Data.2
視界の開いた先は巨大な広場だった。中央に噴水とその下に石碑がひっそりと設置されている。周囲にはプレイヤーが溜まっており、ガヤガヤとしていた。感じられる熱気がやけにリアルだ。こう言ったところまで再現できると思うと、VR機とこのゲームはすごいな、と改めて思う。
あたりのプレイヤーを見渡すが、誰一人として陰陽師がいない。初期装備である袴を着ているのは俺だけであり、他はファンタジーあるあるな皮の装備やローブなどが多い。それは巫女も同じで誰一人としていなかった。
こりゃあ選択間違ったか?中途半端職なのは知っているがまさかここまでとは思わなかったぞ……。少しは他にもいると思ったがやはり見渡しても誰もいない。それどころか俺は一人だけ恰好が格好だから浮いていた。周囲の目線が若干痛い。なんと言うかこの、可哀想な目で見てくるあたりとか凄いイラッってくるんだが。
しばらくしてあたりが騒がしくなってくると空中に巨大なモニターが現れた。プレイヤーたちは一斉にそちらを向き、モニターを見る。画面には二十代後半らしき男性が写っていた。
『プレイヤーの諸君、まずはこのゲームを始めてくれたことを感謝する。そして、私のことをよく聞きたまえ。現在を持ってこのゲームはログアウトが不可能となった。これはこちら運営が故意にやらせてもらった』
周囲がざわつく。あわててメニューを開くが確かにログアウトボタンが無い。
少しヤバいことになってきたか?
『この世界は現実世界より時間経過が早い。こちらでの一ヶ月は外での一日だ。こちらの時間経過を≪加速≫させてもらった』
プレイヤーたちからは怒号、悲寒などが起こるがモニターの男はスルーして話を続ける。
『最後に一つ。この世界での死は現実での死に等しい。君たちがこちらで死ねばヘッドギアの脳波計測装置が人間が耐えられる五倍の脳波を送って脳を破壊する』
完全に静寂。冗談半分で笑っていた奴も黙りこみ、顔を引きつらせる。皆モニターを凝視している。流石に現実味がない。こちらでの死亡が現実の死?ウソだろ。全然実感が湧かねえよ。
『この世界から脱したければ最下層のアイテムを入手し、この広場に存在する石碑にはめることでクリアとなる。やるかやらないかは君たち次第だが、私は別に君たちがどうなろうと知ったことではない。リスクを追ってクリアしに行くのも、セーフティータウンに引き籠って誰かがやってくれるのを待つのも君たちが決めることだ』
微笑しながら淡々と吐き続ける。その表情は本気でどうでもよさそうな表情だ。
『ああ、それとこの世界で生きていくなら陰陽師と巫女は諦めた方がいい。正直言えばその職業は中途半端職どころか不遇職、地雷職に等しいからな。使い勝手が悪かったり性能も中途半端で上手くやれるものではないぞ』
は?え、ちょ、なんだよそれ。陰陽師と巫女がそこまでひどいとは思わなかったぞ。生きることをあきらめた方がいいとか、いくらなんでも酷過ぎないか。
周りは俺を憐れみと蔑みの目線で見てくる。そんな目で見られても……。
『そして設定変更としてPKも可能とした。信頼する相手をよく考えて仲間にすることだな』
プレイヤーキリング。相手のアイテムや経験値を強奪するために他のプレイヤーを殺す行為。ウソだろ。それもアリなのかよ……。
『さて、ここは一番上の層だ。第一層はこの街の最北部の高台に入口があるぞ。頑張ってくれたまえ』
そう言ってモニターは消えていった。そして、俺の耳だけに軽やかな電子音が響いた。
≪パッジヴ≪唯一を歩む者≫≪適合者≫を入手しました≫
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Name≪ツクヨ≫ Job≪陰陽師≫ Lv.1
HP:300 MP:250 SP:400
ATK:105 DFE:120
MAT:330 MDF:115
SPD:300 TKN:140
HIT:100 LUK:160
MFP:300 RVL:110
Skill:
Title:≪唯一を歩む者≫≪適合者≫
Equipment:『三流陰陽師の羽織袴』『三流陰陽師の袴』『雪駄』
Weapon:『普通の太刀』『ただの札×200』