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三時半になり、ユウのバンドの演奏が始まった。バリバリのロックである。
ユウがジャンプする度に体育館が揺れた。
シャウトする度に空気が震えた。
こんなのは初めてだった。
音と一体化する空間。
具現化する想い。
なにもかもが熱かった。
ステージで歌うユウを見るのは初めてだった。
去年はお団子屋さんの当番があってステージはほとんど見れなかったので、これほどまでに熱狂するとは思っていなかったのだ。
ギターの音が冴える。
ドラムがビートを刻む。
そんな中で歌っているのが自分の彼氏だなんて信じられなかった。
男女入り交じってコールする。
不思議と男子を怖いとは思わなかった。
ユウが頭をあげる度に汗が宝石みたいに散らばる。
心に刻むメロディ。切な気な歌詞と共に私の心に響いてくる歌声。
なにもかもが凄かった。
最後の最後に、
「愛するチカのために、このバラードを捧げます」
と言って歌い出した。
私は感極まって涙が溢れた。
号泣した。
「愛してる」
と何度も歌のなかで切な気な声で歌うユウ。
気絶しそうなほど感動した。
この歌は私のための歌――
私の心に刻まれた、恋歌。
『愛してる、それだけじゃ足りないこの気持ち』
私もだよ、ユウ。
ずっとこの想いが続いていくといいのに……
『愛してる。ちゃんときみに届いてる?』
充分に届いてるよ。
『愛してる、永久に……』
私も愛してる……
バンドの演奏が終わって、控え室である教室に洋子と二人で行った。
まだ肩で息をしているユウにタオルを差し出した。
「サンキューな。俺の歌、ちゃんときいてくれた?」
「もちろん!」
なんでとりまきがいるのか、充分実感しましたよ。
「バラード、先週やっと出来上がったばかりだったから、ちゃんと歌えたか、ちょっと心配」
「ううん、すっごくよかったよ」
「あれ?チカ泣いた?」
「ちょっとね……感涙ってやつかな」
「それならよかった。って俺が泣かせたんか!ダメダメじゃん、俺」
バンド仲間にも笑いが広がる。
そして四時半、文化祭は終了した。
後片付けもみんなでした。男子もいたけど、もう平気だ。私にはユウがいる。
後片付けが終わったら打ち上げだった。
私はクラスの打ち上げに少しだけ顔を出すと、ユウの元へ向かった。
ユウはバンド仲間と打ち上げ中だった。
バンド仲間にも快く交えてもらって、ジュースで乾杯をした。
私は興奮覚めやらず、バンドの音楽がどんなによかったか、凄かったかを語ってきかせた。
メンバーもニコニコしてそれを聞いてくれた。
金髪に赤い髪に、と派手な印象だったが、みんな音楽に対しての姿勢はきちんとしていた。
なんと言っても凄かったのはユウの歌声である。
彼氏という贔屓目を差し引いてもおつりがどん、とくるほど素晴らしいものだった。
カラオケで何回か聞いたことはある歌声だったが、それとはまるで違う、透き通るような歌声に力強いシャウトが混ざっていて不思議な感じだった。
ユウたちは、このバンドでデビューしたいそうで、来月オーディションがあると言っていた。
私が審査員なら間違いなく十点満点なのだが、音楽の世界は厳しいらしい。
一応ビジュアル系バンドとしているが、メイクもほとんどなし、衣装もレザーなどで固めていて、ロック街道をまっしぐらだった。
――私にはあの歌が全てだった。ユウの歌声をいつまでもきいていたかったよ――
紅葉も散り、銀杏も色づき、季節は冬になっていった。
ユウのバンドのオーディションは……二次審査でだめだった。
でも、一次審査が通ったことで、次の目標が出来たようだった。