言だった。
母が主に中心になって話を聞いてくれた。父はずっと無言だった。
出産費用のこと、その後の暮らしのこと、高校のこと。
すべてを聞き終えた父は
「勝手にしろ」
と言ってふらりと出ていってしまった。
母が後を追いかける。
私はすっかり冷めたお茶を入れ直して来た。
「ホントにごめんなさいね、うちのバカが」
お父さんは言った。
私は頭を横に振り、
「幸せです」
と言った。
――本当に幸せだったよ。