17
ユウは毎朝優しく私を学校へと誘った。
私は順調に育っているであろう我が子と一緒に毎日を過ごした。
モールに行くと、子供服エリアに行ったりもした。
ユウはなにも気付かず、
「子供が出来たらこういうの着せてーな」
とか言っていた。
私は余計に言い出せなくて……
結局いつもそのままの状態だった。
病院へ行った。
エコーでお腹の様子を見せてもらった。
まだ小さな丸でしかない命は、確かにそこに芽吹いていた。
受付で、中絶手術についての書類をもらった。
子供の父親がサインする欄があった。
言わなきゃ……
私は七月に入ってからちくちくするお腹の痛みを感じるようになっていた。
アイスしか食べていないので、げっそり痩せ細った。
ユウが気晴らしにとクレープ屋さんへ連れてきてくれた。
クレープは甘くて美味しかった。久しぶりの固形物だった。
その日の夕方、ユウに打ち明けることにした。
とても迷った。だが、手術を考えると、もう逃げ出すことは出来なかった。
「ユウ……」
「ん?なに?」
「私にユウの子供が出来たら、嬉しい?」
「……そりゃぁ嬉しいさ。当たり前だろ?」
私は息を大きく吸うと、
「私、ユウの子供が出来たみたいなの」
と一気に言った。
ユウはきょとんとした顔をしていたけど、徐々に笑顔になり、
「やった!やったじゃん!」
と言った。
私はユウは困惑するだろうとばかり思っていたので、拍子抜けした。
「今からだといつ産まれるの?」
「一月くらい……だと思う」
「俺もいよいよお父さんだな!」
「ユウ……私、子供っ……」
「産めよな。絶対」
「ユウ……」
――ユウ、あの時の嬉しさは今でも忘れないよ。
「そうと決まったら、まず両親の説得からだな」
ユウは金髪を振りながら言った。
「説得するには仕事も探さないとな」
「私、産んでもいいの?」
「当たり前じゃん!新しい家族が出来るんだぜ?」
私は、この人といて良かった!ホントに良かった!そう思った。
「両親の説得だけど、あと二ヶ月待ってもらえる?」と私は聞いた。
「いいけど、こういうことは早くしておいたほうがいいんじゃねーの?」
「二ヶ月待ったら、手術出来なくなるの」
「そうしたら……」
「そうしたら、産むしかなくなるの」
ユウは指をパチンと鳴らして
「ナイスアイデア!」
と言った。
それからは二人でベビー用品を見に行ったり、安産祈願に行ったりした。
幸せだった。
なにもかもが順調だった。
一月が過ぎ、いよいよ私の両親に許可をもらいにユウが来ることになった。
両親には、ただユウが挨拶したいだけだと言っていたので、我が家はのんびりな日曜日を迎えていた。
でも、私の心は不安でいっぱいだった。
怒られるよね、当然だよね。
でも、ユウがいてくれる。絶対幸せになるんだ!私はそんな意気込みで朝を迎えた。
やがて、ユウはやって来た。いつものパンクロック系の格好で。
うちにあがってすぐは母もお茶を淹れたりしてバタバタした。
それからみんなが揃ってから、ユウはいきなり土下座した。
「俺の子供が、チカのお腹にいます!!チカさんと結婚させてください!」
そんなことを予想もしていなかった父と母は、開いた口が塞がらないようだった。
「待ってよ。二人はまだ学生なんだぞ。なにをそんな……いきなり……」
父が頭を抱える。
母は
「赤ちゃん、今どのくらいなの?」
と声を震わせて聞いてきた。
「……五ヶ月に入ったところ」
「なら、手術は?手術出来ないんじゃないの?」
「私が気付くのが遅かったの」
「いくらなんでも、チカ……なんで、よりによってお前に……」
うちの中はさっきと一転してパニックになった。
「だけど、どうするんだ?産むって簡単なことじゃないぞ?!」
父が拳を震わせて言った。
母は泣いていた。
――でも、私は後悔しなかったよ。