12
お正月もライブ三昧だった。いろいろなステージでユウの歌声を聞いた。
ユウの歌声は高く低く、ファルセットを織り混ぜながらの独特なものだった。
私はいつの間にか歌を覚えて鼻歌で歌うようになっていた。
ユウが作詞作曲した歌は全てマスターした。と言っても、低い部分は声がでないんだけど、なんだか嬉しい気持ちがした。
やがて学校が始まった。
ユウはいつものように迎えに来てくれて、相変わらず二人乗りで駅まで行った。
レイプ事件以来、私はほとんど一人になることはなかった。
ユウがいつも隣にいてくれたし、いないときは洋子と過ごした。
バンドの練習も見に行った。
音を合わせてやるには時間がかかるみたい。みんな譜面とにらめっこしていた。
私はジュースの差し入れを持って行った。
「さすがチカちゃん、気が利くー!」
メンバーは口々にそういうと、スポーツドリンクを口にした。
ユウは悩んでいた。歌の歌詞があまりにリアル過ぎてよくないんじゃないかと、しきりに悩んでいた。私が聞く分には全くおかしいところはないのだけど、納得いかないらしい。
こういうところがアーティストなんだな、と感心しながら練習の様子を伺った。
帰り道に、ユウから
「やっぱ、俺才能ないわ……」
という弱気な発言をされた。
「そんなことないよ!さっきの歌詞だってすごくよかったよ?」
と返すと、
「あれじゃインパクトが足りないんだ!!」
とマジ泣きされてしまった。
私は困ったが、とりあえず
「わかった、一緒に考えるから」
なんて適当な返事をしてしまった。
「いや、いい。自力でなんとかしないと意味ないし」
いつの間にか泣き止んでいたユウはまっすぐ前を向いていた。
私はその横顔を、ちょっと誇らしく思った。
翌々日のことだった。
ユウが走って教室にやってきた。
「チカ、できた!」
と大声で私を呼び、抱き締めてきた。
「どうしたの?」
「歌詞さ!歌詞できた!」
あぁ、と私は一昨日のことを思い出す。
あんなに泣きかぶっていたのに、単純なものだ。
私は
「どれどれ?お姉さんに見せてごらん?」
と歌詞カードを覗きこんだ。
前とあまり変わってない気はするけど……本人が変えたというのだからかわったのだろう。
ただ、そこには偽りのないユウの気持ちがたくさん綴ってあった。
ちょっぴり感動した。
帰り道、久しぶりにクレープ屋に寄った。
私は生チョコバナナを頼み、ユウはツナサンドを頼んだ。半分こしながら、聞いた。
「いつも、歌詞ってどうやって作ってるの?」
「うーん、まず曲を聞いて、そこからイメージして……」
「イメージが湧くのっていつ?」
「授業中」
私は頭に空手チョップを喰らわせた。
「あと……風呂入ってるときとか寝る前とか」
「寝る前ってことは私とメールしてる最中?」
「うん」
私はデコピンを喰らわせた。
「ふうん、そうやって作ってるんだ」
「まあね。あとはいいフレーズがあればメモしといて別の曲で使ったり」
「ユウは作曲はしないの?」
「俺、アコースティックギターくらいしかできないからさ、こないだ歌ったみたいな弾き語りしかできないんだ」
あぁ、あのバラードね。
「あの曲はユウが作ったんだ?」
「おう、俺だってやるときゃやるのよ?」
「愛してる〜ってやつね」
「バカ、今言うな!はずかしいだろ!」
私はペロッと舌を出してみせた。
「テヘペロじゃねーよ!全く……お前は男心の理解がなさすぎ!」
よほどはずかしかったらしい。そんなにはずかしいなら歌わなきゃいいのに。
こんなところが男心を理解してないってことだろう。
――――そして最後まで理解できなかったよ。