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抱き締められた最初は思わずビクッとしてしまったが、あとは抱き締められている温もりが気持ちよくて、抱き締められてる間、私はボーッとしていた。
「俺は、チカを大事にしていきたいと思ってる。だから焦る必要なんてないんだよ」
その言葉に、涙が二、三個転がっていった。
その日の帰りから、再びユウと帰り始めた。
「エッチしないのは女として魅力ないからじゃない?」
と言っていた子をよそに、私たちはまたラブラブで帰り始めた。
やっぱりユウといる時間が一番好き。
今日あったこととかを一生懸命しゃべる。ユウが笑顔で頷く。
そうか、幸せってこんなに近くにあるんだね。
◇
季節は移り変わって四月。
暖かな日差しに囲まれて、私たちは三年生になった。
桜は散ってしまい、その代わりに菜の花が満開を迎えていた。
蝶が飛び交う花の中、みんなで記念写真を撮った。
クラス替えがあり、私とユウは念願の同じクラスになった。
この頃にはもう、ユウのファンからの嫌がらせもなくなっていて、ホントに平凡な日々を送っていた。
「もうすぐ、記念日だね!」
というと
「一年間、早かったな」
とユウは言った。
私は覚えてくれたことが嬉しくて、手をぎゅっと握った。ユウは痛くない程度に握り返してくれた。
「あの頃は、こんな風になるなんて、思いもしなかったなぁ」
「俺もチカがあそこまでガード固いとは思わなかった」
ふふ、とユウが笑う。
そしておもむろに伸びをした。
ユウの目には涙が溜まっていた。
伸びのせいにしようなんて、見え見えなんだよ、ユウ。
すぐ泣くユウは、私の前以外で泣かなかった。
私は心の拠り所になっているのかなとちょっと嬉しかった。
「なぁ……俺ん家寄ってかないか?」
付き合って数回お邪魔したことがあるユウの家。でも、それは土日のことだった。
今日はこのまま制服でお邪魔する。
手土産を買っていったほうがいいかと聞くと、チカが食べたいなら、と言ったので、ケーキ屋に寄った。ここのケーキはホントに美味しくて、前にお邪魔した時も買っていったくらいだ。
手土産も用意して、いざユウの家へ。
「お邪魔しますー」
といって上がり込むが、返事がない。
「あれ?お母さんは?」
「今日は町内会の慰安旅行でいない」
お父さんの帰りは夜……
つまりは二人きり。
緊張して生唾を飲み込む私。
「ユウはどのケーキがいい?」
焦って聞く私。
「コーヒー淹れてくるわ」
と、ユウがいなくなってしまった。
その隙に下着を確認する。
今日は上下ばらばらだし、可愛い下着じゃない!あぁ、一度帰らせてもらえば……
ユウが部屋に戻ってきた。
「私、一度帰ってからまたきていい?」
コーヒーを口にしていたユウは思い切りむせた。
「なんで?」
「いや、制服なのもなんだし……」
「誰も見てねーから問題ないだろ?」
それもそうだな。
ここは正直に!
「今日は勝負下着じゃないから……」
ユウはブフッと盛大に吹き出した。
「お前、そんなこと考えてたのかよ?」
「だってこのシチュエーションなら考えるでしょ?」
「それもそうだな」
そう言いながらも、ケーキを取り分けるユウ。
「まあ、まずはケーキだよ!傷むから一人二つな」
緊迫感がまるでなかった。
私はちょっとホッとしてケーキを食べた。
そのままゲームをしていると、不意にキスされた。
いつもと違うキス。舌を絡めとられ、強引だった。
口を離すと吐息がもれた。
ユウはそのまま覆い被さってきた。少し怖くて目をつぶる私。
「ちゃんと見て……今触ってるのは俺だよ……嫌なことはしないから」
――そして二人は新たな絆で結ばれた。