くじら
その町には、ももが飛んでいた。
青い空は過ぎた時間を巻き戻すように波打ち、空を見上げる若者たちを妖艶に誘っていた。
僕はアスファルトで舗装された道を南西へと歩き出した。
道路脇に並んでいる木々は、ふざけながら走っていくこどもたちよりも背が低かった。
行くあてのなかった僕は、みけねこについていくことにした。
「あの白い色は希望のしるしだよ」
にわかに僕は混乱した。
この世界には、どこにも白なんてなかった。
雲さえも白という色を忘れてしまっていた。
「ここは川。みんなの夢が集まるところ」
僕たちはいっしょに顔を洗った。
濡れた手をズボンで拭きながら、しばらく川辺に立っていた。
すると、透明な泡が、ぷかぷかと空へ上がっていった。
僕たちは芝生の上に座って、それを見ていた。
遠くから、汽笛の音が聞こえた気がした。
「ボクの寝床にくるかい」
みけねこはぴょんと柵に飛び乗った。
僕は走ってあとを追った。
みけねこはどんどんはやくなって、ついに見失ってしまった。
僕はみけねこを呼んで探した。
ひとりのおんなのこが、木のかげから歩いてきた。
「なにをさがしているの」
だいじなものを探しているんだ。
「わたしもだいじなものをなくしちゃったの。いっしょにさがしてちょうだい」
僕はうなずいた。
はじめに、おんなのこが来た道を探してみた。
公園を通って、踏切を渡って、パン屋さんの横を歩いた。
見つかったのは、ビー玉一個だけだった。
「くらくなってきちゃったね」
空はもう、動かなくなっていた。
僕は泣きそうなおんなのこの頭をなでた。
ポケットに入っていたおはじきをあげると、おんなのこはわらった。
「ばいばい」
僕は手を振って、じゃり道を歩き出す。
右にあったポストは、退屈そうに大あくびをしていた。
空からあめ玉が降りはじめた。
僕は草っぱらを走って、木かげに入った。
「やあ、おそかったね」
足もとを見てみると、みけねこがごろんと寝そべっていた。
僕がとなりに横になると、みけねこは安心したようにごろごろといった。
「おやすみ。かわいいぼうや」
僕はゆっくりとまぶたを閉じる。
また、あのおんなのこと会えますように。