悪友との放課後
今日は特に担任の谷口がいろいろと溜まっていたらしく、帰りのSHRはヘドが出るほど長かった。
それが終わったときには谷口のほうはすっきりとした顔をして、それに引き換え生徒は退屈で死にそうになっていた。
その時俺は、教師は日々、そこまで問題を抱えているのかという事に、特に気にせずに半分寝て過ごしていた。
「さっき退屈な話聞いたところだし気晴らしにゲーセン行って遊びばない?今日も勝つけれど」
目の前に日本人形のように髪が胸の辺りまでかかるほどある少女が仁王立ちで立っている。
「悪い、今日は無理だ。少し前にどこかのアホのおかげで大半数の俺の金を使われてしまった。お前の金で遊ぶのも気が引けるからな帰るよ」
かばんの中の最終チェックを終え、かばんをしょった。
「そのあんたのお金を使ったのって、やっぱり雅?」
「よくわかったな」
「それ以外にあんたのお金を使う人を知らないから………」
「そうか。そういうわけだから、俺は帰らせてもらうか。」
「それじゃあ……一緒に帰らない?……」
「へ?」
席を立つときに何もごもごと言ってるんだ?
「だから、一緒に帰ろうって話!どうなの、帰るの帰らないの!?」
彼女は顔を紅くして叫んだ。
「帰るよ、帰る。一緒に帰るからそんなに怒らないでくれ」
人は怒ったって何もいいことはないんだし。
「……一回で答えてくれれば………」
「何もごもご言ってるんだ?早く帰ろうぜ」
俺はまだ俺の机の前に立っている彼女に声を掛ける。
「わかってる」
彼女は小走りで駆け寄って来る。
「ボーッとしすぎるといろいろと大変だぞ。電柱にぶつかったりとか側溝に落ちたりとか」
彼女が隣まで来た時にそういうと、彼女はそのままはや歩きの間々行ってしまった。
無視かよ。それよりも一緒に帰るんじゃなかったのか?あいつは。
彼女はさっきの行動が嘘のように一人ですたすたと歩いていく。
生徒玄関を抜け校門に差し掛かった時、急に歩く速さが弱まった。
「ねぇ?」
「なんだ?急に」
すると突然長く黒い髪をいじりながら
「あんたってやっぱり髪は短い方が好きなの?」
あいつは振り返り上目遣いで急に聞いてくる。いつもそんなことしないだろ。それ反則だぞ。
「ど、どうしてそんなこと聞くんだよ、急に。取り合えず歩こうぜ」
コクりと頷くとゆっくりと歩きはじめた。
「ほら、雅とか髪、短いじゃん。そういうのがあんたの趣味なのかなって」
「ああ、あいつは。親の趣味だ。何でも汚れた時に洗いやすいとかそんな感じだったけど。お前の髪だって綺麗じゃないか。そういうのも好きだけどな」
「ホントに?」
パアッと彼女の顔が明るくなった。
せわしないやつ。
「日本人形みたいだよなホント。市松人形ってやつ?」
パンッ!!
「最ッ低、なに?ほかに言えることないの!」
顔をビンタされた。思いっ切り。
彼女を見るとそれはまあ恐ろしい鬼の形相と再びなっていた。
おお、こえぇ。
「ほら、そこまで手入れするのってやっぱり大変だろ?だからそれくらい綺麗だって言いたかったんだけど、悪く捉えられてしまったなら謝る。スマン」
「あんたにそんなこと言われても許さないから、何回そう言うなって言ってると思ってるんの!!」
鬼の顔は崩れたみたいだが怒りは収まってないようだ。
「怒っててもかわいくないぞ。笑えば綺麗なんだ。笑ってないと損だぞ」
そういいながら頭をとんとんと彼女の髪が崩れないように気をつけながら軽く叩く。
「またそんな事して、むやみに人の髪を触らないでよ。犬や猫じゃないんだから……」
言葉の最後のほうは萎むように声が聞こえなくなったが気にする問題ではないだろう。
少し歩いていると急にあることを感じた。
それは遊ぼうと彼女に誘われて、いけないと断ったからにはあいつ、埋め合わせをしろとか言いそうだ、ということだ。
「な、なあ」
「……え!な、なに?」
会話が少しの間止まっていたからだろう。いきなり呼び止められ驚いたようだ。
「向こうにクレープ屋があるから一つおごるよ」
俺が指を指す方向に移動式のクレープ屋がクレープを売っていた。
「え?」
「ほら悪い事しただろ。遊びに誘ってくれたのに行けなくなっちまったし。だから一つくらいおごるよ」
「うそー。それなら早く行こう♪」
鼻歌混じりに彼女は、クレープのワゴンに駆けていく。
「早くしてよ。おいしいの売り切れたらどうするの?」
満面の笑みで振り返る。
本当にせわしないやつだ。
「これ買って、これこれ」
彼女が指差したそれはイチゴチョコ生クリームだった。
若干、値が張るやつを狙ってきたらしい。
女難の相でもあるのか?
金がどんどん女に吸われている気がする。
「あんたは買わないの?」
「無意味に使いたくない、好きなことに使いたいんだ」
彼女は笑顔でクレープを食べながら聞いているが、それは俺が買ったんだぞ。
少しはそれくらい考えてほしい。
「なに?食べたいの?いいよほら」
差し出されたそれは、既に口が付いているものだった。
「一人で食えよ。帰れば食い物くらいある」
間接キスは遠慮してほしい。
「いいから。ほら、おいしいよ」
そういわれ無理矢理に口に入れられた。
たしかにうまい。ちょうどイチゴがあるところだから甘酸っぱいイチゴとチョコレートや生クリームという甘い物のマッチがとてもいい。
「う、うまい」
「でしょ?」
本当に甘いもの好きなんだな。
幸せそうな顔してる。
「食い終わったか?早く帰るぞ」
「え、なんで?」
「それは、俺の家にうるさいやつがいるからな」
「そっかぁ。それじゃあしょうがないよね。」
俺が口を付けたことなど気にしないようにパクパクッと残りをたいらげた。
笑顔でいてくれるのは嬉しいからいいか。
クレープを食べ終わり多分こばらを満たしホッとしている彼女に話し掛けてみる。
「なあ、明日にでもお前のうちに行ってもいいか?」
「え?な、なんで?」
「俺の部屋は、どうしても意味不明な付属物が存在しているから、だったらほか行って勉強もしたいなって」
「そ、そうなんだ。でも、図書館とかほかにも勉強できるところはあるよ?」
「お前、寮の隣の部屋だろ。勝手に決められた門限とか考えるとお前の部屋が楽なんだ」
それを聞くと彼女はため息を付いて、
「それって寮則に反してない?見つかったら大変だよ」
「そういうときは、話せばわかる。学生なんだから、隣の部屋に勉強教わりに行ったって言えば、いくらあの寮官でも………」
彼女は再びため息。
「許してくれないと思う。い、異性の部屋に行くんだから」
急に顔を赤めらせた。
「大丈夫、そんなふうに思ってないから」
バチンッ!!
本日二発目の平手。
「バカ、そういうことを考えなさい!!……だからいつも……」
「勉強するのに性別は関係ないだろ。大丈夫、大丈夫」
顔を紅くしている彼女の頭を軽く二回叩く。
しかし次に反されたのは力いっぱいのパンチだった、腹にむけての。
クソ、痛え。
マンションのような学生寮につくまでは、パンチを喰らってから時間はかからなかった。
「さっきのこと考えてくれよな。じゃあさよらな」
ドアを開くと、あのアンドロイドが仁王立ちしていた。
「またお隣りといちゃついてたんですか?いい御身分だことですね」