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息が白く弾む。
川沿いの道を、私を乗せてユウは進んでいく。
毎朝同じ風景。
これがずっと続くと思っていた――
学校について、洋子の席へ向かう。
まだ少しだけ、男子は苦手だ。
病院には変わらず通院している。ただ、前と違って、一月に一回の通院になっていた。
お薬も頓服くらいになっていたし、その頓服もあまりが出て、病院からはお薬を出されない月もあった。
正月は楽しかった。
初めてカウントダウンを家族以外の人と過ごした。
ライブハウスで、ユウたちのバンドのライブがあったのだ。
洋子と誘い合わせて、私はライブに向かった。
外は手がキンキンするほどに寒かったのに、ライブハウスではTシャツ一枚でも暑いくらい、熱気があった。
ユウたちの出番はラストのカウントダウン。
それまでジュースを飲んだりして待っていた。
他のバンドの演奏も聞いていたが、あの、文化祭で感じたような熱い想いはなかった。
自分達に関係ない人たちが演奏しているからかもしれないが、圧倒的にユウたちのバンドのほうがうまかった気がした。贔屓目もあるかもしれないから、一概には言えないんだけど、ユウのバンドには迫力があった。
ただ、ユウたちの一つ前のバンドだけは違っていた。バンド名まではわからなかったが、パンク系のバンドで、シャウトの連続だったが、込み上げてくるものがあった。
熱い。身体が火照る。横にいた洋子にそっと話しかける。
「このバンド、いいよね!」
うんうん、と返す洋子はやっぱり趣味も似ていて親友ってことを強く感じた。
そんなシャウト系バンドだったが、ラストの曲はバラードだった。
「この人、こんな声も出るんだ」
と思わず言ってしまうほど甘く低い歌声だった。
私はその歌声にうっとりとした。
他の女の子たちもみんなうっとりしている。
そんな声が出せるんだ、と私はしきりに感心した。
少し間があいて、いよいよユウたちのバンドの番がやって来た。
文化祭で聞いたのとは全く別の曲だったが、これも熱い曲だった。
ライブハウスの中は、一気にヒートアップした。
音、音、音。音の洪水。
低く高く歌い上げるユウの歌声に合わせてノる人、人、人。
ユウの高くきれいなファルセットにうっとりする女の子たち。
かと思えば、ドラムが炸裂する曲もあった。
会場が一体化する瞬間。
ぞわっと毛穴が全部開くような、鳥肌がたつ瞬間だ。
曲が終わり、MCが入る。
いよいよカウントダウンだ。
5!会場が震え出す。
4!ユウが熱い声で煽る
3!会場中の熱気がひとかたまりになる。
2!数える声が一つになる。
1!張り裂けんばかりの想い!
0で新しいリズムが刻まれる。
「ありがとう!!愛してるぜ!!お前ら!」
そして新しい曲が始まった。
ライブが終わってからも私は放心状態で、ユウたちが出てくるのを待った。
裏口にはファンの子たち――いわゆる出待ちの子たちもいて、賑わっていた。
ユウたちが出てくる。女の子たちは一斉にユウたちに駆け寄る。
ユウは丁寧に、一人ずつにありがとうと言って握手をしていた。
そして私に気づくと走ってやって来た。
そしてファンの子たちに向かって、
「俺の彼女。チカっていうんだ。よろしくな!」
そんなことファンの子に言ったらダメだよ……
と思っていたら、ファンの子たちから、
「おめでとう!これからもよろしくね!」
と声をかけられ、おっかなびっくり返事をした。
「ふつつかものでございますが、よろしくお願いいたします!」
ファンの子たちから拍手をもらった。
帰り道、洋子をまず送って帰り、二人きりの時間になった。
なんだか、気恥ずかしくて黙っていると、ユウが一言聞いてきた。
「チカ……キス……してもいいか?」
私はうん、と答えた。
レイプ事件以来、そういうことは私たちの間で暗黙の了解事項になっていて、手すら握ったことがなかった私には大きな一歩だった。
私は目を閉じてその瞬間を待った。
ふわっとユウの香りがして、やわらかな、優しいキスをしてくれた。
大好きだったよ、ユウ――




