勇者なのだから、こういうこともあるかもしれない
「もうすぐだな……」
俺たちは、長い旅の末に、ようやく魔王城周辺まで辿り着いたのだ。
俺は魔王討伐の使命を負って生まれた勇者だ。
今は明日の魔王城突入に備えて魔王城近くの森の中での野営の真っ最中である。
「えぇ、ようやくね……長かった……。」
そう呟くのは隣に立った女戦士。
俺の背中を預けられる大事な戦友で恋人でもある。
出会った頃は拙かった剣技も今では俺にも引けを取らない腕前だ。
「まだ終わってはいませんが……感慨深いものがありますね。」
そう言ったのは少し後ろに立つ魔法使いだ。
俺の幼馴染の男で、王宮に勤めていたが不遇な扱いを受けていたので、この旅に連れ出したのだ。
魔法の腕は優秀なのだが、そのせいで上役に疎まれていたらしい。
「魔王を倒すまで気を抜いては、いかんぞ。」
説教めいたことを口にするのは既に座り込んでいる神官である。
王宮からのお目付け役的な感じで付いて来たの髭面のオヤジだが、真面目過ぎて融通が効かないのが玉に瑕だ。
見た目こそ、渋いオヤジで世慣れしている様に見えるが、その実、かなりの世間知らずだった事が旅に出てから発覚したりもした。
「……今日は、明日に備えて早めに寝よう。」
明日への準備を入念に済ませると、皆、早々に床へと着く事にしたのだった。
そして、俺は眠れないでいた。
今まで数多くの魔族を倒してきたが、魔王はそれの遥か上を行く強さだという。
俺たちの戦力でも十分倒せるはずだが、不安を覚えるのだ。
それ故に不安を紛らわせる為に口に出してしまったのかもしれない。
「明日は、皆で生きて戻るんだ!そして……あいつに結婚を申し込む!」
誰も聞いていなかったはずだが、これが俗に言う『不幸を呼ぶ言葉』になってしまったのだろう。
いつのまにか、俺は強い魔力に包まれ、抵抗する暇もなく意識を失ってしまったのだった。
「うっ……。」
呻きとともに意識が戻り、頭を振って起き上がる。
気が付くと、見知らぬ場所に倒れていた。
天井があり石畳であることを考えれば建物の中なのだろう。
少なくとも、俺たちが居た森ではない。
そして、多くの人間が俺を取り巻いて立っている様だ。
そう、この場にいるのは俺だけだ。仲間たちの姿は見えない。
「……お目覚めになられた様ですね。勇者様。」
一番近くにいたドレスを着た女性が、そう言いながら近付いてきた。
俺が意識を失っている間に、一体何があったのだろう。
「不躾なお願いながら、勇者様には私たちの世界を救っていただきたいのでございます。」
さすがに、この展開は予想外だった。
こうして俺は、自分の世界の魔王討伐直前に異世界での魔王討伐の為に勇者として召喚されたのだった。




