13
こんな風に日常はただ通りすぎていった。
私たちはキス以上に発展していなかった。
私がパニックを起こすかもしれないという理由だった。
でも、洋子以外の友達と話していて気がついた。
「男ってやりたいもんじゃないの?」
「もう付き合いだして半年以上になるのになにもないってのはねー?」
「ユウのことだから、セフレとかいるのかも?」
「そんなこと、ないっ!!」
私は叫んだ。
「じゃあ、チカに『女』を感じないとか?」
やだ、やだ、やだ。
そんなこと、嫌だ。
ユウが誰かとエッチするなんて。
私を女の子として見てくれてないなんて、そんなはずはない、と言いたかった。
でも、言葉に出来ないまま、私は駆け出してしまった。ユウの元へ。
「ユウ!!ユウ!」
「どうしたんだよ、そんなに焦って。何かあったんか?」
「ユウ、私のこと、好き?」
「なんだよ、そんなことかよ」
そんなことかよ、の台詞に苛立ちながらも、もう一度聞いた。
「私のこと、好き?女の子として、好き?」
ユウは私の髪をくしゃくしゃと撫でながら
「好きだよ。当たり前だろ」とささやいた。
「じゃあ、どうしてエッチしないの?!」
ユウは目をそらした。
「お前が怖がるんじゃないかと思って、さ」
私は頭に血がのぼった。
「そんなこと言って、ホントは嫌なんじゃないの?汚れた女なんて」
「なに言ってんだよ!そんな風に思ったことなんて一度もねぇよ!!」
「そうだよね!私汚れてるんだ。
ユウの傍にいる権利なんてないよね」
この時、私は心の底からそう思った。
私は、汚れてる。捕まったとはいえ、どこの馬の骨ともわからない人たちにあんなことされたんだもん、普通重荷に感じるよね。
ユウも重荷に感じてたんだ、きっと。
この時の私はそれしか考え付かなくて、悲劇のヒロインかなにかにでもなった気分でいた。
ユウとは一週間口をきかなかった。電車はわざとばらばらな時間に行った。少しでも会う時間を減らしたかったのだ。
ユウは、それでも毎日迎えに来てくれていたらしい。私はほんのちょっと嬉しかったりはしたのだが、これ以上ユウに嫌われるのは怖かった。
クラスにも出来るだけいないようにした。ユウが来るからだ。
屋上などで一人ボーッとすることが増えた。
外はさすがに寒かった。でも私はコートも着ないで外にいた。
それが汚れた女にはよく似合うと思ったからだ。
私は汚れている……そう思うだけで身震いした。
キスだけは守りぬいたけど、その他がぐちゃぐちゃだったんだから意味がない。そう私は思っていた。
ユウはやがて屋上を探し当ててやって来た。
「お前何を怒ってるんだよ?」
「怒ってない!」
「怒ってるだろ?!」
「これは……違う」
私はそう言うと泣き始めた。真珠のような涙が一滴、また一滴とこぼれてきた。
「ユウは私のこと重荷なんだよね?だからエッチとかしたりしないんだよね?」
「なに言ってんだよ?!そんなことあるわけないだろ?」
「だって。みんながそう言うんだもん。セフレがいたりするの?」
「バカ、お前のためにどれだけ時間割いてるかわかってるのかよ?」
「ほら、やっぱり重荷なんじゃない!」
真珠の涙が割れる。一つ、また一つ。
「俺はそんなこと思ってないし、急いでする必要なんてない。もっと二人の時間を楽しく過ごすのがいいと思って……俺だって我慢してるんだ、わかってくれないか」
我慢。
その言葉がでたとたんに涙は止まった。
我慢してくれてるの?
「お前が怖くなくなるまで待とうと思って」
「怖くなくなるまで?」
「そう、怖くなくなるまで待ってる」
私は決意した。
「もう、怖くないよ」
「嘘つきは針千本のーます」
「嘘じゃないもん」
「証拠は?」
「抱き締めてみてよ」
ユウは私の背に手を回した。