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イミシュとちーちゃん  作者: 璃雨
ちーちゃんなイミシュ
1/3

思い起こせば俺はいつもちーちゃんに助けられていた。小さい頃は泣きべそばっかりな俺の手を繋いで泣き止むまで一緒に居てくれたし(といってもちーちゃんの嫌がらせが原因だったけど)小学校に上がれば苦手な算数の宿題を教えてくれた(といってもスパルタ過ぎていっつも半泣きだったけど)中学校ではいじめっこから守ってくれた(といっても口で言い負かしたあげく俺を盾にしていたけど)


高校は別々だったけど、入社した会社がたまたま一緒だった。


俺はてっきり大学へ進学するものだと思っていたから内心凄くビックリした。だってちーちゃんが受験した高校は県内でトップクラスの進学校なんだよね。就職するよりも大学へいってキャリアを積みつつ定職につくものだと思っていたから、あれれー? って開いた口が塞がらなくって金魚みたいに口をパクパクしてたら拳を突き上げてアゴをアッパーされてさ。綺麗に弧を描いて俺は地面にのたうち回っちゃってさ、それでこそちーちゃんだ! って三年ぶりの再会を喜んだもんだ。部署こそ違うけど、またちーちゃんと出会えたことが嬉しかった。


 ちーちゃんは総務で主にデスクワークの仕事をして働いていたから同じ仕事場でも会えないことのほうが多かった。頭をフル回転させて書類とにらめっこをするちーちゃんとは逆に俺は現場で常時身体を動かす仕事をしていたからね。残業も多少はあったけど、時間が合う日はちーちゃんはいつも俺を待っててくれた。


現場じゃあ理解していても同じミスを繰り返してしまう俺は、本当にバカで自分が悔しくなった日もあった。ちーちゃんに弱音を吐くとちーちゃんは俺の失敗は今に始まったことじゃない、努力してもお前のその根付いたバカさ加減は治らんから治そうとすること事態時間の無駄だとか容赦なくケチョンケチョンに貶してくる。慰めて貰えると思うなよって言う割には飲み行くぞって誘ってくれて愚痴をいっぱい聞いてくれたんだ。

 相変わらずなツンデレちーちゃんは昔のままだったけど高校生活で帝王学でも学んじゃったのかねー。人を惹きつけるカリスマ性はあるクセに協調性も社交性も学生時代に比べるとかなり欠けちゃっているんだよね。だって、俺ぐらいしか親しそうに話してる人みたことないもん。外面はいいハズなんだけど、たとえ友人だろうと上司だろうと玄関の前までしか招き入れなくてお前らとは腹をわって話さないっていう。まったく心を開かないっていうね。

 だから友達少ないんだよーって言ったら「お前さえいればいい」ってさ。何々ちーちゃん俺にベタ惚れですかー? って調子に乗ったらグーパンされた。まぁ……ちーちゃんの親友以上恋人未満な愛情に付いていけるのは俺ぐらいしかいないだろうな。


 「祭、これはなんだ」

 

 でも今はちーちゃんじゃない人がちーちゃんであって。俺の心はすごく複雑なんです。


「イミシュ、これ花の図鑑。ネットよりも図書館のほうが資料いっぱいあるし一冊づつみていこう!」


 ドサドサーっと運べるだけ運んで机の上に積んだら、中身イミシュという異世界人は興味深そうに視察して分厚い図鑑を手に取って本を開いた。

 本当は中央図書館じゃなくてちーちゃんと映画を見に行く予定だったのになー。有給使って休み合わせて車で行くよりたまには歩いていこうってことで子供みたいに歩道でしゃいでいた俺は足を滑らせてさ。ズルッと河川敷側へ足を持っていかれて、弾みでちーちゃんの袖を引っ張った。やばいって思ったらちーちゃんに頭からすっぽり抱き込まれて二人で転がったんだ。大の大人が二人して転がるって何やってんだろうな。絶対ちーちゃん怒っているんだろうと覚悟して起き上がったら、ちーちゃんは。


 ちーちゃんじゃなかったんだ。


『我はイミシュであり千尋。千尋はイミシュとなった』


とか、わけのわからないことを言い出した時は頭の打ち所が悪かったんだと思ったんだ。それか二重人格設定で俺をからかっているんだろうなーと。仕舞には『ここは地球か』とか聞いてくるし「ここはどこわたしは誰」を自分で解決しちゃって笑っちゃったんだよね。俺の名前も「朝倉祭」ってわかってたしやっぱりからかってんだなと。


ところがどっこい。


河川敷を歩いていたおばちゃんと犬を見て「ケルベロス使い?! 成敗!」と勢い良く啖呵を切って二人に突進していった時は「うぉおぉい!」って懇親のツッコミを入れさせて貰った。俺をからかうにしても他人様に被害を被ることはやめようよ! ってね。他人との絡みを極端に嫌うちーちゃんだからその異変に俺はすぐ気づいた。


 話をよく聞いてみると異世界から来たイミシュの魂とちーちゃんの魂が入れ替わってしまったらしい。イミシュって人はコミュ症なのか多くを語ってくれないし、カタコトの外国人のような雰囲気なんだよね。その言葉を拾って俺なりに文章を作り上げて理解するしかなかった。警戒しているのかわからないけれど、ただ『花を探している』ことと『異世界から来た』ってことぐらいしかイミシュの情報はない。


 あぁそれと『目的を果たせば元の世界に帰る』ってことだな。


「ちーちゃん、どう?」


 まだ半分もページがめくられていない図鑑を見て俺はイミシュに問い掛けた。


「……我はイミシュである」


「ごめん、イミシュ」


「我が求めるものはここにはない」


「と、いうと?」


「無意味」


 ほぐぁっ!! 無意味ってなんだ。ちーちゃんじゃないけどちーちゃんだったぞ今の言葉。無意味って「(お前のやってることは全くもって)無意味」ってこと? 想像力がガンガン働いて貴方の言いたいことを勝手に作っちゃうんだけど! ネガティブなほうにね! 

 

「でも、花を探しているんだよね」


「そうだ」


「花、だよ? それ」


「そうだな」


 なら、無意味ってことないと思うけどなぁ。効率が悪いから無意味って言いたいのかなー。うーんわからん! イミシュの言葉を深読みしながら俺はページをゆっくり開くイミシュの正面に座って肩肘をついた。


 ちーちゃんは書類やらなんやら目を通すときは眉間にシワを寄せたり、俺が話しかけるとこめかみに血管が浮いたりするんだけど、イミシュは全くの無表情だ。その顔で無表情でクールって……どこの御曹司キャラですか。いやーそれはそれでいいけどね! でさでさオープンカフェで新聞片手にコーヒーを飲む無表情ちーちゃん。やばい、いいね。絵になるよちーちゃん、俺それありだと思う。


「顔とスタイルだけは無駄にいいもんなー……ちーちゃん」


「……祭?」


「ひっ! ごめん! ちーちゃんで妄想してごめん!」


 持ち上げた図鑑の角でガツっと頭をヤラレルかと思ってとっさに謝りながら防御体勢を取ったらそんなことはなかった。およよーだ。中身、イミシュだってこと忘れてるわ。ちーちゃんの攻撃的なスキンシップが身体に染み付いてしまっている。


「怯えているのか」


「う、うーん。怯えるっていうか……叩いてかぶってじゃんけんぽんみたいな……」


「わからぬ。が、お前はこの千尋に支配されているのだな」


「支配……といえば支配されていますね……」


「覇者か」


「覇者と言えば、覇者ですね……」


「……ほう」


 何を納得されているのですかね。


「あぁでもね。暴力的で無愛想だけど、優しいんだよ? 俺が好きな女の子に振られたときとか仕事で落ち込んだときとか一緒に酒飲んでくれたし、動物みてはデレデレしているし、今日だってね本当は車で俺ん家まで迎えに行くっていってたんだけど断わったんだ。一緒に歩いて行きたいーっていったら渋い顔したけど付き合ってくれたし……」


……思い出しながら話すと、胸が締め付けられるのな。なんだろこの気持ち。


「千尋は覇者であるが我が千尋となった。千尋はイミシュであるゆえ、真に覇道を貫く者ではない」


 ん、うん? つまりは優しいのわかってますってことかな。


「祭、千尋は良い男だな」


 そう言って、イミシュは口元を緩めて細く微笑んだ。 人妻キラースマイルキター。人妻に限らず今の微笑みは誰だってイチコロだぞっ。俺も気が緩んでるとドキってなるんだよな。いい笑顔なのにちーちゃん人前で全然笑わないもんな。笑うときはフンって鼻で笑うくらいだし。口角が上がる笑顔は超貴重。自分で自分をいい男って言ってるなんて笑っちゃうけど、ちーちゃんがいい男っていうのは賛成!  


「当たり前だよ。だからイミシュ、早くちーちゃんを返してな」


「花さえ見つかればいつでも」


「花かー……図鑑でダメなら花屋でも回るかなぁ……」


「花屋? 花売りがいるのか」


「うん」


「祭、我を導け」


「命令口調はちーちゃんそっくりだなー……」


あぁわかったよ。ちーちゃんに言われれば仕方ない。



イミシュとちーちゃん連載版です。

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