01
――私は
――――私は忘れないよ。
あの頃のこと、忘れない。
四月がきて、私は高校二年になった。
友達は口を揃えて恋の話をしていたが、私は私だけにはそんな話、関係ないと思っていた。
ある日、仲のいい友達を探して、二年生の棟をうろうろしていたところを運悪く不良の集団に捕まってしまった。
そんなとき、ユウに助け出された。
ユウ。ユウも充分金髪でピアスをいくつも開けていて、ちょっと怖かった。けど、
「お前ら女一人に寄ってたかって見苦りぃんだよ!」
と追い払ってくれた。
ただそれだけ。名前も聞けなかったし、何年生かもわからなかった。
ただ、その金髪が印象的で、綺麗だな、と思った。
ある日、クラスメイトに、メモを渡された。
ノートの切れ端にメアドだけ書いてある。
休み時間にそのクラスメイトに尋ねたが、誰から回ってきたかわからない、と言われた。
仕方なく私はそのメアドにメールして、誰だか突き止めようと思った。
すると、恵美子がやってきて、
「このアドレスどうしたの?」
と聞いてきた。
「わからないの。授業中に回ってきて」
「このアドレスって、ユウのアドレスじゃない!抜け駆け?」
「えっ……」
「信じらんない!チカが抜け駆けだってよ!」
と教室に響き渡るほどの大きな声で言った。
クラス中は水をうったように静まり返り、一瞬の沈黙ができた。
次に来たのは女子の波。
「ちょっと、なんであんたがユウのメアド教えてもらってるわけ?」
「どうやって媚びうったの?」
クラスの女子のほとんどから非難、中傷を浴びせられた。
「それ、ユウくんから頼まれました……」
いかにも生真面目な洋子が恐る恐る言う。
火にガソリンを撒いたような勢いで女子陣がわーわー言う。
「私はユウくんって誰か知らないし、誤解です!」
叫んでもその声は届かなかった。
とにかく、恐ろしい何かに巻き込まれたのは事実で、この日から私はいじめにあうことになった。
廊下を歩けば誰かに足をかけられてつまづいたり、トイレに閉じ込められたり。
これはまだ序の口だった。
教科書を開けると、教科書いっぱいに落書きがされていたり、体操着をめちゃくちゃにされたりしていた。
昼休みも、今まで一緒に食べていた面子が総スカンでいなくなってしまい、唯一、洋子だけがそばにいてくれた。
いじめはそれだけではおわらなかった。
上履きに石がつめられていたり、机の上じゅう落書きされていたりした。
洋子だけが頼りだった。
紙切れのアドレスはとっくのとうに捨てられていて、ユウくんとやらに相談したくてもわからなかった。
洋子ちゃんも、ユウくんは学校に来たり来なかったりするから、ね、と慰められていた。
今日もいつも通り私はいじめられていた。トイレに入ったところを上から水を被せられた。
私は体育用のタオルで髪を拭き取り、落書きされた体操着に着替えた。
そんなとき、ガラッと前のドアが開いて、この前の金髪くんが顔を出した。
金髪くんは私の目の前に来て言った。
「お前、その格好どうしたん?」
「いや、ちょっと、濡れて……」
「メアド、なんでくれないの?」
「えっ?」
「こないだメアド教えたじゃん」
「あぁ、あれは……」
クラス中の女子の視線が痛い。
「あれは、なくしちゃって……」
「ちっ」
ユウが舌打ちして言った。
「じゃあ今教える。携帯、出せよ」
と言われて携帯を差し出すと、ユウは怒り始めた。
携帯にも落書きが散々してあったからである。
「ちょっと、これやった奴、誰だよ!?体操着も!!」
クラス中沈黙している。
ユウはクラスの一女子の胸ぐらを掴むと持ち上げた。
「ちょっとやめて!!やめてよユウくん!!」
場は騒然となる。
泣き出した私は懸命にユウを止めるのであった。