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Over Died Online   作者: 夢見屋
Story1 シンフォニア編
8/9

Data.7

一年ぶりの投稿、本当にごめんなさいです。


 

 朝。日が昇り、宿の窓から日差しが差し込み、ベッドで寝ていた男の顔を照らす。それと同時に彼の頭にはアラームが鳴り響いた。


「んー。・・・はあ、今日で68日目、か」


 ベッドから立ち上がり、自身の服装を整えるとまだベッドに丸まって寝ていた狐をひょいと拾い上げ、眠たそうな瞼をなんとか持ち上げながら部屋を後にした。


―――――――――――――――――――


「おはようございます。よく眠れましたか?」

「ああ、おはよ。ぐっすり眠らせてもらいましたよ」

「それは良かったです」


 階段を降りるとカウンターにいた女性が話しかけて来る。こちらの会話に対して感情豊かに返答してくれる姿を見る限り、やっぱりNPCには見えない。改めてこのゲームに使用しているAIのクオリティの高さがうかがえるな。


「ところで、宿泊は延長されますか?今日で前回の一週間延長が経ちますが」

「いや、延長はいいや。ありがとな」

「いえいえ。今日も頑張ってください」

「ああ。そんじゃあな」


 宿を出て祠に向かう。


 今日の時点でデスゲームが始まって約二ヶ月が経った。結局俺は戻る戻ると言いながら表に戻ることなく二ヶ月、シンフォニア内を探索しまくっていた。スキルレベルをひたすら上げて今では所持してるスキルはほとんど10に達している。プレイヤーレベルの方はまだモンスターを一体も倒したことが無いにも関わらず900越え。これって宝の持ち腐れじゃないだろうか。


 宿を出ればもう見慣れた大通り。朝とはいえ通る人が多いし開いてる店も結構ある。そしてみんな狐耳だ。


「おお。ツクヨ殿。久しいな」

「おう、狐老。久しいって一ヶ月しか経ってないけどな」


 いつも通り祠の前で薙刀を片手で振り回してるのは貫録ある顔なのに体は筋肉がしっかりついてるとても爺だとは思えない爺さんの狐老。表情は無愛想なんだけど…コイツめっちゃヘタレだ。

 あの決闘の後でこいつの家に招待してもらったんだが、この老いぼれ狐、奥さんにめっちゃ弱い。奥さんの話では昔からこんなんでずっと尻に敷かれてきたんだと。意外だな。


「それで、ここに来たということは、そういうことか?」

「ああ。今日で向こうに戻ろうと思う。まあ、またちょくちょく来るとは思うが…」


 俺にとってはここが拠点だしな。何よりシンフォニアは四季の移り変わりが早い。当初、ここに迷い込んだ時は桜だった巨木が今じゃ真っ赤な紅葉の秋バージョンに変わってる。ここにいると非常に落ち着くのだ。癒しみたいなものだな。


「そうか…。達者でな。だが、ツクヨ殿はレベルが相当高いだろう?正直言えば向こうの者たちなんて塵同然だと思うのだが。そこはどうするのだ」


 狐老が言ってることはよくわかる。今の俺のレベル上、下手に動いて悪目立ちするのも得策とは言えない。なにしろ陰陽師だ。どんなありもしない噂や罵倒が飛んでくるかわかったもんじゃない。


「そこら辺はなんとかしてでも隠し通すさ。でなきゃゼッテー面倒くさいことしか待ってないだろうしな」

「フハハ。そうか。なら心配はないだろうな。ああ、それとこれを持っていけ」

「?これは・・・」


手渡されたのは手鏡だ。裏は朱色と黄土色で狐火が描かれている少し大きな鏡。


「『狐月の手鏡』だ。わざわざ湖からこちらに来るのも面倒だろう?」

「ああ。そういうことか」


 ○狐月の手鏡 ※特殊※ 

シンフォニアを行き来する為の道具。

   ≪適合者≫以外は所持・使用不可。

   破壊不能アイテム。


 アイテムステータスの表示を読んで納得。シンフォニアとの行き来がこれで楽になるな。しかし、破壊不能アイテム、ってことは普通じゃ手に入れられないってことか。

 破壊不能アイテムは別名、設定調整器具、システムセッティングアイテム。通称SSIと呼ばれている。ようは運営などがゲームシステムを調整する為のアイテムで一プレイヤーが手に入れられるような代物じゃない。それに名称の横に特殊と表示されてるから通常エリアではないシンフォニアが関係しているのだろう。

 まあ、これは俺にしか使えないようだから他のプレイヤーに悪用されることもないだろう。


「ありがとな。それじゃ、そろそろ行くか。世話になったな」

「ああ。ツクヨ殿。九尾様を頼むぞ。それと、次は雪見酒でもしようか?」

「雪見酒、ね。そうだな。それまでにいい酒用意してくれよ」


狐老に背を向けて祠に手を掛ける。あとは向こうに飛ぶよう念じれば転移する。

足元が徐々に光り出して俺を包み始める。次第に光は強くなり周りの背景も朧気になっていく。


「じゃあ、またな」

「うむ」


それを最後に俺の視界は真っ白になった。


―――――――――――――――――――――

視点変更:巫女の少女


「ハァ、フゥ……ハァ」


 私は走る。後ろから迫ってくるトレントの蔓を回避しながらただ走るしかない。札は持っているが使い方は分からないし、持っている近接武器は薙刀。巫女の初期武器だけど巫女は元々物理攻撃特化ではないからさほど大きな威力はない。

 巫女・・・。ゲームのシステム上は不遇職とされる職業。他の職業と比べても一番私の目に着いた職業でただ興味本位で選んだ職業だった。それが、まさかこんなことになるとは思わなかった。巫女だからという理由でどのチームも、誰も私と組んでくれなかった。


後ろから蔓が鞭のように迫ってくる。体を回転して回避し、薙刀で蔓を切り落とす。


「ハアッ!」

「ギュケガアア!!!!」

「っ!?」


しかし、右からさらにもう一本の蔓が延びてきて足に巻きつける。そのまま高く持ち上げられ、勢いよく地面に叩き付けられる。


「カハッ!?」


 今のでHPが二割も減った。頑張っても所詮初期ステータス。それに加えての不遇職。防御はもともと芳しくない。


「フゥ、フゥ・・・っ!これ、は!?」


 体が思うように動かない。視界の端には【麻痺】が表示されてる。


「誰、か・・・」


 レッドゾーンに入ったHPは私の死が迫っていることを表すように点滅している。


 やだ・・・死にたくない・・・・誰か・・助けて・・・。



 ヒュオッ



 不意に、なにかが、通った。


 ズパアアアン!!!

 その音が聞こえた時には、トレントは粉々に切り裂かれていた。チリチリと散っていくトレントの木片が視界に入る。そして、トレントの居た場所にたたずむ一人の人物に目が移る。


「・・・・・・・・・」


 袴。落ち着いた色の和服を纏い、背中に二刀を携え、肩に狐を乗せている男の人。

 何より印象的なのは、その横顔。これでもか、と整った顔立ちに白い肌。長身で少し長めに伸びている綺麗な黒髪。釣り目だけどキツい印象を与えず、むしろ優しい印象を与える。凛とした表情がまた一層にその顔を際立たせている。


 彼がこちらに振り向くと目の前で膝をつく。と、急に浮遊感。


「ふ、ふわぁ!」

「ん。大丈夫か?」

「ふぁ、ふぁい・・・だいひょうぶれす」


 顔が火照って上手く口が回らない。初めてされたお姫様だっこに一人でドギマギするけど彼は全く恥ずかしくなさそうだ。

 

「あ、あの・・・」

「なに?」

「助けてくれてありがとうございます・・」

「気にすんな。通りかかっただけだ」


 モゴモゴとお礼を言うと彼は表情を緩めて微笑んだ。


―――――――――――――――――――――――――

視点変更:ツクヨ


 表側に転送された直後に少女が近くで襲われてた。まさかいきなりこんなテンプレイベントが発生するとは・・・。腕の中に納まっている少女は俺の顔を見たまま真っ赤にしている。・・・俺の顔、なんか変なんだろうか?


それよりも、この子のレベル・・・デスゲーム開始時から二ヶ月経っているのに異様に低くないか?まあ、大方予想はつくんだが。

現時点でレベルが低い人は攻略に参加せず、街に籠りきりのプレイヤーか、生産職の錬金術師くらいだ。

彼女はどちらにも当てはまらないだろうが。だって装備が巫女の初期装備、巫女装束だからな。


あ、ちなみにこの装備が巫女と陰陽師の不遇理由の一つだ。


 巫女と陰陽師は装備に制限が掛けられている。それは「布装備以外を装備するとステータスを二分の一にする」だ。戦闘職にしろ生産職にしろステータス半減の制限を持つこのジョブはまあ不遇職に感じるだろう。

布装備より鉄装備などの方が当たり前に防御力があるのに着ければ逆に能力値低下。

高性能の布装備はおおよそフィールドの後半、それも《神遺(レジェンド)級》以上のものしか存在しない。

そのためにはレベルと実力が必要だが、中途半端職のためレベルが上げにくい。

結局装備などでステータスを底上げするしかない……と同じことのスパイラル。


 効率の悪さ、そしてデスゲームとなった今では最前線に出た場合、最も生存率が低いであろうステータス配分の中途半端さ、その上でデメリットな制限。

陰陽師を選んで俺も結構後悔した。まあ、もうなってしまったものは仕方がないと割り切ったが。


 少女は相も変わらず顔を真っ赤にしている。


「えーと、そろそろ大丈夫か?」

「は、はい!大丈夫です!」


 ブンブンと首を縦に凄い勢いで振る少女を降ろす。少し落ち着いたらしく、顔の赤みは若干引いていた。


「君の名前は…」

「あ、はい!『ミズハ』です!職業(ジョブ)は…巫女です……」


 最後が尻すぼみになった。やっぱり巫女選んだことに後悔してるんだな。


「俺は『ツクヨ』だ。職業(ジョブ)は見ての通り陰陽師だ。で、肩のこの子は『タマモ』」

「キュッ」


 タマモの頭を撫でると嬉しそうに喉を鳴らす。ミズハの目線はタマモの尻尾に行く。


「九本…ですか」

「ん?ああ、この子は九尾だよ」


ユラユラと揺れる尻尾にあわせてミズハの視線も右へ左へユラユラする。


「この子は俺のパートナーだよ」

「えっ、もうパートナーを持ってるんですか?!しかも、九尾ですか!!」


凄い食い付きだ。そんなに驚くことか?


「パートナーってそんなに珍しいのか?」

「知らないんですか?」


驚いた顔でこちらを見る。何を?


「モンスターとのパートナー契約はテイマーに比べて成功率があり得ないレベルで低いんです。スライムとかゴブリンとか、そのレベルのモンスターなら案外簡単に成功しますが少しレア度か上がっただけで全く成功しなくなったんです」

「それは友好度を上げればいいだろ?」

「ええ。勿論そうなのですが、その友好度をあげるのが非常に難しいんです。そもそもステータスのMFPがテイマー以外のジョブはからっきしですので。巫女は比較的高めな方なんですが、私はレベルが低いので成功しないんです」


そうか。そういえばMFPモンスターフレンドリーポイントとかいう値があったっけ。高ければ高いほどMOBが友好的になるんだったか?


たけど、そう考えるとタマモの場合は少し違うんじゃないか?パートナー契約をしたのはレベルが1の時だった筈だが……。そのときはタマモが傷ついてたから、もしかしたら何らかの刷り込みか何かかもな。それにシンフォニアの聖獣たちはこちらから敵対しないかぎりアクティブ状態にならないようになってたな。


「それで、ツクヨさんはどうやってレベルを上げたんですか?さっきの攻撃力から察するに相当強い方だと思うんですが」


ミズハが疑問に満ちた目で俺を見つめてくる。ステータスに関してはシンフォニアのことを話さなきゃならないんだがどうしたものか。


そんな風に思い悩んだ直後、ミズハから「グ~」と大音量で自己主張の激しい腹の虫が鳴いた。途端に顔を真っ赤にさせ俯いてしまったミズハに苦笑しながら頬を掻いた。


「とりあえず、ご飯、食べに行こうか」


なんともジャストタイミングな腹の虫である。


≪Name≫ツクヨ ≪Job≫陰陽師 Lv.968


HP:94100 MP:114800 SP:149000


ATK:10200 DFE:8510

MAT:9830 MDF:10090

SPD:15800 TKN:11000[10900(+200)]

HIT:9780 LUK:10010

MFP:11400 RVL:8490

Skill:≪符術≫≪二刀流≫≪歩術≫New!≪隠行≫New!≪王者の風格≫New!≪総合武術≫New!≪?????≫

Title:≪唯一を歩む者≫≪適合者≫≪器用者≫≪聖獣に認められし者≫

    ≪聖獣の繋がり≫≪駆け上る者≫≪九尾の主≫≪強運≫≪共有者≫


Equipment:『三流陰陽師の羽織袴』『三流陰陽師の袴』『天歩の雪駄』

Weapon:『霊獄刀「黄泉桜」』『怨妃妖「狐貂」』『ただの札×3000』『結界符×200』『回復符×400』『属符×1000(各属性×200)』



≪Name≫ミズハ ≪Job≫巫女 Lv.18


HP:420 MP:610 SP:800


ATK:350 DFE:580

MAT:500 MDF:660

SPD:810 TKN:240

HIT:570 LUK:280

MFP:890 RVL:730

Skill:≪符術≫≪槍術≫≪ステップ≫≪隠密≫≪自然回復≫≪体術≫  

Title:≪唯一を歩む者≫


Equipment:『三流巫女の白衣(しらぎぬ)』『三流巫女の緋袴』『普通の襦袢』『ただの雪駄』『水引』

Weapon:『薙刀(初心者用)』『ただの札×200』




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