16
財布騒ぎから一週間。
私は普通に登校していた。
だが、気になるのは財布を盗んだ彼女だ。
彼女は財布を盗んだ上、私に罪をなすりつけようと私のカバンに財布を差し込んだのだ。
もちろんクラスメイトの怒りはすべて彼女に向けられた。
でも、私はかわいそうだな、と思った。
同情とか、そんなんじゃなくて、みんなからシカトされるのはあまりに辛いだろうと感じたのだ。
「土井田さん、みんなに謝ろうよ?」
私は彼女にそう話しかけた。
「今さら謝ったって遅いから、いい」
変なところで意地を張る。
「そもそも、私が謝る相手ってあんただし」
それもそうか。
だが、今のままじゃいじめに発展する。
いじめにあったことがあるからわかるのだが、いじめられることは半端なく辛いことだ。
私はそれを彼女に言って、彼女はしぶしぶ納得した。
休み時間に一グループずつ回って謝っていく。
私も一緒に謝った。
「なんでチカが謝るのよ?」
と、どのグループでも言われた。
「私に隙があったからいけなかったんだよ」
と私は説明して歩いた。
みんなはいまいち納得してくれなかったが、
「本人が言うなら、まぁ、仕方ないか」
と言ってくれた。
この件で彼女に友達はいなくなった。
もともと一人で行動派だったようだが、それとは状況が違う。
私は勇気を出して、
「お弁当、一緒に食べない?」
と誘いをかけた。
最初は断られていたが、二週間もたつ頃には彼女が降参して、一緒にご飯を食べることになった。
「あんたって変わってるわね」
土井田ミキはそう言った。
「変わってる?」
「普通あんな目に遭わされたら友達になんて絶対なれない」
「だって、私は洋子ちゃん以外に友達はいないから、チャンスかな、と思って」
「チャンス……ね。確かに変わってるわ」
ふふ、とミキは笑った。
◇
来ない。
アレが来ない。
まさか……
私は薬局で妊娠検査薬を購入した。
そして、そのままトイレで、検査をした。
陽性だった。
検査薬の窓にはしっかりとラインが浮かび上がっていた。これが妊娠のサイン。
三回目の生理がこなくて初めて気づいたのだ。
私は落ち込んだ。
ユウにも言えなかった。今は6月だから、1月くらいが出産となる。
でも、私は高校生だ。産むわけにはいかない。
頭ではそれはわかっていたことだったが、身体の中から、「ママ」と呼ばれている感じがして、そうしたくないとも思った。
とりあえず誰かに相談しなきゃ……
焦る一方で、それでも言い出せない自分がいた。
まずは洋子に相談した。
「――それは、手術しかないね」
「やっぱり?」
「産んでも、どうやって育てるん?そっちのほうが無責任やわ」洋子は冷静に話を聞いてくれた。
私もそれが一番かな、と思った。
……ユウに言わないといけない。これは私だけの問題じゃないんだから。
でも、私はユウには言えなかった……
妊娠初期。手術するなら今のタイミングしかない。
それでもまだ、私はユウに言えてなかった。
毎日一緒に登下校しているのに、隠すのが精一杯で、ユウの話は半分しか聞けていなかった。
そのうち、つわりがはじまって、私はハーゲンダッツのバニラしか食べれない身体になった。
食べ物の匂いを嗅ぐと吐き気がした。
自分の身体が自分じゃなくなっている気がしていた。
家ではアイスしか食べない理由をダイエットということにした。
母が心配してくれたが、ごまかすしかなかった。
ものが食べれない。このことはミキも気づいた。
「チカ、最近アイスしか食べてないの、どうかあるん?」
「エヘヘ、ちょっとダイエット」
こうしている間にも子供はすくすくと育っていたのだった。