その6 ヒデとシークと大ヒント
列車事故から1週間たったある日のこと。
「ここで遊ぶってのは?」
「たまにはそれもよかかもしれん。」
「ここで何をするんだ?」
てなわけで、今日はなぜか知らんがHIDE AND SEEK、かくれんぼをしかも大学内で!!
・・・ふっふっふ。
絶対に見つからない自信アリだ!!オニの美里には悪いが、今日のおれは本気だぜ!
前々から気になっていたこの場所。少々狭いが、確実に見つからないポイント。まぁ、腕が少し疲れるけど・・・
くっくっく。自分から絶対に勝てない勝負を言い出すとはな、美里!ぼけつ〜。たとえ相手が明智小五郎だろうとポワロだろうとシャーロックホームズだろうと逃げきる自信があるぜ!!
・・・・・・
・・・・・・
かくれんぼって基本的にオニ以外は暇なんだよな〜。
・・・・・
もう20分ぐらい経ってる気がする。
携帯を見てみようか。15分。やっぱりただ待つだけだと時間は緩慢になるな。
そろそろ腕が疲れてきた。
ごり・・・
ごり・・・
・・・・?
頭上で何かを動かす音がする。
ごり・・・
ごり・・・
まぁ、ここはマンホールの中なんだから上で音がするのは当たり前か。
止んだみたいだ。
もうみんな見つかったんだろうか?茜はともかく慶二はなかなかに手強いからな。
美里も苦戦してるのかもしれない。
もう一度携帯を見る。
30分
隠れるているのにもうんざりしてきたのでちょっと慶二にメールを打ってみることにした。
はしごに掴まっているので落とさないように打つ。
『現在の状況は?』
送信。
ピリリリリリリリリリリリリリッッッ!!!!!!
どわあああああああああっっ!!!
はぁ、はぁ、はぁ、・・・・・・・・・・・
びっくりしたぁ・・・。
静かなマンホールの中に30分いたうえに、密閉された空間で大反響した携帯の音に心底驚いてはしごから危うく落ちるとこだった。
マナーモードに設定。
『お前どこにいるんだ。もうとっくにみんな捕まってる。』
・・・・・ふっふっふ。
油断させて出てきたところを捕まえようってか?その手は桑名の焼きハマグリだぜ慶二!
辛抱辛抱・・・・。
さらに3分たった。携帯のバイブがなる。バイブにしてても結構音がするもんだな。
美里からだ。
『タツミどこにいるの?もうみんな捕まえたから出てきなよ。』
読んでいる最中に茜からもメールが来た。
『出ておいでよ。みんな捕まったって。』
・・・・・三人からメールが来るってことはホントにみんな捕まったらしい。
考えてみれば、美里からならともかく慶二からひっかけのメールが来るのはおかしいか。
なんだ。もっと早く出ればよかった。はしごを上がってふたを持ち上げる。
ずるっ
「うわっ!」
あ、あぶないあぶない。足を踏み外しそうになってしまった。
なんでこのふたこんなに重いんだ?
・・・・・あれ?
もう一度持ち上げようとするが・・・・上がらない。
入るとき持ち上げた時はこんなに重くなかったはずだ・・・・。
・・・・・・冷や汗。ちょ、ちょっと待て。なんでふたが開かない?
冷静に、冷静に、えー、BE KOOL、BE KOUL、あ、COOLだった。あっはっは。
もう一度チャレンジしよう。きっとあっけないぐらい簡単に持ち上がる。
そおれ!・・・ぐ。
そういや先刻のごりごりって音は・・・。何か重いものがふたの上に乗ってる?おれがいるのに気づかないで?
やばい。やばいやばいやばいやばいやばい!!閉じ込められた!!
下に真っ暗につづく縦穴。ここを降りる?無理だ!どうしようどうしようどうしよう!!
声の限り叫ぶ!!
「謝るから!美里のコーヒーに墨汁まぜたの謝るから!教室の入り口に黒板消しはさんだのも謝るから!コンビニでペコちゃんキャンディーの持つとこ折り曲げて遊んだことも謝るから!慶二の作った折り紙に着火したのも謝るから!茜の靴を地面にアロンアルファで接着したのも謝るから!全部謝るから、出してくれっっ!!!!」
その時、上から光が漏れてきた。
「・・・え?」
「ほら、タツミ。みんな捕まったんだってば!」
美里の声。
「み、美里?」
「上に書類の詰まったダンボールを積まれてたから出られなかったんでしょ?」
茜も慶二もいる。ああ、そうだったのか。助かった。
「なんでここが?」
「みんなでタツミば探しとったらお前がわめいてんのが聞こえたったい。」
「ダンボールの下に気づくのには時間がかかったけどね。」
「まぁ、かくれんぼの勝者はタツミだね。」
「あはははは、ありがとな。おれもうダメかと思っちまったよ!」
「うん。なんかいっぱい謝ってたもんね。」
なにやら美里がゆっくりと微笑む。
・・・・え?
さっきと同じ冷や汗が吹き出る。
「え・・・。もしかして・・・聞いてた?」
「ふふふ。イロイロとね。」
なんか皆さんが殺気立っているのがわかる。
「あ、あれは、ほら、な!?」
「慶二、やっちゃって!」
「な、慶二さん!?ちょ、ちょっと!」\
ごぉぉん・・・・。
ごり・・・。
ごり・・・。
ごり・・・。
まだ当分マンホールのなかで服役しなければならないようだ。
・・・こっから出して?
*
反省したことが認められて、出所した時にはもう暗くなっていた。
ここ数日で殺人とか事故のショックてのはある程度おさまったが、なにか心に引っかかるものがある。殺人事件と列車事故のあいだになにかつながるものがあって、それがあまり良くない物の様に感じる。なんとなく最近体調がよくないのは多分、そのせい。
ふと、慶二が言っていたことを思い出したので美里に訊いてみる。
「美里大丈夫なのか?」
「なにが?」
「こないだ2日連続でなんかすごい出来事が続いて、しかもいきなり慣れないおれの家に住むことになって、いろいろ疲れてないのか?現に耳鳴りもあったし。」
「ありがと。殺人とか事故とかはそれはショックだったけど、ここは居心地がいいし、心配しなくてもいいんだよ?」
まあ、ほっとする。
「でも、耳鳴りはするけどね。」
「・・・え?そうなのか。」
「うん。でも昔からだし。」
まあ、それは知っていたけど。
「あ、でもなんか、隣の道におっきくて古い家があるじゃない?」
「ああ、前田さん家か。あるな。それが?」
「あそこの前を通ると、耳鳴りがしたんだよね。わりと強く。最近はなくなったけど。」
「そうなのか?」
前田さん家はたしか、2世帯住宅で、寝たきりのおばあさんとその息子夫婦が住んでいたはずだ。でも、そのおばあさんはおととい亡くなってしまっている。救急車が止まっていたから何事かと思って見ていたら(野次馬だけど)、おばあさんが運び出されていて、それに他の家族が付き添っていたのを見た。だから、なんとなく家族構成は覚えているのだ。
「あ、おとといだった気がする。そうだ、おとといになってぷっつり止んだんだった。たまにそういうことがあるんだよね。耳鳴りがだんだん強くなって、ある日ぷっつり止まるの。」
・・・・え?
おととい・・・?
おばあさんがなくなった日じゃないか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「タツミ?どうしたの、黙り込んじゃって。」
結構な時間一人でだまってたらしい。
美里は心配そうに話しかけてくる。
「あ?ああ、おう。なんでもない。」
おれがなんでもあるように見えたのだろう、心配そうな顔をする。いきなり話しかけられたら動揺しただけなんだけど。
「いや、ホントになんでもないって。・・・・そうだ、今日の晩飯はどうするか?」
「・・・なんでもいい。どうせ作らせてくれないんでしょ?」
「・・・いや、じゃあ、作ってくれよ。」
「え?・・・タツミ、本当に大丈夫なの?なんか死刑宣告をうけた囚人みたいな顔してる。」
そんな顔してるのか・・・。
「まあ、いいけどさ。本当に作るよ?いいのね?後悔しない?絶対?」
そこまで自信ないのか?
「ああ、後悔しない。」
「・・・・本当に変。」
美里が料理を始めた。
なんかさっき、ほんの一瞬だけど何かの答えが出た気がする。でも、それに気づいたらダメな気がしてそれ以上考えたくない。・・・・と、思うんだけど、そう思えば思うほど考えてしまうわけだ。人間って不思議!
・・・・・考えないためには寝るのが一番か。
「・・ミ?・・ミってば。・ツミ!」
「タツミ!!」
「・・・へ?」
寝起きとはいえ、やたらと間の抜けた声を出してしまった。すこし赤面。
「ご飯。できたよ。」
ああ、うたたねしてしまったらしい。見ると外はもう暗い。
今日はちゃんと本を読みながら作ったらしく、まともな料理が出てきた。
「なかなかでしょ?」
「ああ、びっくりした。」
決して上手とは言えないものの、まともである。『彼女が一生懸命作ってくれたもの』って言っても問題ないと思う。
魚の煮付け、きんぴらごぼう、味噌汁。それぞれおいしく味わっていると、美里が口を開いた。
「ねぇ、あしたうちに帰ろうと思うんだけど。」
うち、と言うのは美里の家のことだろう。
「もういいのか?」
「・・・わかんないけど、多分大丈夫。家賃払ってるのに住まないなんてもったいないもん。タツミにも迷惑かけるし。」
「そうか。おれはかまわないけどな。」
まあ、すこし寂しいけど、いつまでもこのままと言うわけにも確かにいかないか。
「じゃあ、最後の晩餐と言うことで。」
「うん。」
これから段々と話が暗くなっていきますので注意




