春冬
君、なんて名前なの?
君こそ、なんて名前なの?
なぜ一人でいるの?
君こそ、なぜ一人でいるの?
───今ならわかる。なぜかって?
1
冷たい風が、頬を叩く。
首に巻いたマフラーと、手を覆う、ピンクの手袋。
「はッ、くしゅん!」
春なのに、風邪を引くほど、今日は寒い。
「あー、もー・・・」
吐き出すため息は、白く染められて───
「ウチも、恋がしたい!!!」
「手を繫いで、そのままポッケに入れて欲しい。後ろから抱きしめられて温められたい。甘い言葉を耳元で囁かれたい。心の中から温められたいいいいいい!!!」
ウチの一番近くにいてくれるのは君だけだよ、鉄次郎・・・(自転車)
心の中でそう思いつつ、ウチは自転車のハンドルを撫でる。
虚しい。
実に虚しい。
いや、悲しいが正解か?
まぁこの際どっちでもいい。
今は、学校に向かって一生懸命自転車を漕ぐだけ。
下り坂。
足を離しても、自転車は進む。
その姿は、ジェットコースターを思い出させるような・・・
「ジェットコースターみたいな恋がしたいな・・・勢いがあって、楽しくて・・・それでそれで、」
「知ってるか?」
「はィ!」
しまった。声が裏返った。
・・・・・・・・・・うん?
「誰!?」
背中の方から、男の子の声が聞こえたような、聞こえなかったような・・・。
ウチは自転車を止め、恐る恐る振り返る。
そこにいたのは───
「ジェットコースターって、元の高さには戻れないんだぜ?」
───ウチに微笑む(失笑をもらす、とも言う)、一人の見知らぬ少年。
「面白い子だね」
死んだ。
2
やはり、建物の中は暖かい。
氷河期が過ぎた世界のように、暖かい。
暖かくて、幸せで。
でも───
「あっはっはっは!!何だそれ!はっはっはっは!!!」
「ええいうるさいうるさい!」
「だって、鉄次郎って、鉄次郎って!」
「しかもウケてたのそこなの!?」
───でも、奴の心のは、寒冷前線そのものだ。
ウチの名前は、望。
昔はよく、「望遠鏡」って呼ばれてた。
ただいま絶賛机突っ伏し中。
まぁ、そんなことはどうでもいいのだ。
問題は、この、ウチの目の前でバカ笑いする、茶髪の生徒。
その名も、輝久。
普段はすごくいい奴なのに、恋愛絡みだと、途端にいじわるになる。
「で、その後どうしたって?」
輝久は、目に溜まった涙を拭い、再びウチに問いかけてくる。
ウチはいやいや、
「・・・・全力で逃げた」
と答える。
と、
「だっせえええ!超だっせえええ!」
「笑わないでよもう!」
ガタンと椅子から立ち上がり、輝久に抗議。
ええい、好き勝手言いやがって。
しばいてやる、覚悟───
「おはよー」
「お、よかった、助かった。おはよー海」
と、輝久はウチの机から離れ、トコトコと教室に入ってきた女の子、海の元に逃げていった。
そして、あろうことか、あろうことか・・・!
楽しく話しだした。
・・・・・・・・・・。
リア充なんて、爆発してしまえ。
あのバカップル(輝久&海)を含めた、全リア充どもなんか。
3
「はーい、全員席につけー」
ガラッと、教室の前の扉が開く。
この適当な口調、担任の先生だ。
ふと前を見やると、輝久と海が慌てて席についているのが見える。
ふん、イチャイチャしてるから咄嗟に動けないんだぞ。
と、ウチは心の中で負け犬の遠吠え。
「えーとねぇ。今日は、嬉しいことがありますねー」
と、担任が切り出す。
嬉しいこと?
「はい、じゃあ吉井君、入ってー」
・・・・へ?
「どうも!吉井寛生です!」
・・・・・・・・・・。
うっそぉ。
「うんとぉ、彼は隣の学校から───」
アリエナイ。
アリエナイアリエナイアリエナイ。
あいつは、
「じゃー席は・・・・松本の隣だな」
「わかりましたー」
あいつは確か───
彼は、すたすたと歩いてきて、ウチの、隣の席に・・・
「よろしくね、面白い人」
死んだ。
4
ところは変わって。
ここは道のど真ん中。
海と一緒に下校中。
輝久は茶髪を指導されている最中だ。
「災難だねー」
「もー、ホント。よりによって隣の席だよ?」
「まぁ、これも何かの縁だよ。仲良くしちゃえば?」
「絶対ムリ。死んでもムリ。世界が終わろうったって仲良くならない。てか、なりたくない」
「うわ、逆にあの人がかわいそー」
知ったことか。
絶対仲良くなるもんか。
いきなりでてきて、何が「面白い子だね」だ!
次に会ったらボコボコに───
「ねえ望ちゃん」
「ん?なぁに?」
「全部聞こえてるし。それに後ろ、ホラ」
「え!」
まさか!
「痛いのは、ちょっと嫌いかもね」
うわぁお・・・。
何でいつも後ろにいるんだ?この男は。
5
それからというものの寛生は。
「望ー、教科書見せてー」
「のーぞみちゃん。何の本読んでるのー?」
「望子君。明日は暇かね?」
はっきり言うと、うざい。
何かしらあると、必ずウチに話しかけてくる。
まぁ、イケメンだから悪い気はしないけど・・・
いや!
断じて違う!
奴はイケメンなどではない!
悪魔を宿した変な───
「望ー」
「なにー?」
しまった。つい笑顔。
パシャ!
「ねぇ、痛いか、苦しいか、痛苦しいか、選びなさい?」
「ずびばぜん」
盗撮とはいい度胸だ。
絞め殺してやる。
「おーおー、仲良くやってるねぇ」
あっ、輝久だ。
・・・・・・・・・・。
よく見ると、ウチの目の前には、寛生の顔が。
「きゃあ!」
思わず、とびすさる。
キ、キスするところだった・・・!
「輝、今の悲鳴、録音したか?」
「もちろん。聞くか?」
「さすが我が同志よ」
とにかく奴ら、死ねばいい。
6.5
この歌、知ってる?
なにこれ・・・難しい漢字・・・
「なないろのせんそう」って読むんだよ。
よく知ってるね。
───あの日のウチはまるで・・・
7
今日は、いつもより自由だ。
なぜって?
なぜなら───
「隣が休みだからさ!」
「望ちゃんうるさい」
しまった。海に叱られた。
そう。今日、どうやら寛生は休みらしいのだ。
どうせ、冬なのに、アイスばっかり食べててお腹を壊したのだろう。
ふっ、同情の余地も無い。
「寛生どうしたんだろーねー」
輝久がつまらなそうにぼやく。
「知らない、あんな奴」
と、ウチが言うと。
「えっ?」
輝久の目が丸くなった。
なに、なんかまずいことでも言った!?
「あ・・・そっか。やっぱり・・・」
今度は意味ありげに呟く。
「どうしたの?」
と、海が首を傾げる。
「ちょっと耳かしてみ?」
「うん」
・・・イチャついているようにしか見えない。
しかし、しばらくすると、
「えっ?」
と、これまた海も驚いた。
なんだろう。とっても気になる。
「ねぇ、なんの話してたの?」
「内緒」
「・・・」
悲しい。
「あ、そーだ、望」
「なぁに?」
「これ」
と言って輝久が取り出したのは、一枚の紙。
「これ、寛生の住所と、メルアド」
「はぁ?なんでそんな───」
「いいから」
輝久は、ウチに押し付けるかのように、その紙を渡してくる。
「必要ないし!」
そう言って、紙を丸め、投げようと・・・。
・・・できない。
(なんで?こんなの必要ないじゃん!)
自分の考えと、行動がばらばらに動く。
なんでなのかすら、理解できない。
「・・・行けば、思い出すんじゃね?」
再び、輝久の呟き。
行く?どこに?
寛生の、家にだ。
8
「やぁ、よくきてくれたね」
「う、うん」
来てしまった。
別に、言い訳するつもりもない。
ただ、来たのだ。
「まあ上がってよ」
「じ、じゃあお言葉に甘えて」
学校から直接来たので、ウチは制服のままだ。
ローファーを脱ぎ、足元で揃える。
「・・・・・変わってないなぁ」
「ん?何か言った?」
「いや、何も?」
寛生は、誤魔化すように、階段を上がって行く。
ウチは、どこに行けばいいかもわからず、とりあえず寛生についていく。
階段を登り切った先を、左折。
少し歩いて、辿り着いた扉の前。
「入って」
寛生が、その扉を開く。
「うわぁ!」
ウチの口からこぼれたのは、歓声。
大きなコンポ。
様々な楽器。
壁を埋め尽くす、数多のポスター。
そして、一番目についたのが───
「セカハジ?」
そう、大量のCD。
「世界の始まり」というグループのものだ。
「すごいでしょ」
寛生が自慢げに言う。
「ちっちゃい頃にハマってね。それ以来ずっとこうなんだ」
「へー・・・ウチも好きなんだ。セカハジ」
「・・・そりゃそうだ」
寛生は、苦笑する。
「そーいえば、望はなんで家に来たの?」
「あっ!そうだった!」
輝久から言われて仕方なく・・・
・・・違う。
違う。
なんだっけ。
「輝久から、行けって言われたでしょ」
「そうだけど・・・」
「俺、今日、サボり」
え?
「無断欠席!?」
「大正解」
寛生はどこか、楽しそうに笑う。
そして、一言。
「だって、望に来てもらいたかったから」
「ッ・・・!」
どうして。
どうしてこいつは、そんなことを平気で言えるのだろうか。
どうして・・・
「これ、見てよ」
そう言って、寛生は一枚の写真を取り出した。
写っているのは、幼い二人の子供。
男の子は、車椅子に乗り、女の子はその後ろに立っている。
二人とも、笑顔だ。
裏には、文字が書いてある。
『のんちゃんと、ひろくん nびょーいんで』
のんちゃん。
ウチの、ことだろうか。
「覚えてない?十年前の、あの事故」
「覚えて・・・る」
それは、ある晴れた日のことだった。
一人称が、まだ「あたし」だった頃だ。
ウチは、小学校に入りたてで、まだ友達もいなかった。
唯一と言っていい友達は、野球のボールとグローブ。
公園にあった、不思議な白い壁に向かって、毎日投げてた。
6歳なのに、自信が付いていた。
そして、ある日。
その事故は起きた。
ウチが投げたボールは、壁の角に当たって、運悪くも、道路へと転がって行った。
必死に追いかけて、道路に飛び出して・・・
そしたら、劈くような、ブレーキ音。
右から、車が来ていた。
もうダメだ。ここであたしは死ぬんだ。
不思議と、走馬灯は無かった。
次の瞬間。
見えたのは、ぐったりと倒れた、男の子。
背中に、鈍痛。
手に付着した、粘つく液体。
地面は、真っ赤だった。
そして、知った。
彼は、あたしを守ってくれたんだ───
「嬉しかったよ。毎日君がお見舞いに来てくれた。貸してくれたCD、暇さえあれば聴いてた」
「あの時の・・・ひろ君?」
「そうだよ」
ウチは、寛生の笑顔を、見ていられなくなった。
こんなにも一途に想っていてくれた人を、自分はなぜ忘れてしまったのだろう。
「ごめん・・・」
口をついて出たのは、謝罪。
でも、もうひとつ。
「ありがとう、ひろ君」
続く言葉は、必要無いだろう。
ウチの目から流れ出す透明な雫。
拭ってくれたのは───
「好きだよ、のんちゃん」
寛生の、優しい手だった。
9
ぬるい風が、頬を撫でる。
首に巻いた長いマフラーと、手を覆う、優しい温もり。
「はッ、くしゅん!」
3月も終わり、今日は4月1日。
俗に言う、エイプリルフール。
だが、いまだ花粉達の勢力は、拡大していく。
エイプリルフールすら関係なく。
「あー、もー・・・」
吐き出す言葉は、暴言へと───
「いい加減手をはなせ!!」
「えー、なんでー」
「恥ずかしいからに決まってんでしょ!?」
「俺ぜーんぜん恥ずかしくないしww」
「死に腐れ、変人」
楽しいのか、嬉しいのか、はたまた幸せなのか。
ウチの願いは、隣の変人によって叶えられ、
ただいま絶賛恋愛中。
「ちぇっ、仕方ね」
「それでいい」
「かわりに・・・」
「ええい!後ろから抱きつくな!」
素敵な恋じゃなくていい。
最高の愛じゃなくていい。
ただ、今はまだ、幸せな二人でいたい。
優しい温もりの中で、笑顔でいたい。
「のんちゃんのんちゃん」
「なに?」
「あのさ」
「うん?」
「大好き」
「/////////」
「かわいい」
「シネ///」
「エイプリルフールですね」
綺麗に咲いた、桜並木。
美しい桜吹雪の中。
───この温もり。絶対忘れないから・・・
ex.
「鵜沢」
「はい」
「鵜沢輝久」
「はい」
「一つ聞こうか」
「なんすか、せんせー」
「なぜお前の髪は、赤いんだ?」
「地毛っすね」
チャイムが鳴る。
「待て鵜沢あああ!!」
「誰が待つかああ!!」
「その地毛とやら、全部抜いてやる!!!」
「くっそ!氏ね!バカ教師!」
今日も、平和だ。
fin.
いかがだったでしょうか!
今回も頑張りました。
どうも、柚琉です!
やはり恋愛系はむつかしいですね!
書いてる途中痒くて痒くて・・・
自分が崩れる音がしました、ハイ。
久しぶりの短編なのに、しょっぱなからぶっ飛んでます。
これからも、柚琉の小説を、よろしくお願いします\(^o^)/
柚琉でした!




