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恋の歌  作者: ちびひめ
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手術が出来ないとわかると両親は産むしかないのだと悟った。

「チカ、産むって簡単に言うけどね、産むにもお金がかかるのよ?それに今後の生活はどうするの?」

母は泣いた。ただただ泣いた。

「俺、働きます!学校やめて働きます!だから、どうか許してください!」

ユウは土下座をして許しをこうた。

私も慌てて横に座り、頭を下げた。


「まぁ、産むのは産むしかないんだから、それくらいはうちで……」

と父が言った。

「二人とも、学校はどうするつもりだ?」

「私、学校やめる」

「そんな簡単なことじゃないだろう?!」

父が取り乱したように怒鳴った。

「学校やめて、はい働きます、って中卒じゃどこも雇ってくれないんだぞ!きみも!いますぐ働くだなんて、そんなことじゃないんだよ?!」

父は泣いていた。


私は父の涙を初めて見た。

いつも優しく、温かな背中で私をおぶってくれる、そんな父しか見たことはなかった。


「とりあえず、ユウくんって言ったか?きみのご両親とも話し合う必要がある。今日のところはもう帰ってくれ!!」

父はぼろぼろ泣いていた。

母も泣いていた。


私、そんなに悪いことをしたの?

ただ好きな人の子供が出来たっていうだけなのに……



私は自室に(こも)って悩んだ。


確かに、学校やめてもなんとかなるかな、なんて考えだったけど、甘かったってことなんだ。

そうか、中卒になるんだ。そしたらどこも雇ってくれないんだ……

私はどうすればいい?ユウ……





今日はユウのご両親に挨拶に行く。

とても緊張する。いつものように自転車の後ろに乗って、ユウにしがみついた。

ユウはその手を握り返してくれた。


ユウの家は緊迫感もなく、ユウも普通に「ただいま」なんて言って入っていく。

「お邪魔します……」

と恐る恐る玄関で靴を揃えてあがった。


ユウの家族はなんだか温かな香りがした。


「父さん、母さん、これがチカ」

「話には聞いてますよ」

「大変なことをしてすまないね」

と言いつつ笑顔が絶えない。

お母さんからお茶をいただくと、ユウが話始めた。

「だから、俺が十八になったら結婚したいんだ」

「結婚に反対はせんよ」

とお父さんは言った。

「ただ、最低でも高校は卒業しないといけない。出産予定はいつだったかな?」

「一月か二月です……」

と私が言うと、お母さんがにっこり笑って

「寒いからおっぱいが大変ね」

と言った。

「結婚して、金がないなら金ができるまでうちに住めばいい。ただし、二人とも高校は卒業してもらう」

ユウのお父さんはゆっくりと言った。

「あ……ありがとうございます!!」

私は土下座をしようと床に座り込んだ。

するとお母さんが、

「お腹に負担をかけてはだめよ、椅子にゆっくり座って」

と言ってくれた。

「出産費用の立て替えはうちでするから、安心して元気な子供を産んでくれ」

とお父さんが言ってくれた。

ユウと目が合うと、ユウは抱き締めてきた。

「ちょっ……ユウ!!人前だってば!」

「関係ねーよ、俺がこうしたいからしてるの」

と言ってくれた。

ユウの家は何もかもが温かかった。





いよいよ両家の顔合わせだ。私の家にユウとユウのご両親が来てくれた。

「……この度は息子が、大変なことをして、申し訳ありませんでした!」

ユウのお父さんはいきなり土下座をして見せた。

「どうぞ、顔をおあげになって」

と母が言ってお父さんは顔をあげた。父は無言だった。

母が主に中心になって話を聞いてくれた。父はずっと無言だった。

出産費用のこと、その後の暮らしのこと、高校のこと。

すべてを聞き終えた父は

「勝手にしろ」

と言ってふらりと出ていってしまった。

母が後を追いかける。

私はすっかり冷めたお茶を入れ直して来た。

「ホントにごめんなさいね、うちのバカが」

お父さんは言った。

私は頭を横に振り、

「幸せです」

と言った。


――本当に幸せだったよ。

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