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イミシュとちーちゃん  作者: 璃雨
ちーちゃんなイミシュ
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 俺とイミシュは中央図書館を出て、商店街へと街中を歩いた。またおかしなことを言い出したらどうしようっていう心配があったんだけど……的中しましたよ、えぇ。もうやだ何この子目隠しして歩きたい。


「イミシュ! 今赤信号だから渡ったらだめ!」


 交差点で信号を無視をして渡ろうとしたイミシュの袖を引っ張って止めた。


こっちはヒヤッとしたというのに


案の定イミシュはポカーンだ。


「何ゆえ」


「何ゆえって……今渡ったら車に引かれちゃうって。ホント洒落んなんないから気をつけて。青なら渡ってよしだからね」


 これじゃあ子供を持った親だよ。親の気苦労子知らずだよホント。


「ほう、理解した。この身体に傷がつくのだな」


「傷つくどころか明日さえも見えなくなるかもしれないよ……。あぁうぅ。ちーちゃんごめん、ちーちゃんの身体がボロボロになったらごめんよぉ」


 無駄かもしれないけどちーちゃんに謝罪した。


「祭」


「何?」


「こうすれば」


 イミシュは俺の右手を掴んで優しく握り、続けて


「我は祭に従う」


 と、手を繋ぎましたよと見せ付けてきた。


「ちょ、ちょっと」


 ちーちゃんの手、大きくて暖かいなぁ。


じゃなーくーて!! イミシュだ、今はイミシュだって。


でもなくーて!! 


「街中で手繋ぐのって変だからっ。男同士だし」


 俺は咄嗟にイミシュの手を振りほどいて、パーカーのポケットに手を突っ込んだ。


周りに人がいるんだから止めて欲しい。


「恥ずかしいのか」


「そ、そう!」


「恥など捨てればいいものを」


「恥を捨てたらみんなマッパで横断歩道渡っちゃうよ」


「……それは、捨てすぎではないか」


「うぐ……」


 イミシュに突っ込まれた。なんだよ、変なところで常識持っちゃってっ。


「青だよ! 行くよ!」


 やけくそになった俺はイミシュの手を掴んで青に変わったと同時に横断歩道を渡った。先行して誘導する俺の背後でクスリと笑った声が聞こえたけど、聞こえない振りだ。


「なんだ、恥ずかしくないのか」


「恥ずかしいけど仕方ないだろっ。イミシュが、あっちこっち行ったら困るし」


「そうか」


 感情を込めずにそう言ったイミシュ。人間味が無くなったようなちーちゃんにほんの少しだけ、違和感。


イミシュって人はよくわからない。わからないけど、ほっとけない。それがちーちゃんの身体だからっていうのもあるけれど。もしかして失感情症だったりして……。病人扱いしてるのは酷いけど精神的ストレスって知らず知らず内面を破壊していってるんだよね。昔の俺も、今のイミシュみたいに感情のない子供だったからわかる。


「祭、どうかしたのか」


 ひくりと握り締めたイミシュの手先が動いて俺の手を握り返した。はっとした俺はいつの間にか強く握り締めていたイミシュの手を緩めた。


「えっ。あ、ごめん。手痛かった?」


「いや」


「ごめんね、もうすぐつくから」


 ずいずいと人並みをかきわけて商店街の一角にある花屋へつくとイミシュの手を解いて路上に並べられた花を失礼にも指を指した。


「さぁ! 花だよイミシュ! 存分にみよっ!」


「……ふむ」


 甘い花の香りが鼻先をくすぐると、イミシュは少し嬉しそうに口元を緩めた。ひとつひとつの品種を確認するように手に取って花の頭の先から茎の下まで時間を掛けてじっくりと観察するイミシュ。


いいねぇー絵になるねー。題して「ちーちゃんと花」だなー。何の捻りもないそのまんまなタイトルだなー。まぁいっかな。あぁしまったなーデジカメ持ってこれば良かった! だってこんなちーちゃん滅多に見れないしね。 写メ取ろう写メ。


ピロリーンってシャッター音がなったらイミシュは薄紅色の花を持ってこっちを向いた。


おっ! 頂き! ベストショット! ちーちゃんにばれたら絶対消されるからフォルダに鍵掛けとこう。


「ちーちゃん、かっこいいなー」


「だよねー。俺もそう思うよー」


「ですよねー。そんじょそこらのタレントなんかよりもかっこいー……おおぅっ?!」


 目の前に現れた見知らぬ金髪チャラ男さんと自然に俺は会話をしていた。金髪イコールチャラ男っていうイメージもってごめんだけどね。メンズファッション雑誌から飛び出してきたような容姿に俺、ビックリなんですが。


「千尋をちーちゃんって呼んでるってことは、もしかして君が祭さん?」


「えっ。あ、はいそうですけど」


誰だ誰だ誰だーなんて曲が頭の中で流れた。


「あーやっぱりそっかー。千尋っぽい人がいたからさーもしかしてっと思ってねー。声掛けて正解だったなー。あぁ俺別に怪しい者じゃないから安心して。千尋とは高校が同じたったんだー」


不振な目で見ていたのが伝わってしまったのかチャラ男さんは顔の前で両手を上げた。


「高校時代によく君の話聞かされてたよー。一日一回は君の名前出すから、彼女なんだと思ってたんだけどなんだ男だったんだなぁ」


「は、はぁ」


 え、何々。ちーちゃん。俺の話ばっかりしてたの。すごい俺嬉しい。高校時代は連絡もそこそこだったし、俺もちーちゃんも別々の道行ってたからな。クラスでぼっちじゃないか心配したけどちーちゃんに友達がいて安心したよ。だって高校ときの話、全然してくれないんだもん。


「ごめんなさい、お名前伺ってもよろしいですか?」


「あぁ。俺は弘幸。田仲弘幸さー。ひーちゃんって呼んでくれてもいいよー」

 

 へらっと笑ってヒロユキさんは軽く手を振った。愛想のいい人だなぁ。外見だけで好感持てちゃう。


「祭」


 ヒロユキさんと話込んでいるとイミシュは俺の背後に来て耳打ちをしてきた。イミシュ……裏の者じゃないんだからそんなに警戒しないでくれるかな。背後からドッシリ威圧が伝わってくるんだよね。もうまじ勘弁して。


「どしたの」


「この男は誰だ」


「ちーちゃんの高校時代のお友達らしいよ。ヒロユキさんって言うんだって。イミシュは仮にもちーちゃんなんだから少し話合わせてね。変なこといっちゃだめだからな」


「善処する」


と、言いつつ絶対善処する気が無いイミシュの言い方に正直がっかりだよ。


「千尋が花屋に来るなんてなぁー。花なんて興味ないって思ったけど」


「そうか」


「花を愛でるっていうより花を潰すタイプじゃん!」


「あはっ。それ、わかります」


「お、祭くんもそう思う? だよねーだよねー。人様がせっかく植えた花を何食わぬ顔で踏み散らしそうだよねー」


「踏み潰した挙句、そこに花があるから悪いとか言いそう」


「あっはは! だよなー」


 何だろう、ヒロユキさんと話が合いそうな気がする。ちーちゃんのこと良くも悪くも知っているような。


でも。モヤモヤする。


なんでかなぁ。


「なんだなんだ、当の本人はだんまりですかー? 図星すぎて言い返せないのー千尋ー」


「馴れ馴れしい」


 やばい、イミシュ。それあかんやつや。


「ぶーぶー。相変わらず愛想ないなー」


 まじか。よかった! どうやら対応はあってるらしい!


「祭さんもこの男の対応にずいぶん泣かされてきたんじゃないの?」


「はい、まぁ」


「祭、中を見てくる」


「あぁうん。わかった」


ちょっといきなりなんですかイミシュ?! き・ま・ず・い! この人と二人きりにしないでっ! まったく初対面なんだけどっ。ちーちゃんがいるから俺しゃべれるんだけどっ。俺、人見知り激しいから何しゃべっていいかわかんないよっ。むしろ今のちーちゃんも初対面なんだけどね! ちーちゃんは別なんだよねっ。


「祭さんって確か、千尋と幼馴染なんだよねぇ」


「はい。そうです、ね」


「いいなぁー幼馴染とかー。俺、そういう人いないからさー」


「そうなんですか?」


「うん。親の都合で転校回数多かったし、また一からお友達作んなきゃいけなくってねー。広く浅くっていうお友達環境だったんだよねー」


「へぇー」


「あっはは。幼馴染が羨ましいとか無いもの強請りだけどねー」


「そんなことないですよ? 俺からしてみたら転校できるっていうのがすごく羨ましかったです。転校生とか来る度にいいなー俺も転校したいなーって思ってましたし」


「そうなんだー。転校ってめんどくさいよー? いろいろー」


 ヒロユキさんは一輪の白い花を持って薄紅色が鮮やかな花の束にそっと添えた。


「この子がこの作られた環境の中に飛び込むわけよ。同じ色に染まるか別に染まるかで分かれちゃうんだよね」


苦笑いをして弘幸さんは薄紅色の花束を掴んで右手に持つと白い花をまた別の赤の強い花の束へと添える。


「こっちにいけば、また別の環境。まぁ社会人になっちゃえばそんなの当たり前のことだけどねー。学生時代はこの環境の変化ってすごーく疲れがたまっちゃってたんだよねー」


「気苦労ってやつですか」


「そっ。俺なりにがんばった結果が俺を作ったわけですよねー」


ヒロユキさんは色鮮やかになった花束を胸元で抱えてフワリと笑った。


「ねぇ、祭さん。祭って呼び捨てで呼んでいい? 俺のことヒロって呼んでいいからさー」


「えぇ?! は、はい」


「やったねーっ。これで俺と祭はお友達ねー」


「あ、えっと、はい」


「ぶっ。千尋の言ったとおり押しにすごく弱いねー」


 ちーちゃん、この人に俺のことなんて言ったんだろう。いい面を言ってくれたんだよね。きっと、うん。


「あー、ヒロユキさんはどうして花屋に?」


「えーヒロユキさんってなにー他人行儀すぎてやだなー」


「ヒロ、さん」


「ダメー」


「ヒロ……」


ヒロって呼ぶのに抵抗はあるけど、ヒロが良いって言うんだからヒロって呼ぼう。


「おっけー! でも理由は教えないー!」


「えー!」


結局教えてくれないのかいー! ひどいなー!


「おっとっと。祭-。千尋はほったらかしでいいのかなー? なんか、女子に囲まれてるけどー」


「えっ、うそ」


「すごいなー千尋って女子吸引力半端ないよねー」


「ごめん行ってくる!」


「うんうん。俺も花買って帰らなきゃー。今度千尋と三人で遊びいこーなー」


「はいっ」


ヒロに手を振って俺は店内へ入るとわぉ、女子がちーちゃんに群がってるよー。おっと店員さんまでもが夢中ですか。ちーちゃんという花に群がる蝶々ってやつですかなー。花はいっぱいあるのにっ。ちーちゃん大人気だなっ!


「イミシュ! 何してるのっ」


「祭か」


女子の群れを掻き分けて俺の元へ来るとイミシュ。手元には可愛いメモ用紙が握られていた。


「残念だが、この花売りにはそれらしい花はない」


「うん、それはいいけどイミシュ何もらってたの」


「わからぬ。次々と渡された。この紙切れはなんだ」


 そう言って、イミシュは俺にメモ用紙を渡した。

折りたたまれたメモ用紙の中をそっと覗いてすぐに四つ折りにしてイミシュの手の中に戻した。


「女の子のメールアドレスと携帯番号をこうも安々ゲットできるなんて……!」


 軽くジェラシー。店内にはまだ女の子達がイミシュを見ている。居たたまれなくなった俺はイミシュの手を取って花屋を後にした。




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